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神槍のルナル  作者: 未羊
第四章『運命のいたずら』

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第99話 ディランの正体

 ルナルの背後から現れたディラン。あまり明るくない場所ゆえに、その表情はよく見えなかった。

 だが、ディランの言い放った言葉に、ルナルは少々怒りを覚えていた。

「……言ってくれるじゃありませんか。ですが、あなたの技量でもって私に勝てるとでも思っているのですか?」

 玉座に手を掛けながら、ルナルはディランを見下ろしながら牽制するように言葉を掛ける。

 だが、ディランの方はまったく反応する様子はなかった。ただ静かにルナルの方を見据えているようだった。余裕さえ感じられるほどに静かに立っていたのだ。

「……確かに、以前の私ではあなたにとても敵うような存在ではありませんでしたね」

 先程までとは違い、よく城で聞いていた丁寧な言葉遣いをするディラン。そして、少しずつゆっくりとルナルへと近付いていく。

「これほどの強さであるならば、きっと世界を容易く掌握してくれる、そう信じて私は軍門に下ったのです」

 ディランはうつむいたまま言葉を続けている。

 次の瞬間、顔を勢いよく上げるディラン。すると、先程までとはがらりと雰囲気が変わる。

「ところがどうだ! いくら待てど暮らせど、新しい魔王は人間たちに対して攻撃を仕掛ける事はなかった。それどころか、魔族たちへと説得を行う日々だった。これが……、これが新しい魔王の姿だというのか?! その時の俺の絶望がいかほどのものだったか、お前には想像もできないだろうな!」

 一人称も二人称も、そして口調も、明らかな変化を見せていた。溜まりに溜まった感情が爆発しているのだろう。

「しかもだ! それだけでは飽き足らず、人間どものハンターの中に身を投じ、同胞を殺して回る始末!」

 強く上げた足を床へと叩きつけるように下ろすディラン。苛立ちは強くなっていく。

「そして、3か月前の宣言に歓喜したのも束の間、やはりお前は何も行動を起こさなかった。もはや、俺の我慢の限界を通り越してしまったのだ!」

 ディランの怒り狂った鋭い視線がルナルへと向けられる。

 怒りが向けられる理由には納得のいくルナルだったが、ディランにはそれだけではない、もっと別の感情があるように思えて他ならなかった。

 ディランから感じた違和感。少し考え込んだルナルはある推測に行き当たった。

「もしやディラン……。あなたは人間たちを支配しようというよりは、復讐をしようと考えているのではないのですか?」

 推測を口にしたルナル。すると、その瞬間にディランの口角が少しずつつり上がり始めた。

「ふふ、ふははははははっ!!」

 唐突に笑い始めるディラン。突如の笑いに、思わずびっくりしてしまうルナルである。

「そうかそうか。さすがはルナル、魔王様といったところか」

 気が触れたかのように振る舞うディランは、ルナルの事を呼び捨てにしていた。

「シグムスという国を知っているか?」

 笑い終わったかと思うと、今度はルナルに質問を飛ばしてくる。その表情は狂気に満ちたような笑みを浮かべ続けている。

「知っているもなにも、私はシグムスから戻ってきたのですよ?」

「くくくっ。だとしたら、シグムスの歴史についてはどうだ?」

 ルナルの回答に更なる質問をぶつけてくるディラン。

「それも知っています。その話を聞いて戻ってきたのですからね」

 ルナルはディランへと警戒感を示し、いつでも対応できるように身構えている。

「ならば、この俺の正体にも気が付いているというわけか。ならば話は早いな!」

「やはりあなたは……」

「そうとも! 俺はかつてはシグムスの王子だったディラン・シグムスだ!」

 なんと。アカーシャの部下であるディランは、シグムス王国の元王子だったのだ。

「やはりそうでしたか。今の陛下も呪いを受け入れて不死者となったそうですからね。もしかしたらとは思っていましたが、正解だったとは……」

「ふん、あの国はまったく変わっていないというわけか。ついでだ、せめてもの手土産に俺の事を話してやろうではないか」

「いいでしょう。何の手土産かは知りませんが、その話には興味がありますね」

 ディランは余裕ぶった態度ではあったが、かつての自分に起きた事を語り始めた。

 元々はシグムスの王子であったが、呪いの発動によって弟に王位継承権を奪われ、苦しむ自分は地下へと幽閉されてしまったのだという。ただ、地上に出られないだけで地下を自由に移動できたので、その際に書庫の中で初代国王の一件を知ったのだという。

 それに従い呪いを受け入れたディラン。だが、彼を次に待ち受けていたのは、不死者へとなり下がった事による迫害だった。

 祖国に愛想を尽かしたディランは国を脱出し、プサイラ砂漠を横断して魔族の仲間入りをしたのだという。

 同情しかない内容ではあったのだが、その時の恨みはディランの中でくすぶり続け、やがて人間全体への恨みへと昇華してしまったのだった。

「なるほど、同情は致しますが、どうやら私とはそりが合わないようですね」

「まったくだ。お前みたいな甘っちょろい魔王には、とっととご退場を願おうか!」

 ルナルの言葉に返すと同時に、剣を抜いてルナルへと向けるディラン。これにはさすがのルナルも険しい表情をする。

「この私に対して剣を向けるとは……。その意志、とても固いようですね。でしたら、私も本気で戦わせて頂きましょう。その未練を断ち切るためにね!」

 ルナルも自身の槍フラムグレイブを取り出して構える。

 ところが、ディランは余裕たっぷりの表情を見せて笑っていた。

「何がおかしいのですか?」

 ルナルは不機嫌極まりない表情をする。すると、ディランは笑いながら前髪をたくし上げる。

「本当に愚かな魔王だ! 我が術中に嵌まっているとも知らず、のうのうと槍を構えているのだからな!」

「何ですって?!」

 その瞬間、ルナルが立つ玉座あたりの床が突然光り出したのだった。

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