第12話 蛮族の反乱
ソルトからもたらされた魔眼石の分析結果……。その内容にルナルとマスターは驚かされた。
「なるほど……。あいつらときたら、そのような事をしていたのですか」
「はい、今回の事はかなり噂として広まっているようでして、知り合いからも証言を得られました。そもそも野心を抱えていた人物のようですし、魔王の宣言を聞いた事で、その野心を一気に爆発させたというところでしょうか」
ソルトからの話を聞いて、ルナルは頭を抱えている。どうやら、魔族たちによる人間界への侵攻は、想像以上に加速しているようだった。
「って事は何か? ここら一帯で起きている最近の魔物の騒ぎは、そいつの仕業って事になるのか?」
横で聞いているマスターが口を挟んでくる。
「現時点での証言や証拠を総合する限りは、そういう事になりますね。ですが、現時点での活動報告は野心の大きい魔族ばかりのようです。慎重派が動いているといった情報は得られていません」
ソルトからの報告はこういったところだった。それを聞いたルナルは、しばらく唸るように考え込んだ。
「うーん、このまま後手の対応に回っていると、これ好機とみて慎重派の魔族たちも一気に行動を起こす可能性がありますね……」
「まったくだな。正直こうやってのんびり話をしている場合じゃあなさそうだな」
うーむと三人とも黙り込んだ。
「ソルト」
「何でしょうか、ルナル様」
ふとルナルはソルトに話を振る。
「魔眼石の分析結果をもう少し詳しく聞いていいかしら」
「はい、分かっている範囲で」
「本当に魔眼石から検出できた魔力は、その一種類だけなのかしら」
「はい、間違いなく一種類です」
ソルトに再確認するルナルは、その結果に納得がいっていないようである。
「魔眼石は魔法石の中でも扱いの難しい石になります。それを本当にその者が使いこなせるとは思えません。その者が分類されるのは蛮族と言われている魔族ですよ?」
「ですが、この結果だけは間違いありません。ルナル様がお考えであるように、別の何者かが、特に慎重派の誰かが肩入れしているのやも知れません」
ソルトの言葉を聞いて、ルナルは再度考え込む。
蛮族と呼ばれる魔族は、好戦的な魔族の中でも特に野蛮で支配欲が強い。一度成功を収めると、調子に乗ってさらに勢いが増していく。姿を隠すような事はしないものの、一度行動を起こすとあちこちに動くのでとにかく行動範囲が広い。あっちに居たと思ったらすでに向こうという事もあり、居場所が絞りづらいのだ。行動範囲が小さいうちに対処しなければ、被害はどんどんと拡大していってしまうのだ。悠長にしている暇はなかった。
「本来ならば慎重に動くべきでしょうが、石を使っていた蛮族はさっさと潰しておくべきでしょうね。ソルト」
「はっ、ルナル様」
「私はセインを連れて蛮族を追います。数が分からないとはいえど、蛮族相手であるなら、実質私だけでもどうにかなるでしょうけれどね」
ルナルはソルトに方針を伝える。
「ソルトはアカーシャと一緒に、例の魔眼石の更なる調査を行って下さい。必要でしたら制圧もお願いします」
「畏まりました、ルナル様」
ソルトは跪いてルナルの言葉に従った。
「おう、そういう事なら、俺の方でも情報を集めといてやろう。幸い伝手は多いんでな」
「そうですね。マスターの情報網は活用しない手はありませんね。お願いします」
横から割り入ったマスターに対して、ルナルは頭を下げる。その姿を見たマスターは、にかっと笑うとギルドの建物の中へと戻っていった。
「それではソルト、アカーシャと合流しましょうか」
「はい」
ルナルはソルトを連れて、セインに稽古をつけているアカーシャの元へと向かった。目の前ではペンタホーンがぶるるっと震えていた。
「アカーシャ、少しいいでしょうか」
ルナルの声に反応して、アカーシャは剣を下ろす。
「何でしょうか、ルナル様」
「重要な話があるので、アカーシャの耳にも入れておこうと思いましてね」
ルナルの表情を見たアカーシャは、その重要度をすぐに察した。
この際、急に動きを止めたアカーシャに対してセインが一撃を放ったのだが、ものの見事に簡単に躱され、反撃を食らっていた。
「ちっくしょー、隙だらけだったのに、当たらねえとかありかよーっ!」
「ふっ、お前の剣筋など、寝てても躱せる。すまないが、ルナル様と重要な話がある。しばらく素振りをしていろ」
アカーシャにそう言われたセインは、文句を垂れながらも素振りを始めたのだった。
セインを遠ざけた状態で、ルナルとソルトはアカーシャに魔眼石の分析から得られた情報を話す。その話を聞いたアカーシャの表情は、一気に険しくなっていく。
「なんだと? 最近の事件は奴らの仕業だというのか! まったく、懲りもせずにやらかしてくれるとは、身の程を知れ!」
アカーシャが感情剥き出しに叫んでいる。セインの耳にも入っているのだが、断片的な話ではセインに到底理解できるものではなかった。
「それでは、私は魔眼石の更なる分析を行いたいと思います。調べ尽くしたと思っているだけで、まだ巧妙に隠されているかも知れません」
「あたしは戦う事くらいしか能がない、別の方向から探ってみよう」
「はい、よろしくお願い致します」
長々とした話が終わり、ソルトとアカーシャはそれぞれに移動を始めた。
その姿を見送ったルナルはセインの方へと歩み寄っていく。
蛮族の仕業と分かったものの、その居場所がまだ分かっていなかった。その辺りの情報を集めるついでに、セインを依頼に同行させて鍛えて行こうとルナルは考えたのだった。
「そういうわけですので、蛮族の情報を集めるついでに経験を積んでもらう事になりました。移動自体はペンタホーンが居ますので、さほど問題ではないでしょう」
ルナルはセインへと説明をする。そして、その最後に、ルナルは改めてセインへと確認を取る。
「魔族との本格的な戦闘になると思います。セインにその中に身を投じる覚悟はありますか?」
だがしかし、それに対するセインの答えは一つだった。
「魔王を倒す目的があるんだ。今さら怖気づいたりはしないぜ!」
実に頼もしい限りの答えだった。その実力を考えれば無鉄砲とも言える発言だが、ルナルはどういうわけか満足げに笑っているのであった。




