第133話 親友を助けたい!
目の当たりにした事実に驚愕の表情を浮かべるルル。あまりにも青ざめた表情に、ルナルは心配になってルルを抱きしめる。
「落ち着いて、ルルちゃん。何を知っているというのです?」
しかし、ルルの体の震えは止まらない。その姿を見たザインが口を開く。
『妙な魔力があると思ったら、ユグドラシルの精霊か。昔は世話になったな』
軽口を叩くザインだが、ルルは知るわけもなく反応がない。
「ルルちゃん、彼を知っているのですか?」
「し、知りませんよ。第一、私は生まれて10年くらいなんですから」
ルナルの質問に、必死に首を横に振って否定するルル。その様子にザインが笑っている。
『そりゃそうだ。俺が会ったのはそんなちんちくりんじゃなくユグドラシル本体の方なんだからな』
ザインははっきりと言い切った。
そのザインの子孫であるセインだが、あまりに突然のことに呆然とその光景を眺めている。どう反応していいのか分からないのだ。
「俺の剣に、まさかこんな秘密があったなんて……」
そう呟くのが精一杯だった。
「私もそう思いますよ。不思議な感じがしたのは、人間の魂が封じられていたせいなんですね」
「そ、そうなんです。剣に魂を封じる事で、剣に特殊な効果を付与するなんて……。よくお母様が許可されたと思います!」
ルナルの言葉に、ルルが両手の拳を握って主張している。ルルは世界樹の精霊ユグドラシルの分体なのだ。
疑いを持った強い視線に、ザインは小さく笑っていた。
『まさか分体の方は俺の事を知らないとはな。よっぽど能力とか削って生み出したってことか』
「私の目的は人間のふりをしてその生態をよく知る事ですからね。仕方ないんです」
ルルは腰に拳を当てるとぷいっと顔を背けて怒っていた。よっぽど腹が立ったようだった。
『まぁそう怒るなって。っと、それよりも俺の目的をさっさと果たしてしまわねえとな』
「少しくらい昔話をしてもいいのではないのか?」
『悪いな。俺には実体化できる限界があるんだ。話をしていたら、その時間が尽きちまうぜ』
デュークが昔話を促すと、ザインはあっさりと断っていた。
『時間が尽きたら、また眠らなきゃいけなくなる。そうなると、お前を不死から解放させるのがまた何百年と後の話になっちまうぜ。さすがにもう一度そうなるのは勘弁だな』
「そうか、なら仕方がないな」
その理由を説明されれば、デュークはあっさりと納得して引き下がっていた。
「だったら、さっさとやってしまっておくれ。だが、不死が解けると私はすぐに死んでしまうだろうけどね」
デュークは自分の胸に突き刺さったままの剣を見ながら笑っている。
『おいおい、そんな物騒なものはとっとと抜いておいてくれ。お前にはまだやるべき事があるだろうが』
「……お前がそう言うんなら、そうした方がいいのかもな。……ぬん!」
ザインからの説得で、デュークは剣を一気に引き抜く。凄惨の場面になるかと思われたが、さすがは不死者の体だ。別になんてことはなかった。
「無茶苦茶をしないで下さいよ。ヒールウィンド!」
そこへルルが駆け寄って回復魔法をかける。
「おや、さすがは精霊。不死者も回復できる魔法が使えるとはね」
「……多分、お母様は全部見越してるんだと思いますよ」
「……そうかもな」
デュークの言葉にずれた言葉を返すルルだが、それをデュークはしっかり理解していた。
『デューク、そろそろいいか?』
シグムスの関係者やルナルたちが見守る中、ザインがデュークへと語りかける。
「そうだな。もう私はいつでも構わない。君次第だよ、ザイン」
『そうか、ならば行くぞ』
すると次の瞬間、ザインの宿る破邪の剣がデュークへと突き刺さる。
「あああ、せっかく回復させたのに、結局貫くんですかあっ!」
その瞬間、ルルの悲鳴がこだまする。
『悪いな。こいつの呪いを解くには、俺の魂を使って生み出した聖なる力を、こいつの中に直接注ぎ込むしかないんだよ。そのためには、こうやって突き刺さるしかないんだ』
「ぐふっ、自分で突き刺した時も痛かったが、親友の一撃はそれ以上に痛いな……」
血反吐を吐くデュークだが、その顔は傷みによる苦痛よりも笑みにあふれていた。信頼する友人の一撃だからかも知れない。
『さっき話そうとしてた方法だがな。魂を純化させて宿らせる事で、神聖な力を武器に持たせるっていう方法なんだ。今までも何度となく使われて目減りはしてるが、こいつの呪いを解くには、今の状態でも十分だ』
ザインの言葉にはっとするルナル。
そう、ジャグラーを倒した時に少し力を借りてしまっていたのだ。
『まぁ、錆びを取って復活させてもらった時に増えてるみたいだからな。そういう意味じゃ感謝してるぜ、現魔王様よ』
「そ、そうですか」
ザインから思わぬ言葉を掛けられて、ほっとした様子のルナルである。
『それと、やっと言葉を交わせるようになったっていうのにこれでお別れとはな。セインとかいったか、お前の成長する様を見てみたかったぜ』
ザインがそう言うと、剣から聖なる力があふれ出てくる。
『ありがとな、俺たちを会わせてくれて。これでようやく、親友を救える……ぜ……』
ザインがそう言った瞬間、眩いばかりの光と凄まじい魔力が墓の中にあふれかえったのだった。




