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神槍のルナル  作者: 未羊
第一章『ハンター・ルナル』

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第16話 魔眼石の主

 突然地面にへたり込むルナルに、セインが声を掛ける。

「ルナル、一体どうしたんだよ」

「いえ、敵のゴブリンも含めて、みなさんを死なせてしまったと思いましたので……。本当に、無事で何よりです」

 セインの問い掛けにちょっと間があったものの、ルナルは安心してひと息を吐く。

 そして、ふとゴブリックのしたいの方へと視線を向けると、驚くべき光景を目にする。なんと、ゴブリックの懐から、見た事のある物体が転がり落ちてくるではないか。

「あ、あれは……、魔眼石?!」

 そう、見た事のある赤黒い物体。それは紛れもなくペンタホーンで見かけた魔眼石だった。ところが、ルナルは目にした魔眼石は程なくして力を失い、灰色になってさらさらと崩れ去っていった。

 ゴブリックにはペンタホーンと同じ魔眼石が使われていた。この事態を重く見て、ルナルはすぐさま村人たちと一緒に居るゴブリンの所へと急ぐ。

 急なルナルの接近に、ゴブリックの手下のゴブリンは戸惑うばかりだった。それもそうだろう。自分たちのリーダーたるゴブリックを倒した相手なのだ。下っ端である自分たちが敵うわけもない。そういった認識から、ゴブリンたちがルナルに対して攻撃態勢を取る事はなかったのだ。

 まるで鬼のような形相をしたルナルは、ゴブリンたちに近付くなり脅すように質問をぶつける。

「あなたたち! あのゴブリックというゴブリンについて知っている事を教えなさい!」

 あまりにも凄まじい気迫に、ゴブリンたちは自分たちの身に起きた事をぽつりぽつりと話し始めた。


 ゴブリンたちの話によると、次のような事だった。

 まず、ゴブリックという男は、今現在この村に居るゴブリンたちをまとめるリーダーだったそうだ。そして、とある地域を治める領主だったらしく、説明を行っているゴブリンたちはその土地に住む農民たちだったそうだ。

 ゴブリンという魔族の中では下っ端にもあたるような存在だが、ゴブリックは領主を務めるほどに権力があったらしい。また、力も強く、多少の魔法を扱えるほどの才能があり、また自ら農耕にも携わるくらいで、それは心優しい領主だったらしい。

 ところが、その平和なゴブリンたちの生活は、ある時を境に一変した。

 それは、ゴブリックの館を『ジャグラー』という男が訪れた時だったらしい。

 このジャグラーという男は、館を警備するゴブリンたちの制止を聞かず、無理やり突破して館に侵入。そして、ジャグラーが館から出てきた後から、ゴブリックの様子が激変してしまったのだという。

 それからのゴブリックは残虐極まりない性格となり、周辺への侵攻を開始。侵略した後の住民たちを奴隷として酷使して、それは非道の限りを尽くしたとの事。元々普通のゴブリンとの力差は歴然だったために、凶暴に変貌してしまったゴブリックに逆らう事ができず、今日までやむなく従ってきたという事なのだった。


「ふむ、そのジャグラーという男が、ゴブリックに何かしらの手を施し、自分の手駒に変えてしまったのでしょうね」

「はい、おそらくは……」

 話を聞き終えたルナルは、実に悲痛な表情をしていた。

「魔眼石が原因だという事が分かっていれば、殺さずに戻す事もできたでしょうに……。あなたたちの立派な指導者を殺すような事になってしまい、本当に申し訳ありません」

 そして、ゴブリンたちに対して頭を下げていた。

「いえ……、こちらこそ、ゴブリック様を止めて頂いて感謝しております。我々の偉大なる指導者であるゴブリック様を失ったのは、確かにつらいです。ですが、あの残虐の限りを尽くすゴブリック様を見続ける事よりは、……はるかにマシでございます」

 ゴブリンの瞳には涙が光っている。

「本当に、この村の者たちには心より謝罪をする。ゴブリック様を止められなかった我々は同罪だ。本当に、本当に申し訳なかった……」

 このゴブリンたちの言動は、実に驚くべきものだった。ゴブリンといえば魔族の中でも低級中の低級で、蛮族と呼ばれてしまうくらいに本能に忠実な存在なのである。だが、彼らは違った。流暢に言葉を操り、その意味を理解し、何よりもこの礼儀正しさだ。この事は、あのゴブリックが本来はどのような人物であったかを如実に物語っていた。彼らの証言した通り、カリスマ性のある心優しい人物だったのだろう。

 それだけに、ゴブリックを変貌させたというジャグラーという人物の事を、ルナルは許せなかった。

 ガンヌ街道で暴れていたペンタホーン。残虐の限りを尽くした暴君ゴブリック。そこに共通していた魔眼石という石。そして、ジャグラーという名前。これらが一つにつながった今、ルナルが取る行動はひとつだった。

「……首謀者の名前が分かったのです。こうなればこれ以上被害が広がらないうちに、そいつをさっさと叩くしかありません」

 ルナルはぎゅっと拳を握り、さらに力を込める。それだけルナルは怒っているのである。

「セイン! 私はジャグラーを討ちに魔界に向かいます」

「ま、魔界?!」

 ルナルから飛び出た魔界という単語に、セインが驚いている。

「ええ、ジャグラーという男は、魔界では名の知れた魔族の貴族です。おそらく各地で起きている魔物の騒ぎは、奴が魔眼石を用いて起こしたものでしょう。これだけ広範囲に騒ぎが広がっているのなら、奴はおそらく自分の居城に居るはずです」

 ルナルが推理を始める。

「ですが、ここ最近私たちがそのうちのいくつかを潰しましたからね。そのうち焦り出して動き出すかも知れません。そうなる前に奴を叩くのです」

 現状を考えると、今が好機というより今しかないといった方が正解かも知れない。ルナルはそう結論付けたのだ。

「セイン、あなたはどうしますか?」

 そうした上でセインに話を振るルナル。魔界という言葉に動揺したからこそ、ここで話を振るのである。

「はっ、行くに決まってんだろ! 悪い魔族を放っておけるかってんだ! 俺は言ったはずだ、地獄でもどこでも行ってやるってな!」

 間髪入れずに答えが返ってきた。その強い口調に、ついルナルは微笑んでしまう。

「君ならそう言うと思っていましたよ。それに、理由は言えませんが、魔族が相手となるなら君の力が必要なんです」

「えっ、それはどういう事だ?」

 ルナルの言葉に戸惑うセイン。だけれども、ルナルは本当に何も語らなかった。

「さあ、騒動の首謀者であるジャグラーを倒しに行きましょう」

「ああ、魔界だろうがどこだろうが、行ってやるぜ!」

 次の目的地が決まったルナルたちは、気合いを入れるのだった。

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