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神槍のルナル  作者: 未羊
第一章『ハンター・ルナル』

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第9話 アルファガド

「到着です」

 ルナルたちは、ベティスにあるハンターギルド、アルファガドの拠点に戻ってきた。

 ガンヌ街道の目的地まで徒歩で4日も掛かった道のりを、ペンタホーンはたったの1日で走り抜けてくれた。

「うむ、さすがは魔物となった馬なだけはある。そこいらの連中とは速さがまるで違う」

 アカーシャはたてがみを撫でながら、ペンタホーンを褒めちぎっていた。それに対してペンタホーンはとても機嫌がよさそうである。

「あ、ああ。確かに、そうだな……」

 一方で、セインはペンタホーンの上で青ざめてぐったりしていた。よく振り落とされなかったものである。

「ふん、小僧。この程度でへばっているとは情けないな」

「まあまあ、アカーシャ。彼はまだハンター希望の一般人なんですから」

 アカーシャがセインを貶していると、ルナルはアカーシャに近付いて耳打ちをする。すると、アカーシャは驚いた表情をして黙り込んだ。

「さすがに、手綱も鞍もない状態でここまで無事に乗ってこれただけでもすごいですよ」

 ルナルはそう言って、セインを慰めていた。確かにその状態で丸一日馬にしがみついていれば、疲れてしまうのも頷ける話なのである。

 ペンタホーンから降りたルナルたちは、ギルドの馬小屋までペンタホーンを連れて行き、縄でつないでおく。

「今日からここが君たちの家ですからね。いい子にするんですよ」

 ルナルが話し掛けると、ペンタホーンたちが言葉を理解したようにうなずいていた。魔物だからか頭はいいようだ。

 手を振りながら表へ戻ってきたルナルたちは、依頼の達成状況を報告するために建物の扉に手を掛ける。セインには悪いが、まだ休んでいる場合ではない。報告を終えるまでが依頼を受けた者の責務なのだ。

 扉を開けると、いつものようにカランカランという音が響き渡る。中へ踏み入れた瞬間、いつもの声が飛んでくる。

「おー、ルナル、戻ってきたか。……おや、隣はアカーシャちゃんか。カウンターならいつも空けてあるから入って来いよ!」

 いつものマスターの声である。まったく温厚なルナルが、何とも言えないくらいにひきつった顔をしている。それをアカーシャが宥めながらカウンターへと移動する。そして、ルナルたちは黙ってカウンター席に座った。

「マスター、いい加減にして下さい!」

 ルナルは座るや否や、愚痴をこぼす。そして、間髪入れずにお酒の注文を入れている。

「はっはっはっ、悪いな。いつもの癖だからなぁっ! はーっはっはっはっ!」

 マスターは謝るどころか悪びれる。その態度に、ルナルはため息を吐いている。

「おう。ところでお前ら」

 マスターが間髪入れずに次の話題を切り出す。

「はい、何ですか」

 ルナルはものすごく感情のこもっていない声で反応する。

「お前たちの直前に入ってきた連中が騒いでたが、ペンタホーンに乗ってきたらしいな。あの依頼のやつか?」

 マスターの質問に、少し沈黙が漂う。ルナルは仏頂面をしており、どう見ても答えたくないといった感じである。ところが、マスターがものすごく期待を込めた瞳で見てくるものだから、ルナルはため息ひとつ吐いてから説明を始めた。

「ええ、そうですよ。今のあの子たちは落ち着いていますので、変な事さえしなければ問題ありません」

「そうかそうか。さすがは『神槍のルナル』と『紅の砦のアカーシャ』だな! ところでだ、ソルトちゃんは一緒じゃないのか? 『知識の砦』はどこだい?」

 マスターが大声で笑いながら騒ぐ。あまりのわざとらしさに、ルナルの眉がぴくぴくと動いている。

「ルナル様、斬ってよろしいですか?」

「やめておきなさい。ここはギルドの中ですし……。それに、この人がその程度でやめると思いますか?」

 剣に手を掛けるアカーシャが許可を求めてきたが、ルナルはそれを止めさせた。そして、

「ソルトなら、ペンタホーンが暴れた原因の分析を行っています。魔法に関してはソルトが一番詳しいですからね。そんなわけで今は別行動中です」

 ルナルがソルトが居ない理由を話すと、

「そうか、そいつは残念だな」

 マスターは本気で残念そうな顔をしていた。これにはルナルとアカーシャは呆れて物が言えなかった。

「ところでルナル。隣でへばってる坊主は誰なんだ?」

 ルナルの隣で顔を突っ伏したままになっているセインを見ながら、マスターがルナルに尋ねている。気になるのも仕方がない。実はセインはカウンターに座ってからずっとこの状態なのだ。一応方が大きく上下しているので、生きてはいるようである。

「ああ、セイン。大丈夫ですか?」

「な、なんとかな……」

 ルナルが声を掛けると、うつむいたままのセインから絞り出すような声で返事があった。ひと晩ずっと起きてペンタホーンにしがみついていたのだから、おそらく眠気に襲われているのだろう。とりあえず大丈夫そうなので、ルナルは安心してマスターと話ができるようである。

「彼はセイン。依頼に向かう途中で出会った青年です。本人はハンター希望のようですが、何と言いますか、資質をまったく感じないんですよ」

「てこたぁ、一般人って事か?」

「ええ、おそらくは……」

 マスターの反応に対して、ルナルはちょっと口ごもった。

「マスター、その事でちょっとお話が……」

 ルナルの表情を見たマスターは、何かを察したようである。

「ううん? とりあえず訳ありみてえだな。ちょいと奥で話をしようか」

「では、アカーシャ。私はマスターと話をしてきますので、その間、セインの事をお願いしますね」

「承知」

 そんなわけで、ルナルはマスターと一緒に奥の部屋へと移動していった。


「で、話ってのは何なんだ?」

 ドアを閉めるなり、マスターはルナルに尋ねる。

「彼、セインの事で少々」

 ルナルはこう切り出して、マスターにセインと出会った経緯を話す。その中でいくつかの事にマスターは興味を示していたようだ」

「ほう、魔眼石かあ……。こいつぁ、面倒なものを持ち出してきやがったな」

「はい。ですが、不思議な事に、セインが落ち着かせようとしていると、魔眼石が自然と腹部から剥がれ落ちまして、ペンタホーンを魔眼石の支配から解放したんです」

「確かに、魔物使いだとしても、そんな能力は聞いた事がない。だが、興味深いのはもう一個の方だな」

 ペンタホーンとの戦いの事よりもマスターが気になる事とは何だろうか。

「確かに私も驚きました。もうこれは、運命としか言いようがないと思います。ですが、まだ彼に話すわけにも、悟られるわけにもいきません」

「だなぁ。いずれ分かる事とはいえど、タイミングは慎重にって事だな」

 どこか思い詰めたような表情になるルナル。よく見ればマスターの顔も見た事がないくらい真剣である。

「まあ、それはそれとしてだな……。ルナルはあの坊主をどうするつもりなんだ?」

 マスターが質問すると、ルナルの表情が先程とは一変する。その顔は引き締まっているが、笑みを浮かべていた。

「決まっているじゃないですか。鍛えるんですよ。これでもトップクラスのハンターなんですよ? 後続を鍛えるのも役目じゃないんですか?」

「がっはっはっはっはっ! それも、そうだなぁっ!」

 ルナルの答えに、マスターもいつも通りの笑い声が出る。

「そいじゃまぁ、報告がそれくらいって言うんなら、表に戻るか」

「そうですね。セインの状態も気になりますし」

 話を終えたマスターとルナルが部屋を出ていく。

 すると、タイミングよく拠点に入ってくる団体が居た。その団体が入ってきた瞬間、その場の空気ががらりと一変したような感じがする。

「おいおい、実にタイミングがいいもんだな」

 どうやら、マスターやルナルも知っている面々のようである。おそらくアルファガドの関係者なのだろうが、彼らは一体何者なのだろうか。

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