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神槍のルナル  作者: 未羊
第一章『ハンター・ルナル』

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第11話 稽古

 夜が明けて、実に清々しい朝を迎えていた。

 ルナルは死屍累々となっている宴会の光景を尻目に、セインとアカーシャを連れて外へと出て行く。

「さて、セイン。今日から早速、アカーシャに剣を教わりましょう」

 にこにことして声を掛けてくるルナルの前で、セインはまだ疲れたようにして立っていた。ペンタホーンの騎乗疲れが回復してきたところにアルファガドのハンターたちが絡んできたのだ。おかげさまでまったくもって疲れが抜けていないのである。

 ところが、そんなセインのそんな状態にお構いなく、突然アカーシャの斬撃が飛んできた。

「あっ、危ねえっ!」

 セインは咄嗟に後ろに飛んで躱す。セインはさっき立っていた所を見るが、そこには剣が振り下ろされただけとは思えないような、大きな穴が開いていた。アカーシャの剣のすさまじさを物語っている。

「まったく、このあたしが剣を教えるというのに、いつまで気を抜いている! あたしが本気であったならば、今頃はその体は真っ二つになっていたぞ?」

 セインの目の前には、振り下ろされた剣を素早く引いて構え直したアカーシャが立っていた。マスターが呼んでいた『紅の砦』の二つ名が示す通り、今のアカーシャの立ち姿に隙は感じられなかった。

「アカーシャ、セインは素人ですが飲み込みは早いかと思いますので、手加減なしで教えてあげて下さい」

「畏まりました、ルナル様」

 ルナルの言葉に対して、アカーシャは軽く頭を下げる。そして、すぐさまセインの方へと体を向ける。

「そういうわけだ、小僧。お前は覚悟はできているのか?」

 アカーシャは鋭い視線をセインに向ける。そのあまりの鋭さに、セインは一瞬飲まれそうになってしまう。だが、ここで飲まれるわけにはいかない。

「俺は、ハンターになると決めたんだ! 今さら覚悟がないとか言えるかっ!」

 セインはアカーシャを睨み返した。

「ふんっ、覚悟は十分か。だが、後付けの才能でハンターになれるほど甘くはないぞ。……それにしても、ここは少し狭いな、ついて来い」

 アカーシャは剣を鞘に収めると、セインを連れてギルドの裏手の森へと移動していく。その様子を見ていたルナルは、

「私はペンタホーンの世話をしますので、遅れて向かいます。アカーシャ、セインの事を頼みましたよ」

 そう叫んでペンタホーンがつないである馬小屋へと向かった。


 カキィーーンッ!

 鋭い剣戟の音が辺りに響く。セインとアカーシャが剣を交えているのだ。

「ふっ、小僧のレベルに合わせて手加減しているとはいえ、なかなかやるな。これはどうだ?」

「くっ」

 余裕綽々のアカーシャに対して、全身汗にまみれているセイン。とはいえども、あちこちにかすり傷を負っているとはいえ、アカーシャの鋭く速い剣をどうにか防いだり躱したりしている。

「はああっ、虎襲斬(こしゅうざん)!」

 鋭い踏み込みからの素早い振り下ろしがセインを襲う。しかし、ここまでの攻撃をどうにか凌いできたセインは、これもどうにか躱す。だが、躱すのが精一杯で、とても反撃できるような状態ではなかった。

「ほお、これも躱すのか。だが、あたしはまだ小手調べなんだ。どこまで躱せるか、楽しみだな」

 アカーシャのセリフに、背筋が凍り付くセイン。まさしく一方的。稽古という名のアカーシャによる一方的な攻撃が繰り広げられているのだった。


 裏手の森から激しく剣がぶつかり合う音が響く中、ルナルはペンタホーンの世話をしていた。

「へえ、どうやらセインはアカーシャの攻撃を防いでいるようですね。ほとんど反撃のできない防戦一方ではありますが、アカーシャの剣を相手にここまでやるとは、ふふっ、見込みがありますね」

 剣戟の音しか聞こえてこないはずなのに、ルナルは正確に稽古の様子を把握していた。これがトップクラスのハンターというものなのだろう。

「この分ですと、打ち直しをしたあの剣はいい感じに力を発揮しているようですね。あの剣が本物だというのなら、アカーシャが本気を出す事は叶わないでしょうから」

 ルナルは少し表情を暗くして俯く。

「おう、ルナル。もう起きてたのか」

「げっ……」

 突如として聞こえてきた声に、ルナルは露骨に嫌な声を出してしまう。

「おいおい、ずいぶん挨拶なこったな」

「マスター……、何しに来たんですか?」

 マスターの反応に、露骨に嫌な声だけではなく、表情や態度までもが嫌そうな雰囲気を出している。

「なあに、連中がタイミングよく帰ってきて見れなかったペンタホーンの様子を、今見に来ただけだ。そしたら、お前が思い詰めたような表情をして下を向いてたってだけだ」

「はあ……、私、そんな表情してましたか?」

「ああ、してたな」

 本当にこのマスターという男とルナルは相性が悪いようである。なにせこの通り、マスターという男はつかみどころがない性格をしている。その上ですべてを見透かしたような態度まで取ってくるので、余計にルナルはマスターの事が気に食わないのである。

 ぐしゃぐしゃと頭を抱えるルナルを尻目に、マスターはペンタホーンを撫でている。

「ほぉ、本当にこいつはおとなしいな。俺に対して怯えている様子はあるってのに、暴れる気配はない。実にいい子だな」

 マスターはさらにペンタホーンを撫でている。

「まったくですね。だというのに、この子たちを捨て石のように扱うなんて、操っていた奴は許せませんね!」

「ああ、そうだな」

「何をにやついてるんですか!」

 ペンタホーンを撫でながらため息を吐くルナル。その様子を見ていたマスターの目に気が付いたルナルは、顔を真っ赤にしながらマスターに怒鳴っている。

「おいおい、何をそんなに恥ずかしそうにしてるんだ。……だが、それはそれとして、お前はどうするつもりなんだよ」

 ルナルを窘めつつ、マスターはルナルに質問を投げかける。

 ルナルはしばらく黙り込んでいたが、その質問に対して答えようとした時だった。

「お待たせ致しました、ルナル様」

 青色の髪の毛の女性、ソルトが現れたのだった。今日は眼鏡を掛けている。

「ソルト、その様子では、魔眼石の分析は終わったのですね?」

「はい、思いの外、分析は順調に進みました。これより報告させて頂きます」

 ソルトは姿勢を正すと、ルナルに頭を下げる。

 そして、ソルトから伝えられた分析結果は、なんとも驚くべきものだった。

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