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神槍のルナル  作者: 未羊
第四章『運命のいたずら』

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第102話 静かに動き出す時

 ルナルが魔王城に戻っていた頃、ベティスのアルファガドの本拠地では……。

「まだあの少女は目を覚まさないかい?」

 ナタリーが不安そうにミーアに尋ねていた。

「はいなのにゃー。ぴくりとも動かないのにゃ」

 様子を見てきたミーアが、不安そうな顔で答えていた。そのくらいに、助け出された少女は眠り続けていた。呼吸をしている感じはあるので、生きているのは間違いない。だが、まったくの無反応なのである。これにはさすがのナタリーも心配にならざるを得なかった。

 しかし、今は魔物の氾濫を抑え込んだハンターたちが戻ってきていて賑やかなところだ。少女の事は心配ではあるものの、慰労の真っ只中であるためにいつまでも様子を見ていられない。気にはなるものの、ナタリーもミーアもハンターたちの相手をする事にしたのだった。

「まったく、マスターが居れば少しは余裕があるんだけど、こういう時に限ってあの人はどこに行ったんだかね」

 ナタリーは少し前に出掛けてしまったマスターに対して愚痴をこぼしたのだった。


 その頃、マスターはシグムス城の地下を訪れていた。

「トール、居るか?」

「おお、この声はマスター様。ここに居りますとも」

 マスターの呼び掛けに、城の地下の書庫に留まり続けるトールが姿を現した。

 相変わらず全身にバリバリとほとばしる雷をまとった金色に光る体が特徴の五色龍である。

 どうやらトールはあれからずっと動かずにシグムスの地下に留まり続けていたようである。基本的に五色龍はマスタードラゴンの命令によって動くようになっている。なので、新たな命令がない状態では仕方のない事だった。五色龍の力は強力ではあるものの、それであるがゆえにマスターの命令なしには勝手に動けないのである。

「トール、お前に新しい指示を出す。聞いてくれるか?」

「もちろんですとも。マスター様の指示がそうそう間違うわけではありませんからな。して、次なるご指示はなんでございましょうか」

 トールはおとなしく座ってマスターからの指示を待つ。ミレルたちとあれだけの激闘を繰り広げたとは思えないくらい、実におとなしくおとなしいドラゴンである。

 トールの視線がマスターに集中する。

「ふっ、相変わらずの忠実な態度だな。トール、お前の指示だが……」

 マスターがトールに指示を出すと、トールの表情がにわかに曇ったように見えた。

「それは真でしょうか」

「うむ、間違いない。ルナルの奴のやらかしが、大きな動きに発展してきている。お前はそれに備えてくれ」

「畏まりました。マスター様の仰せの通りに」

 トールは首を垂れている。それを見たマスターは目を閉じて首を縦に1回振った。

「では、俺はベティスに戻る。シッタの方はエウロパに任せてあるので問題ないはずだ。ここは頼んだぞ」

「はっ、お任せ下さい」

 トールの返事を聞いて、マスターはシグムス城の地下から姿を消したのだった。

 引き続きシグムス城の地下に留まる事になったトールは、書庫の片隅でその体を丸めてその時を静かに待つ事にしたのだった。


 シグムス城の地下でトールに話をつけたマスターは、あっという間にベティスへと戻ってくる。ドラゴンの姿に戻ればこの程度の距離はあってもないに等しいのだ。

「おう、今戻ったぞ。ナタリー、ギルドの様子はどうだ?」

「マスター、どこ行ってたんだい」

 マスターの声が響き渡ると、奥から怒った様子でナタリーが出てきた。伝言だけ残して急に消えたのだから、そりゃまあそうなるわけである。

「悪い悪い、野暮用があったんだ。それももう終わったから気にすんな」

 悪びれる様子のないマスターである。こんなだからエウロパにも怒られるのだ。これでも世界で最も偉いマスタードラゴンなはずなのだが、その威厳を全く感じない姿である。

「あー、マスターにゃーっ!」

「おお、ミーアか。すっかりうちに馴染んじまってるな」

「にへへへ」

 マスターに飛びついたミーアは頭を撫でられて満足そうに笑っている。

「それより、例の少女の様子はどうなんだ?」

 ミーアの頭を撫でながら、マスターはナタリーに確認する。

「まだ目を覚まさないね。呼吸はしているんで生きているのは間違いないんだけど、これだけ起きてこないと心配になっちまうもんだよ」

 頬に手を当てながら困惑顔のナタリーである。これには頭を撫でられていたミーアも同じようである。

 これを聞いたマスターはつい顎に手を当ててしまう。ここまで目を覚まさないとなると、さすがのマスターも困ってしまうようだった。

「参ったな……。彼女は何かとカギになるというのにな」

 ぼそりと呟くマスターである。どうやら何かしら知ってるような口ぶりである。

 その時だった。ミーアの耳がぴくりと動いた。

「うみゃ?!」

「うん? どうした、ミーア」

 突然声を上げるミーアに、マスターとナタリーはつい顔を向けてしまう。

「何か聞こえたのにゃ。上からなのにゃ!」

 そう言うと、バタバタと駆けだすミーアである。マスターとナタリーもそれを追いかける。

 追いかけてやって来たのは、例の少女が眠る部屋の前だった。

 ミーアを制しながら、息を飲んで扉を開けるマスター。

 すると部屋の中では、眠っていたはずの少女が目を覚まし、その上体を起こしていたのだった。

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