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神槍のルナル  作者: 未羊
第一章『ハンター・ルナル』

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第26話 村に戻って

 ジャグラーを打ち倒して4日ぶりに村に戻ってきたルナルたち。村に踏み入ったルナルたちの目の前には、実に驚くべき光景が広がっていた。

「えっほ! えっほ!」

「おーい、こっちの柱が足りないぞ!」

「悪い、今切ってるから少し待ってくれーっ!」

「はい、みんな。差し入れ持ってきたわよ」

「おー、悪いな。頂くよ」

 なんと、村人とゴブリンが一緒になって、ボロボロになっていた村の家屋などを修繕しているではないか。しかも、いがみ合うような様子もなく、何とも和気あいあいと協力しながら作業をしているではないか。

 よくよく見てみれば、なんとそれだけではなかった。

 家屋を修繕しているのはもちろんの事、畑を耕していたり、破けるなどボロボロになった衣服を補修していたり、料理をしていたりと、その共同作業の内容は村の営みの多くに渡っていた。人間と魔族が共同で作業をしているその光景に、ルナルたちは目を疑ったのだ。

「これは……一体どうしたというのだ?」

「いやはや、これは私も驚きですよ」

 予想外の光景を目の当たりにしたルナルたちが村の入口で呆然と立っていると、村人の一人がその姿に気が付いて声を掛けてきた。

「あっ、あのお姿はルナル様?! お帰りなさいませ!」

 周りに聞こえるくらいに元気のいい声だ。その声につられるように、他の村人やゴブリンたちも体を起こして顔を向け始めた。その様子に、ルナルたちはちょっと戸惑いながらもなんとか平静を装おうとする。そして、

「ええ、ただいま戻りました」

 どうにか笑顔を作って答えていた。

「ルナル様、ご無事に目的は果たせましたでしょうか」

 駆け寄ってきた村人が、心配そうに尋ねる。その様子に、ルナルはセインたちと一度顔を合わせ、

「はい、無事に元凶であるジャグラーを討ち取ってきましたよ」

 村人やゴブリンたちに元気いっぱいに報告したのである。この報告を聞いた瞬間、ルナルの周りに集まっていた全員が歓声を上げた。そして、一部の村人たちは走り出し、あっという間に村中に伝えに回っていた。

「おお、さすがはルナル様!」

「我らが主、ゴブリック様の仇……、感謝致しますぞ……!」

 村人やゴブリンたちが、口々に賞賛やお礼の言葉をルナルたちに伝えている。あまりにみんなが押し寄せてくるものだから、さすがのルナルたちもちょっと気圧されてしまっていた。そして、誰からともなくこんな声が上がる。

「皆の者、今夜は宴だ!」

「おおーっ!」

 この声を発端として、全員の士気が一気に高まる。すると、全員の作業スピードが上がったように思えた。張り切りすぎとも思える光景だった。

 その光景を再び呆然と眺めているルナルたち。すると、近くに残っていたゴブリンが声を掛けてきた。

「すまねえな。この村の状況については宴の時にでも説明させてもらうでさあ。ルナル様たちはジャグラー討伐でお疲れでしょうから、あちらの建物でゆっくり休んで下せえ」

 ゴブリンはそう言いながら、1棟の建物を指差していた。そこには他の建物と違って、ちょっと頑強そうな建物が建っていた。

「は、はあ。そう仰られるのでしたら、言葉に甘えさせて頂きましょう」

「そうですね。ちょっと状況が分かりかねますが、そのように致しましょう」

 ソルトもちょっと状況を判断しかねているようだが、特に村人たちには怪しい動きは見えない。なので、今はゆっくり体を落ち着けるべく、指定された建物へと移動する事にした。その時、ふとルナルはセインの方を見ると、そこには表情の硬いセインの姿があった。

「どうかされましたか、セイン?」

 じっと村人たちの様子を凝視するセイン。ルナルに声を掛けられてびくりと体を震わせていた。

「いや、何でもない」

 この時のセインの様子にルナルは首を傾げたのだが、セインもおとなしく移動を始めたので、気のせいかと思って同じように移動を始めたのだった。


 案内された建物でルナルたちが休んでいると、そこへ少々年老いた男性と、ゴブリックよりも筋肉質なゴブリンが入ってきた。様子から察するに、おそらく村長とゴブリンの代表だと思われる。

「お疲れのところ、失礼致します。わしはこの村の村長でございます」

「我はゴブリック様亡き後、代理として長を務める事になったゴブールと申す」

 二人は床に座り、ルナルたちに挨拶と共に頭を下げた。復旧真っ只中の村にテーブルなどはなく、ルナルたちと村長たちが向かい合うように座っている。

「ルナル様、この度はこの村をお救い下さり、誠に感謝申し上げます」

「我からも礼を言おう。ゴブリック様の暴走を止めて下さった上に、その敵討ちまでして下さった。その行動に、ただただ頭が下がる」

 村長とゴブールが揃って頭を下げ、ルナルたちに礼を述べている。

「いえいえ、私たちはハンターです。その使命として、当然の事をしたまでです。そこまで、畏まらないで下さい」

 ルナルは両手を左右に振りながら言うものの、村長とゴブールは頭を下げたままで、一向に頭を上げる気配はなかった。

「なあ、ところで、なんであんな事があったっていうのに、村人とゴブリンが一緒に過ごしているんだ?」

 そこへ、空気を読まずにセインの質問が飛ぶ。ルナルが何言ってるのというような慌てた表情をしているが、セインの言葉に顔を上げた村長とゴブールはきょとんとしてお互いの顔を見合わせていた。しばらくすると、どういうわけか二人揃って笑い始めた。その様子に、ルナルたちはさらに困惑するばかりだった。

「いやはや、普通であれば確かにそうお思いになられるでしょう。ですが、わしたちは思いの外、気が合ったのですよ」

「うむ。我らはゴブリック様の暴走の前は農耕を行う農民だったのだ。聞けばこの村も農業をしている村だと聞いてな。その状況に加えて、我らは元の場所に戻る方法が分からなかった上に、この村には多大なる迷惑をかけた。だから、非礼を詫びる形でこの村に住む事に決めたのだ」

「いやはや、彼らは魔族という割にはかなり穏やかな性格をしておりましてな、どうやら主の暴走で、無理やり非道を行わされていたようなのです。ルナル様たちが立ち去られた後、わしらに誠心誠意謝罪してこられました。そういう経緯がございまして、今では彼らも立派な村の一員なのですじゃ」

 村長とゴブールの間には実に穏やかな空気が流れている。嘘偽りはないようだった。

 あれから実に7日程度しか経っていないというのに、すっかり打ち解け合って親睦を深めているようだった。

「それでは、わしらは宴の準備がありますゆえに、これにて失礼致します。準備ができましたらお呼び致しますので、ルナル様たちはゆっくりお休みなって下さい」

「わ、分かりました」

 ルナルたちに戸惑いが残る中、村長とゴブールは建物を出ていった。

 まさか村人とゴブリンが和解しているなど予想だにしていなかったルナルたちは、ただただ呆然と休んでいる事しかできなかったのだった。

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