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神槍のルナル  作者: 未羊
第一章『ハンター・ルナル』

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第14話 ゴブリック

 セインたちが遠目に見守る中、ルナルと大きめのゴブリンが無言のままで対峙している。だが、その静寂は突如として終わりを告げる。

「ぐふふふふふ……」

 大きめのゴブリンが突如として笑い出したのだ。

「いやはや、オレ様もついているものだ。はっ、『神槍のルナル』、俺様が成り上がる踏み台としちゃあ、実に最高じゃねえかっ!!」

 大きめのゴブリンが吠えると、辺り一帯の空気がビリビリと震えている。そして、笑いを止めると、ルナルへと鋭い睨みを飛ばしてくる。

「いいかよく聞けぇっ! オレ様の名は『ゴブリック』! お前を墓標に沈める男の名だ。冥土の土産に覚えて置きやがれっ!」

 ゴブリックは高らかに名乗りを上げる。だが、対するルナルはとても落ち着いていた。

「ははっ、蛮族にしてはいい名前じゃないですか。ところで、お聞きしますがこの村の支配はお前たちの単独の判断によるものですか?」

 一応名前に対して反応したルナルだが、それよりも気になる質問をぶつけた。だが、その時に見せたルナルの表情に、ゴブリックはすこぶる不機嫌になった。

「なんだぁ、その面は? それとなんだその愚問は? オレ様の独断に決まっておろうがぁっ!!」

 ゴブリックが怒りのあまりに咆哮を上げている。それも無理はない。ルナルの表情は、ゴブリックを見下したような笑みを浮かべていたのだから。

「やれやれ、そうですか。やっぱり下級魔族は話になりませんね」

 ルナルは呆れたように頭を掻くと、槍を構えた。

「あなたを倒して、他のゴブリンたちから詳しくお話を伺いましょう。覚悟して下さい!」

 ルナルの言葉に対して、ゴブリックはげらげらと笑い始めた。

「ぐわっはっはっはっ! オレ様に勝つだと?! ……寝言は死んでから言いやがれっ!!」

 ゴブリックは雄たけびと同時に詠唱を始める。

(魔法の使い手とは……。なるほど、これだけ頭が回るあたり、さすがただのゴブリンというわけではないわけですね)

 ゴブリックの詠唱が終わると、地面からなんと斧のような巨大な塊が現れた。

大地の戦斧(ガイアアクス)ですって? ゴブリンごときが高等魔法を使うとは予想外ですね」

 ルナルは身構える。だが、次の瞬間、体格に見合わぬ速度でゴブリックが斧を振り下ろしてきた。だが、その攻撃はルナルには当たらない。冷静に攻撃を躱している。ところが、地面は斧が当たった衝撃で激しく砕け、その破片が辺り一帯にものすごい勢いで散らばっていく。

「そのでかい図体はお飾りではないようですね。力に加えて戦斧の能力、なるほどこれだけ強力になるわけです」

 飛び散る破片を槍で華麗に捌いていくルナル。そして、無事に着地すると、改めてゴブリックを見据える。

 しかし、それも実に束の間、ゴブリックがその巨躯から想像もできない速度でルナル目がけて連続で攻撃を仕掛けてくる。

「おらおらぁっ! どうした、躱してばかりじゃないか。おらあ、もういっちょっ!」

 力に物を言わせた攻撃に予想外のスピードが加わって、ゴブリックが砕いた地面があちこちに勢いよく飛び散っていく。その一部は遠く離れているはずのセインたちの居る場所にまで到達してしまう。

「だりゃっ!」

 半月の間に鍛えられたセインは、その破片を落ち着いて処理していく。

「ルナル、こっちは大丈夫だからな!」

「ええ、そちらは頼みましたよ」

 セインが掛けた声に、ルナルがちらりと目を遣って反応する。だが、目の前のゴブリックがその一瞬の隙を見逃すわけがなかった。

「おいおい、戦いの最中によそ見は禁物だぜ?」

「なんですって?!」

 視線を戻したルナルは驚いた。いつの間にか、ゴブリックは両手に斧を持っていたのである。大地の戦斧の重さは生半可なはずではない。だというのに、ゴブリックはそれを両手に持って片手でいともたやすく扱っているのだ。

「さあ、これを一体どう凌ぐんだ?」

 ゴブリックはにやつきながらルナルに急激に詰め寄っていく。

 これを見たルナルは、突然動きを止めて立ち止まった。

「はははっ、ついに諦めたか! おぅらぁっ、くたばりやがれぇっ!!」

 これ幸いと、ゴブリックが両手の斧を大きく振りかぶる。そして、ルナル目がけて一気に振り下ろしたのだ。

 普通に見ればこれでもう駄目だという場面だが、ルナルだって歴戦のハンターだ。この状況でも落ち着き払っている。まるで狙いすましたかのように。

 ゴブリックの斧が地面に命中する直前、ルナルは飛んでその攻撃を躱す。ゴブリックが振るった斧は、そのまま空を斬って何もない地面へと突き刺さった。

「ふん、甘いわっ!」

 ゴブリックはこの行動を読んでいた。すぐさま追撃の体勢を取る。ところがどうだろうか。飛んで躱したルナルの表情には余裕があったのだ。

「飛んで躱す事が読めたくらいで、勝ったつもりになるなんてやはり蛮族ですね!」

 ルナルはそう言うと、空中に跳び上がった状態で詠唱を始める。

「紅蓮の炎よ、その力で悪しき者を焼き払え!」

 槍を持っていないルナルの左手に、一瞬で炎が現れる。

「フレイムバレット!」

 ひと一人分くらいの大きさはあろうかという炎の塊が、弾け飛んだ地面の破片を飲み込みながらゴブリック目がけて飛んでいく。ところが、ゴブリックの方も豪語するだけあって実に冷静で、斧を振るって炎をかき消してしまった。

「ふん、この程度、目くらましにもならんわ!」

 ゴブリックは上空を見据えたまま次の攻撃に備えている。次の瞬間、ゴブリックは目を疑った。炎が晴れた先にルナルの姿はなかったのだ。

「おのれ、どこだっ! どこへ消えた!?」

 ゴブリックは辺りを見回す。すると次の瞬間、予想外な場所からルナルの声が聞こえてきた。

「ここですよ」

 なんと声が聞こえたのはゴブリックの視線の下。なんと足元に居たのだ。上ばかりに気を取られて、足元に潜り込んだルナルに気が付けなかったのである。

「くそっ、ハンターごときがあっ!」

 攻撃を仕掛けようとしたゴブリックだったが、それよりも早くルナルの攻撃が繰り出される!

「天閃破!」

「ぐはっ!」

 ルナルが手に持つ槍から繰り出される、斬り上げからの連続突き。その攻撃の前に、虚を突かれた動揺も相まって、ゴブリックは思わず膝をついてしまった。

「これで膝をつく程度とは……。思った以上に頑丈ですね。となれば、少々強力な攻撃を仕掛けても大丈夫というわけですね」

 ルナルはゴブリックから距離を取る。そして、すぐさま魔法の詠唱を始めた。

「怒れし炎よ、今ここにその怒りを具現せよ!」

 ルナルの詠唱に合わせて、ゴブリックの足元に大きめの赤色の魔法陣が現れ、淡く光を放っている。

「イラプション!」

 ルナルが魔法を発動すると、魔法陣から眩いばかりの光があふれたのだった。

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