第108話 いざ、対決へ
「マスター様、大変だ!」
アルファガドにアイオロスが飛び込んでくる。
「動いたか」
すぐに反応するマスター。
「くそっ、俺の速度をもってしてもマスター様には敵わない……ってそうじゃねえ!」
一人で漫才じみた事をするアイオロス。気を取り直して真剣な表情を向ける。
「魔王城から進軍が始まりました。おそらく目的地はイプセルタかと」
「だろうな。率いているのはミントか」
「はい。猫耳のメイドがサーベルタイガーに乗って先頭を進んでいます」
「そろそろ限界ってとこだな。ディランにいいように使われているみたいだしな……」
マスターが腕を組んで考え始める。そこへ、ルナルが姿を見せた。
「ディランが動き始めましたか……」
「聞いてたのか」
マスターが確認するように問い掛けると、ルナルは黙って頷いていた。そのルナルの表情は思い詰めたような険しいものだった。
「……私が不甲斐ないばかりに、ミントをつらい目に遭わせてしまって、大変申し訳なく思っています。私はミントを止めに行きます」
「ルナルならそう言うと思ったな。アイオロス!」
「背中に乗せていけばいいんだな!」
アイオロスは早速外へ飛び出そうとするが、マスターに首根っこを掴まれて止められる。話が早くていいのは助かるのだが、気が早すぎるのが問題のようだ。
「ぐえっ! な、何をするんだ、マスター様!」
「お前は少し落ち着け。考えなしに動くのはやめろ」
バタバタと暴れるアイオロスを叱りつけるマスターである。
「ルナル、ミーアとミレルを連れていけ。ミントを止められるとしたらお前らくらいだ。俺もギルドの連中を引き連れて後から追いかける」
「分かりました。すぐに二人を呼んできます」
ルナルはバタバタと走っていく。
「さて、俺たちも準備を始めるぞ」
「は、離せよ、マスター様!」
ずるずると引きずられていくアイオロス。アイオロスの声が響くと同時に、一気にアルファガドの中が騒がしくなる。
店を閉めて、ギルド内に居るハンターたちを集めてマスターが呼び掛ける。
「お前ら、ついに魔王城で動きがあったらしい。いよいよ魔族との全面対決だ」
マスターの発言でさらに騒がしくなるギルド内。
「ついに来たのね」
「まったく……、ディランの奴め……」
ソルトとアカーシャの顔も険しくなる。
「いよいよか……」
「ルナル様を支えるんだ」
セインとルルも気合いが入っているようである。
「では、私は先に出て侵攻を食い止めてきます」
「悪いなルナル。俺たちも同時に行ければよかったんだが、さすがに移動手段がないと無理だ」
「そればかりは仕方ありませんよ。では行ってきます」
ルナルはそう言うと、ミーアとミレルを連れて外へと出て行く。外に出るとそこにはアイオロスが待ち構えており、疾風龍の姿となると一気に飛び立っていった。
飛び立つ際に突風が起きたのでベティスの人たちは何事かと思ったのだが、すでにアイオロスの姿はなくなっていた。
残されたマスターたちは次の話に入る。
「次としてペンタホーンに乗れる人員で向かってくれ。セイン、ルル、ソルト、アカーシャの四人だ」
「もちろんだとも。奴らの好き勝手にさせてたまるものかよ!」
マスターから指名されると、セインはものすごく意気込んで叫んでいた。
破邪の剣を受け継ぐ者としての責務もあるが、ルナルの障害になる奴が許せなかったのである。ましてやルナルに危害を加えようとしたのだから、余計に腹が立っているようだった。
それはルルも同じのようで、もの凄い気合いの入りようだった。
その様子を見ていたマスターは、さすがにこれ以上ここに留めておくのも厳しいかと判断する。
「ソルトちゃん、アカーシャちゃん、二人の事を頼んでもいいか?」
「もちろんですとも」
「ああ、任せてほしい。この中ではあたしたちが一番付き合いが長いしな」
マスターの呼び掛けに、ソルトもアカーシャも快く了承の返事をする。
「いくら魔界と接するイプセルタとはいえど、今回の進軍に対しては厳しい面があるだろう。俺たちで手助けしてやろうではないか」
「おおーっ!」
マスターの呼び掛けに、ギルド所属のハンターたちが声を上げる。
そして、出撃のための準備を進めていると、ナターシャの声が響いてくる。
「こら、まだおとなしくしていないとダメだよ。まだ万全じゃないんだからね!」
「いやです。みなさんが動こうとしているのに、私だけがじっとしているなんでできません!」
どうやら、マイアがナターシャの制止を振り切ってマスターたちのところへ向かっているようである。
そして、集会の場所に姿を見せたマイア。大きく息を切らしているところを見ると、必死に走ってきたのがよく分かる状態だった。
「お願いします、私も連れて行って下さい!」
扉の枠に掴まりながら、必死に訴えるマイア。
「あの人を、ディラン様を止められるのは、私だけだと思います。……もう、あの人を苦しめたくないんです!」
その顔は、今にも泣きそうなくらいに思い詰めたものだった。
その姿を見てマスターは少し考える。そして、マイアに近付いていく。
「分かった。アカーシャちゃん、守る事はできそうか?」
「舐めないで頂きたい。あたしを誰だと思っているんだ?」
にやりと笑うアカーシャ。そこには絶対の自信があるようだった。マスターもにかっと笑い返す。
「よし、それじゃ出発するぞ。ナターシャ、留守は頼んだぞ」
「あいよ、任せておきな」
マスターが決めてしまった以上、これ以上止めても無駄と判断したナターシャはマイアを行かせる事にしたのだった。
いよいよ始まる魔族との全面対決。
様々な思いが入り乱れる戦いの行方は、一体どうなるというのだろうか……。




