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弓使いのタルゴ

 タルゴは何もない田舎出身の冒険者だ。父親から狩人として仕込まれていたため、弓使い(アーチャー)をしている。

 彼は「拘束(バインド)」といって、敵一体の動きを封じるスキルを持っている。弓と組み合わせれば、確実に敵を葬れる訳で、なかなか便利だと自負していた。


 彼はふるさとがモンスターの襲撃に遭い、ほとんど壊滅状態になったのを機に冒険者になった。

 あの時はそうして別の場所に移り住む人が多く、彼は幼馴染に誘われて、不安定な冒険者になることを選んだ。

 タルゴとしては口うるさい母親や、狩人の家業を継がせようとしてくる父親から離れられればなんでもよかったのだが、意外にこの生活は彼の性分に合っていた。


 気の合う幼馴染たちとの気ままな生活。それに異変があったのは、ごく最近のことだ。

 幼馴染のひとり、クェスがたったひとりでギルドの最難関クエストを成功させてしまったのだ。

 クェスはたちまち注目の的になった。

 ひとりだけちやほやされるようになり、クェスはわかりやすく天狗になった。以前から態度の悪かったカミルたちだけではなく、タルゴやロードに対しても格が違う、とでも言いたげな様子を見せる。


 調子に乗るクェスがタルゴは気に食わなかった。

 確かにクェスは強い。「瞬間移動(テレポート)」という便利なスキルで縦横無尽に戦場を駆け回り、敵を殲滅していく、パーティーの主砲である。

 しかし、頭のできがいまいちで、攻めることに集中するあまり、味方に被害が出ることがあった。


 そうならないように指示を出してコントロールしてきたのがロードやタルゴだ。

 タルゴのスキルは一定時間敵の動きを止めるスキルだ。クェスは後衛のくせに「瞬間移動(テレポート)」で敵陣に突っ込み、よく囲まれる。

 そこをタルゴが敵を止めて、「倍化(バフ)」という自己強化スキルを持つロードが助けてやっているのだ。


 そんなクェスがライカンスロープたちの討伐など、ただのまぐれに決まっている。

 だが、クェスは自分の実力だと信じて疑わない。

 ランクの高いパーティーから引き抜きの誘いがあったと仄めかしており、近いうちに『ヴェンデッタ』から出て行くつもりなのかもしれなかった。


 そんな折に、タルゴは気晴らしのクエストに出ていた。ブレアラットという低級モンスターの駆除という簡単なものだ。

 ロードはクェスを引き止めるために話し合いをしており、三人だけだった。

 彼らがいるのは街に近い岩山の麓である。本来はもっと山奥に生息しているはずのブレアラットが街の近くに出て困っているとのことだった。


 ブレアラットは駆け出しの冒険者でも狩れる弱いモンスターだ。特に危険もないため、それぞれ分かれて行動することにした。

 「拘束(バインド)」をかけ、弓で仕留める。そんな単純作業を黙々と続けた。そうして屍を積み上げているところへ、パーティーの回復士(ヒーラー)がやってきた。


「タルゴ、ちょっといいか?」

「どうした?」

「ブレアラットの数が減らなくてな……。少し調べてみたんだが、どうも、山の上の方から逃げて来てるみたいなんだ。多分天敵か何かがいるんだろう。そっちを倒しに行かないか? 正直、数が多すぎてきりがない。天敵がいなくなればネズミどもも、元の寝ぐらに戻るだろ?」

「そうなのか。うーん……。じゃ、そうするか」


 タルゴは少し悩んで、男について行くことに決めた。

 最初こそ楽しかったが、すっかり飽きてきていたのだ。ここらへんでもう少し強いモンスターと戦いたかった。

 男の後を追い、しばらく山を登ると突然、何かを打ち鳴らすような大きな音がした。


「何だ!?」


 周囲を見回しても何もいない。ただ、深い陰が差した。咄嗟に見上げて、タルゴは固まった。

 遥か上空に翼を広げてこちらを警戒する大きな鳥。あれは。


「ろ、ロック鳥!」


 縄張り意識が強く、攻撃的で、人を喰らう危険なモンスターだ。タルゴは慌てて逃げ出そうと背を向けた。


「うわぁっ!」


 その背中に強烈な突風を受け、タルゴは吹き飛ばされた。地面に叩きつけられ、さらに斜面を転がる。自分の姿勢がわからず、なんとか止まった時には、全身が痛みを訴えていた。

 意識が遠ざかっていく。


「……死んでないな。でも思ったより大怪我だ。止血だけ先にしておくか」


 空を引き裂くようなロック鳥の雄叫びに紛れて、そんな声が聞こえた気がした。



 ◇◇◇



「タルゴ、起きてくれ!」

「……ん?」


 必死に揺さぶる誰かによって、タルゴは目覚めた。


「よかった! どこも痛いところはないか?」

「ない……と思うが」


 タルゴは返事をしながら首を傾げた。状況がいまいち飲み込めなかった。


「お前、全身骨折してたぞ。何があったんだ?」

「いや、何があったと言われても」

「ロック鳥は死んでるし、タルゴは虫の息だし、本当にびっくりしたんだぞ。回復魔法が間に合ってよかった」

「はぁ?」


 タルゴは周囲を見回し、息を呑んだ。彼のすぐ側で、本当にロック鳥が死んでいる。体にはいくつもの矢が刺さっていた。


「一体、誰が……」

「誰ってタルゴだろう。ほら、この矢はタルゴのものじゃないか」


 そう言って男はロック鳥の近くに落ちていた矢を彼に見せた。確かにタルゴの矢である。でもそれは、街の武器屋で簡単に手に入る量産品だ。


「きっと大変な死闘で記憶が混濁しているんだろう。俺が見つけた時、本当に酷い怪我だったから」

「そう、なのか……?」


 半信半疑だが、何度も言われるとそんな気もしてきた。改めてロック鳥を見てじわじわと実感が湧いてくる。

 自分が仕留めた、ライカンスロープなどより恐ろしいモンスター。きっとタルゴはクェスなどより注目を浴びるだろう。

 彼は思わずにんまりと笑っていた。

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