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神槍のルナル  作者: 未羊
第五章『思いはひとつ!』

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第115話 蹂躙劇

「魔族が来るぞ! 総員ー、構えっ!」

 城門の前には歩兵や騎馬隊、上には弓兵や魔法兵が構える。まだ必要なほどの応援は集まっておらず、城門に詰めている者だけで対処する状況である。

(くそう、なんだって俺が警備にあたってる時に来るんだ……)

 上官はぐっと歯を食いしばっている。予想外過ぎて腹立たしくなっているのである。

 だが、文句を言ったところで魔族が迫っている状況には変わりはない。気持ちを切り替えて迎撃の態勢を取るしかないのである。

「イプセルタ軍の司令官の一人として、魔族どもはここで食い止めてみせる!」

 意気込む上官だが、その姿を見たディランは嘲り笑っていた。

「ふん、その心意気は褒めてやろう。だが、所詮は雑魚。我が軍勢の敵ではないわ」

 余裕たっぷりのディランは魔族たちに号令をかける。

「さあ、お前ら。目の前の虫けらどもを蹴散らし、我らの力をここに示そうではないか」

「おおーっ!」

 魔族たちの士気が一層高まる。

「蹂躙してやれ、我が軍勢どもよ!」

「来るぞ、総員かかれーっ!」

 イプセルタの城門の北側で、イプセルタ軍と魔族がぶつかり合う。

 だが、その結果は歴然としていた。

 ディランに率いられている魔族たちは、ディランの声に応じて集まった各地の屈強たる魔族たちだ。それこそ、1体だけでもかなりの強敵といえる存在である。

 それに対してイプセルタ軍は、援軍が間に合わず、城門に詰めている兵士たちだけでの応戦となった。

 そもそもが多勢に無勢。

 圧倒的な戦力差の前に、イプセルタ軍はなす術なく蹂躙されてしまったのだった。

「ば、バカな……。我がイプセルタの軍勢が……」

 辺りに倒れ込む兵士たち。一部が激しく損壊した城門。この光景が、イプセルタ軍と魔族との間の戦力さを如実に物語っていた。

「さあ、さっさと城門を開けて俺たちを通すのだ。そうすれば、お前の命は助けてやろう」

 倒れ込む上官を前にして、ディランが不敵な笑みを浮かべながら見下ろしている。交渉というより命令である。

「それは……、本当だろうな?」

「ああ、約束しよう」

「……」

 一方的な戦いに心を折られた上官は、悔しさをにじませながら伏せた顔を上げる。

「残念ながら、俺たちには門を開ける事はできない。開けるための人員が居なくなってしまったからな」

 再び顔を伏せて、ガリッと地面の土を削って握りしめる上官。

「門を越えて内側の閂を外せば通れる。……もう、好きに通ってくれ」

「そうか」

 上官の言葉を受けて、空を飛べる魔族が門を飛び越える。そして、勢いよく閂を外すと、門を解放させた。

「よし、お前たち、進軍するぞ」

 ディランが戻ろうとすると、上官が声を掛ける。

「俺は……助けてもらえるん、だろう、な……?」

 その言葉を聞いたディランがにやりと笑う。

 次の瞬間、ディランの後ろから巨体の魔族が現れ、手に持った棍棒を振り上げている。

「なっ、約束が、約束が違うぞ!」

「約束? 何を言っている。お前が約束したのはこの俺だけだ。俺は手を出していないから、約束は破っていないぞ?」

 屁理屈ではあるものの、確かに間違ってはいない、その通りだ。

「う、うわあぁぁっ!!」

 会話が終わるかというタイミングで、巨体の魔族の棍棒が思い切り振り降ろされた。

「ふん、所詮人間などこの程度の存在だな……」

 ディランはその場を確認する事なく台座に座り直す。

「さあ、イプセルタの街の中へと進むぞ」

「おおお、ディラン様!」

「人間どもは皆殺しだ!」

 ディランの声に盛り上がる魔族たち。ひと通り盛り上がると、イプセルタの街の中へと進んでいったのだった。


 魔族の居なくなった城門。

 そこへ、ひとつの影が降りてくる。

「まったく、酷い有様ですね。いくら命令とはいえ、この一方的な状況を見守らなかったのは、つらい限りでした」

 辺りには倒れて動かなくなった兵士や馬たちが転がっている。

「我が癒しの力をもって、この場に居る者たちを癒したまえ」

 降り立った影から、強力な魔力の渦が巻き起こる。

「フルオルキュア!」

 人影が魔法を使うと、倒れている兵士や馬たちの傷がみるみると癒えていく。凄まじいまでの回復魔法である。

「う……ん……」

 回復魔法の光が消えると、兵士たちがじわじわとその体を起こし始める。それは馬も同じだった。

「私たちは、なぜ……」

「はっ、魔族たちは?!」

 目を覚ました兵士たちは困惑した状態だ。そこへ、先程の人影が近付いていく。

「さすがはタイタンの力。一人も死なずに済むとはさすがですね」

「だ、誰だ、お前は!」

 棍棒に潰されたはずの上官が、人影に向かって剣を構える。

 そこに居たのは、全身が青色に包まれた女性だった。

「私は水智龍エウロパ。マスタードラゴン様の命令で、助けに参りました」

「ま、マスタードラゴンだと?!」

 エウロパの言葉に戸惑う兵士たちである。

「あなた方を助けなかったのは、マスタードラゴン様の考えあってのこと。後の事は私たちにお任せ下さいませ」

 話を終えたエウロパは、背中から翼を出して飛び去っていく。

 あまりに突然のできごとに、兵士たちはしばらくその場から動く事ができなかったのだった。

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