第130話 呪いを解くには……
シグムス王家に伝わる呪いを解くと決断したルナルは、ミレルだけを連れて魔王城から転送石によって移動する。向かった先はベティスにあるアルファガドの拠点である。
なぜそこに向かったのか。そこには、呪いを解くための鍵となるものがあると踏んだからだった。
「マスター、いらっしゃいますか?」
アルファガドに顔を出したルナルは、すぐにマスターを探し始めた。
「おや、ルナルじゃないか。どうしたんだい?」
ギルドの中に入ったルナルを迎えてくれたのは、マスターの代わりにギルドを切り盛りするナターシャだった。
中を確認するとミーアはいるものの、マスターたちの姿は見えなかった。
「ナターシャさん、マスターたちはどこにいらっしゃいますか?」
「マスターなら、まだイプセルタに居るはずだけど? 戻ってきたのはミーアだけだよ」
ナターシャはルナルの質問に答えながら、ミーアの方へと視線を向けている。
すると、ミーアがようやく気が付いたのかルナルの方へと駆け寄ってきた。
「うにゃー、ルナル様にゃー」
ぴょんと飛びつくような感じでルナルに抱きつくミーアである。しかし、そのミーアにはすぐに鉄拳が下った。
「あたっ。何をするのにゃ、ミレル姉」
頭を擦りながら涙目でミレルを睨んでいる。ただし、微妙に視線が合っていなかった。さすがのミーアもミレルの事が怖いのである。
「ミーア、今は大事な話をしているのです。邪魔をするのでしたら仕事をしていなさい」
淡々とお説教を食らうミーアである。
この三姉妹もミントとミレルは仕事に忠実なのだが、ミーアだけはちょっと自由なのである。なにせ、城を勝手に抜け出してルナルに会いに行くくらいなのだから。だからこそのお説教なのである。
「うにゃー、酷いにゃー。せっかくマスター様の伝言持ってますのにー」
ミーアは尻尾をだらんと下げ、耳を押さえながら喚いている。そのせいで、再びミレルから雷が落ちる。
「そういう事は先に言いなさい。あなたは事の優先順位を間違えすぎなんですよ」
「うにゃー……」
しっぽをピーンと立てて連続お説教のミレルである。さすがにミーアが可哀想になってくるレベルである。なので、二人の間にルナルが割って入っていった。
「まあまあ、ミレルもそのくらいにしましょう。これ以上は、ミーアも喋るに喋れなくなってしまいます」
ルナルがミレルを窘めていると、ケンカ腰になっていたミレルの様子が柔和していく。そして、いつも通りのメイド立ちになっていった。
「ルナル様がそこまで仰るのでしたら、ここまでにしておきましょう。命拾いをしましたね、ミーア」
「うにゃあ……」
ミレルの雰囲気が和らぐと同時に、ミーアはその場にへなへなと座り込んだ。よっぽどミレルの事が怖かったようだった。
「それで、マスターからの伝言とは何なのですか、ミーア」
へたり込んでしまったミーアに手を差し伸べながら、改めて質問をするルナル。すると。ミーアは思い出したかのように急に立ち上がった。
「そ、そうなのにゃ。マスター様からの伝言にゃ」
目をまん丸く見開くミーアである。
「……近いですよ、ミーア」
鼻先がぶつかりそうな位置まで顔を近付けるミーアに、ルナルは落ち着かせようとして肩を少し強くつかんだ。
その手の感触に、我に返るミーア。
「し、失礼しましたにゃ。では、改めて伝言を伝えますにゃ」
ミーアが一つ咳払いをしている。一体どんな伝言が飛び出してくるのか、ルナルは思わず身構えてしまう。
「マスター様からの伝言は次の通りにゃ」
ごくりと息を飲むルナル。
「『どうせお前の事だから、すぐ来る事になるだろう。イプセルタの事をさっさと終わらせて帰るが、俺が居なかったらしばらく待っていてくれ』ということなのですにゃ」
ミーアは伝言を言い切る。
しかし、目の前のルナルたちの様子がおかしかった。その視線はミーアではなく、その後ろの方に向いていた。
(むう、ルナル様たちは一体どこを見てるにゃ。それにしてもなんか変な感じがしたのにゃ)
そう思って、後ろを振り返るミーア。すると、そこにはとんでもない人物が立っていた。
「ま、ま、ま、マスター様?! 一体いつお戻りに?!」
そう、ミーアの真後ろにはマスターが立っていたのだ。本当に心臓に悪い登場の仕方である。どのくらい悪いかというと、ミーアの耳と尻尾がピーンと立ってしまうくらいだった。
「つい今しがただ。ナイスタイミングだろう?」
いつものようにガハハと大声で笑うマスター。そのわざとらしい笑いを耳にして、ルナルは実に頭が痛そうにしていた。
「嘘仰い……。わざとこのタイミングになるように、移動をコントロールしてきたでしょうに……」
「うん、何の事だかな。ガハハハハハッ!」
ルナルのお小言をさらりと聞き流すマスターである。相変わらず食えない男である。
「まったく、酷い顔をしてくれるな。せっかくこの二人も連れて帰ってきたのによ」
マスターがくるりと後ろを振り返ると、そこにはセインとルルの二人の姿があったのだった。




