第40話 シグムス城
智将に連れられて、ルナルたちはシグムス城へと到着する。街と城との間にも壁が張り巡らされており、その周辺はオアシスが広がっていた。本当にオアシスに城を築いていたようである。
ふと見上げた城壁には、何やら見慣れない得体の知れない武器が備え付けられている。
「智将、あの武器って何なんだ?」
「あれは機械弓というものでな、人が引き絞る普通の弓よりも強力な射撃が行える武器なんだ。時には矢ではなくて投擲槍を飛ばす事もある。ただ、もの凄い重量だから、移動させるのは困難だけどね」
セインの失礼な言葉遣いを気にする事なく、智将は淡々と答えている。
「この砂漠に棲む魔物の中には、殻の固い連中も居る。そういった魔物に対して、とても有効な武器なんだ。みんながみんな、魔法を使えるってわけじゃないからな」
「へえ~」
セインが驚きの声を上げているが、果たしてどこまで理解しているのやら。
「ちなみにその飛ばす矢や槍に仕掛けを施しておけば、目印にする事も出来るんですよ。本当に驚くような知恵や工夫を行う事で、シグムスは魔族や魔物たちの襲撃を幾度となく凌いできたんです」
ルナルが説明を加えているが、セインにはどうにも理解ができているようには思えない。どうにも頭を使う事が苦手な若者のようである。その反応にはルナルも呆れるばかりだった。
「先程智将様も仰られた通り、この国の兵士たちは魔法を使えない一般兵が多いんです。そんな彼らでも魔族たちと戦えるようにと知恵と工夫を凝らしてきたんです。そういった努力の結晶なんですよ、あの武器は」
「ふっ、その通りだ。よく勉強してきているね」
「さすがルナル様です!」
智将に褒められるルナルの姿に、感嘆の声を上げるルル。
「いえ、以前お会いした時にはお恥ずかしいばかりでしたから。そりゃもう、必死にお調べしましたよ」
「ふふっ、マスターくんと一緒に来られた時が懐かしいな」
そう言って、ルナルと智将はお互いに笑っていた。
ルナルたちは城の中を進んでいく。長い廊下を歩き、階段を上がる。そして、また長い廊下を歩き、角を曲がる。そうしてしばらくすると、目の前にきれいな絨毯が敷かれた廊下が現れた。
「さあ、そろそろ着くぞ」
絨毯の敷かれた廊下を進んでいると、智将がとある部屋の前で止まる。様子から察するに、ここが智将の部屋のようだ。
それにしても、装飾などが施されて豪華な飾りつけになっている廊下とは違い、一枚扉に取っ手がついているだけの簡素な扉がそこにある。かえって違和感が凄かった。
智将が扉を開けて、ルナルたちを部屋へと招き入れる。
「お帰りなさいませ、智将様」
すると、部屋の中にはすでに誰かが居たようで声を掛けられる。よく見ると、そこにはローブ風の軍服に身を包んだ女性が立っていた。
「なんだ、待っていたのか」
「はい、智将様が自ら客人をお迎えに向かわれたと聞きました。智将様がそのような対応をなされる客人を早く見てみたいと思いましたので、失礼だとは思いましたが、こうして部屋でお待ちしておりました」
女性は頭を下げている。
その女性を見たルナルは、明らかな動揺を見せる。目の前の女性はそれに気が付いたようで、くすっと小さく笑っていた。
「そこに来客対応用の机と椅子がある。長旅で疲れているだろうから、座ってくつろいでいてくれ。すぐに飲み物を持ってこさせる」
「では、お言葉に甘えて」
智将の言葉に、ルナルたちは示された場所にあった椅子へと腰掛ける。そして、智将も腰掛けると、女性が既に持って来ていた飲み物をコップに注いで目の前に出す。それが終わると、女性も智将の隣へと腰掛けたのだった。
こうして全員が椅子に座って落ち着くと、智将が話を切り出した。
「ルナル殿、イプセルタで行われる会議の話は聞いていますかな?」
「ええ、存じていますとも。アルファガドにも参加の要請が来ましたから」
飲み物をひと口含むと、ルナルは質問に答える。
「そうか。では、ルナル殿も参加の予定なのかな?」
ルナルの回答を聞いた智将は、再度質問をぶつける。
「はい。アルファガドからはギルドマスターであるマスターと私が参加する予定でございます」
ルナルからの回答を聞いた智将は、顎を抱え込む。
「それで、動向というものが気になりますかな?」
「もちろんですよ。私とてハンターですからね。活動する上では世界の情勢というのには興味がありますよ」
ルナルの返答を聞いて、智将は隣に座る女性に一度目を遣る。そして、再びルナルの方へと視線を向けると、思わぬ言葉をぶつけてきた。
「そうか、ハンターとしてか。……だが、本当は別の立場として、気になっているんじゃないのか?」
話の蚊帳の外であるセインとルルは、智将の話をただ聞いているだけだったが、この言い回しにルナルだけは違った反応を見せた。
「別の立場ってどういう意味なんですか? 一体何が言いたいのですか、智将様」
どういうわけかルナルが怒っている。それでも智将はまったく気にしないで話を進めようとしていた。
「ここで私の隣の女性を紹介しようと思う。彼女の名前は『サキ』といって、我がシグムス軍の副官を務めている。つまり、私の補佐官だ」
「サキと申します。以後お見知りおきを」
さっきまでかぶっていたローブのフードを取って挨拶をするサキ。その姿を見たルナルは明らかに動揺しているし、セインとルルもわずかにだが驚いたような表情を見せた。
「やはり、その反応を見る限り知り合いのようだね。今までは冗談半分に聞いていたけれど、これでサキの言葉は事実だったと確認ができたよ」
「それは……どういう事ですか?」
ルナルは眉をぴくりと動かし、睨むようにして智将の方を見る。だが、智将はその程度に怯むわけもなく、予想もしなかった言葉を口にしたのだった。
「それはだね、ルナル殿。君が魔王だという事だよ」




