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剣士のカミル

 閲覧いただきありがとうございます。楽しんでいただけたらさいわいです。

「くっそぉ! あいつら馬鹿にして……」


 冒険者のカミルは酒場で荒れていた。ついさっき、パーティーから追い出されたばかりなのだ。荒れるなという方が難しい。


(タンク)なんてもう必要ないって……。俺がどれだけお前らを守ってやったと思ってんだよ!」

「まあまあ、落ち着けって」

「落ち着いてられるかよ!」


 カミルは苛立ちに任せて宥めてくる隣の男に当たり散らす。


「あいつらと組んで三年だぞ、三年! 最近強いモンスターを倒したからって調子に乗りやがって、『俺たちとお前は格が違う』なんてよおっ!」

「まあまあ、落ち着きなよ。

 実際、格が違うってのは本当じゃないかい? アンタがいたパーティーってあの『ヴェンデッタ』だろ?

 確か西の平原に住む毒龍だの、ヘグメント山を占拠してたライカンスロープの群れだの、人喰いロック鳥だの最難関の討伐クエストを単独で成功させたとかいう実力者揃いじゃないか」

「……そうだよ。そうだけどさぁ」


 見かねた酒場の主人にそう指摘され、カミルは意気消沈する。酒を流し込んで項垂れた。


「あんなん、まぐれだよ……。あいつら、そんなに強くねーもん」

「まぐれだろうと倒したことは事実だろうが。飲み過ぎだよ。これで最後にしときな」


 酒場の主人は慰めの一杯をカミルの前に置くと、別の客の接客に向かう。カミルは唸りながらも、最後の一杯を両手で包むように持った。

 彼がいた『ヴェンデッタ』は戦士(ウォリアー)のロード、魔道士(ウィザード)のクェス、弓使い(アーチャー)のタルゴと剣士(フェンサー)のカミルで構成されていた。カミル以外は同じ村出身の幼馴染同士だ。


 彼らと出会ったのは互いに駆け出しの頃のことである。

 ひとりで冒険者登録をしたカミルはどこかのパーティーに参加したかったし、ロードたちは仲間を探していた。それだけのきっかけだ。

 正直言って、彼らとの付き合いはあまり楽しいものではなかった。彼らは恵まれた強力なスキルを持っていたが、戦い方はそれ頼りで実力に欠け、カミルがフォローする羽目になることが多かったのだ。


 そのくせ、助けられても感謝しないどころか、自分たちが少しでも負傷すると仕事をしてないと(なじ)られる。

 彼ら三人の結束は強く、責められるのはいつもカミルだった。


 改めて思い出すとよくも三年もパーティーにいたものだと自分の忍耐力を誉めたくなる。そんな我慢をして、やっとパーティーの名前が売れてきたというのに、解雇を食らってしまった。

 そんな話をぐだぐだと隣の男に愚痴る。終いには泣けてきて、ぐす、と鼻を鳴らした彼の背中を隣の男が撫でた。暖かな手だった。


「大変だったな」


 染み入るような優しい声にますます涙が出た。カミルは男に慰められながら、酒をちびちび啜る。


「でも、解雇されてよかったかもしれないな」


 男が不意にそんなことを言い出して、カミルは首を傾げた。彼の実力はそれほど高くない。ひとりでは稼げる難しいクエストに挑戦することすら無謀だ。

 これから彼を受け入れてくれる新しいパーティーを探さなければいけないし、その間の生活が苦しくなることはわかり切っていた。『ヴェンデッタ』解雇がいいこととは到底思えない。


「こんなに名前が売れたんだ。『ヴェンデッタ』はこれから最難関のクエストばかり受けるようになるだろう。そうなると(タンク)のお前にかかる負担もとんでもないことになっていたんじゃないか?」


 そう言われゾッとした。

 そうだ。『ヴェンデッタ』は特に凶悪なモンスターを立て続けに倒した。今さら普通のクエストなど世間が許さないだろう。

 それに連れて行かれるなんて、ごく普通の冒険者であるカミルにとっては死にに行くようなものだった。


「まったくあんたの言う通りだ。命拾いしたぜ」


 思わぬ可能性を指摘され、すっかり酔いの覚めたカミルは最後の一杯を飲み干すと、男を残し店を出て、宿へと帰った。

 明日からは新しいパーティーを探すか、ソロのクエストである。大分酒を過ごしてしまったが、不思議と二日酔いになるような気がせず、すっきりした気分で眠りについた。



 ◇◇◇



 『ヴェンデッタ』から解雇されて三ヶ月後、カミルは新しいパーティーで毎日忙しくしていた。あの後、欠員の出たパーティーに運良く拾って貰えたのだ。

 新しいパーティーは意欲的で、様々なクエストを受けるため忙しいが、以前のように誰かの尻拭いばかりさせられることはない。

 むしろ庇えば感謝されるのだから、モチベーションが違う。

 メンバーも気持ちのいい者ばかりで、『ヴェンデッタ』での三年はなんだったのかと思うほど充実した日々を送っていた。


「カミル、おはよう〜」

「お、おはよう」


 ただ、男所帯だった前と違って、今のパーティーには女性が二人おり、慣れないカミルはどきまぎしている。

 今まさに寝起きで着替えが終わったばかりの彼の部屋へ突撃してきた魔物使い(テイマー)のアリスはフレンドリーな性格で、スキンシップも多く、どうしても意識してしまう。


「ねえねえ、これさ〜、カミルが前にいたパーティーのことじゃない〜?」

「新聞? また『ヴェンデッタ』が手柄を上げたのか」

「違うよ〜」


 アリスはベッドに座った彼の隣にさりげなく座って、新聞を開く。距離の近さにどきまぎするカミルだったが、一面に踊る「ヴェンデッタ、クエスト失敗?」という大見出しに目を見張る。


「えっ、うそだろ……」

「ほんとだよ〜。なんか、シルバーウルフの群れの駆除に行ってから帰ってこないんだって書いてある〜」

「そんな、まさか……」


 シルバーウルフはモンスターの中でも中級程度の強さしかない。もっと格上のライカンスロープの群れをひとりで殲滅したクェスがいるのに、負けるとは信じられなかった。

 単純に数が多過ぎたのかと記事を読み込むが、ライカンスロープと同規模の群れのようだった。その後、別のパーティーによって駆除されている。

 そのパーティーや、ギルドで『ヴェンデッタ』の行方を捜索した結果、装備していた武器や防具は見つかったものの、生きているのかどうかの痕跡は発見できなかったそうだ。


「一体何があったんだ……」

「さぁね〜。でもシルバーウルフに負けてるあたり、前の偉業はあれじゃない? ラッキーパンチってやつ? たまたまだったんだろうね〜」


 本当にそうなのだろうか。改めて彼らのことを思い出すと、アリスの言葉が正しいような気がしてきた。

 スキル頼りで、地力の足りない彼ら。そういえば、全員例の凶悪モンスターを倒した時の記憶があやふやだと言っていたから、火事場の馬鹿力のようなものだったのかもしれない。

 どちらにしろ新聞に書かれていることが真実なら、全員生きてはいないだろう。


「あいつらバチが当たったんだよ〜。カミルのこと追い出したりするからさ〜」


 アリスはそう言いながら、呆然とするカミルと腕を組んできた。思わず飛び上がる。


「アリス……! 近いっ! 近いから!」

「そんなことないよ〜。ほら、今日のお仕事に行かないと〜」

「離れて、頼むから!」


 押し問答の結果、そのまま階下にある食堂へ向かうことになってしまった。

 朝食を食べながら今日のクエストを選ぶのが、今のパーティーの習慣だった。


「そういえば、『ヴェンデッタ』って三人パーティーなんだね〜。カミルを入れても四人だし、大変だったでしょ〜」

「えっ、あ、うん……」


 女の子と腕を組んで歩く、などという初めての経験に混乱するカミルは生返事をしてしまった。

 アリスは特に気にした様子もなく、「そんなパーティーを支えてたなんてカミルは偉いね〜」などと言っている。

 ふと、カミルはアリスに言われたことを思い出して違和感を覚えた。


 カミルは改めてアリスを見る。彼女は魔物使い(テイマー)だから、三体の使役獣を連れている。

 まんまるな体に申し訳程度の小さな翼を持つ鳥型のモンスターは足元を転がり、猿のようなモンスターはアリスの背中にしがみつき、うとうとしている。


 そして、アリスの使役しているモンスターの中では一番上級である、水の体のウンディーネというモンスターがふよふよと彼女の隣に浮いていた。

 少女のような愛くるしい見た目をした、高度な水の魔法と強力な回復魔法を扱うウンディーネの力を借りて、アリスはパーティーの回復を一手に請け負っていた。


 『ヴェンデッタ』のメンバーは戦士(ウォリアー)のロード、魔道士(ウィザード)のクェス、弓使い(アーチャー)のタルゴ、そして、剣士(フェンサー)のカミル。

 クェスは攻撃魔法しか使えないし、他のメンバーには魔法の素質自体がない。回復士(ヒーラー)はパーティーに必要不可欠な存在だ。

 『ヴェンデッタ』にだっていたはずである。なのに思い出せない。


「カミルどうしたの〜? 具合悪い?」

「ああ、いや、なんでもない」


 考え込んでしまった彼を心配そうにアリスが覗き込んでくる。慌てて誤魔化した。


 『ヴェンデッタ』に五人目がいたかどうか、答えは明白だ。彼の記憶にそんなものはいないのだから、いなかったというのが正解である。

 けれども、違和感は拭えない。

 カミルはあの最悪なパーティーで、三年我慢した。その理由がそこにあるのではないか。

 その時、そっ、と背中を撫でられた気がした。暖かく懐かしい、大きな手だった。

 カミルは咄嗟に振り返る。


「カミル〜?」

「……ごめん、気のせいだったみたい」


 背後には誰もいない。カミルは後ろ髪を引かれるような気持ちのまま、歩き出した。

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