46. 冒険者昇格試験
「あー、頭が割れそう」
起きた瞬間から頭の奥まで声が響く。
今まではお金がなかったから、一緒にお酒を飲む人もいなければ機会もなかった。
無縁と思っていたものが、こんなにきついなら、これからはお酒は控えようと思った。
「にいちゃ、起きてよー!」
「もう朝ですよ?」
この二人の声でさらに頭がズキズキと痛みが強くなる。
「お前達元気だな……」
「だって今日も行くよね?」
ロンは既に準備を終えて俺が起きるのを待っていた。
「お兄ちゃん昨日お酒を飲みすぎたんだね」
ニアは俺を心配してコップに水を入れてきてくれた。
水を飲むと少し頭がスッキリとした。
俺達は簡単に食事を済ませると冒険者ギルドに向かった。
もちろん俺は頭痛で食事どころじゃなかった。
だからスキル玉を使って回復魔法をずっとかけていた。
その影響で頭痛は無くなったが、スキル玉は俺の手の中で色を失って砕けていた。
スキル玉を使うこと自体が勿体ないとは思っていたが、スキル【吸収】を手に入れてから気にしなくなった。
少しでも回復魔法の効果も上がっていると思えば問題ない。
俺にはスキルホルダーがないため、スキル玉を持っているよりも吸収した方が効率は良いからな。
「おっはよー!」
「おはようございます」
ロンとニアは大きな声で挨拶をしながら冒険者ギルドの扉を開けた。
「ああああ、おちびちゃん達か……」
「ううううう」
ギルドの中はお酒を飲みすぎて、アンデットのようになった冒険者達で溢れていた。
「あらー、ウォーちゃんは元気なのね!」
「あー、ローナやめてくれー!」
「頭が割れる……」
ロンとニアよりも元気な人がギルド内にはいた。
確かに甲高い声は頭に響くだろう。
俺もついさっき経験したばかりだからな。
「そういえば、ロビンちゃんから君達に頼まれごとがあったのよ」
俺はギルド長からまた手紙を預かった。
ロビンからの手紙ってだけで胸騒ぎしかしない。
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ウォーレンよ
二日酔いはどうだ?
気持ち悪くて今も横になっていたいぐらいだろう。
そのまま寝てたら3000G没収な。
さて、そんな話は置いといてお前達には"冒険者昇格試験"を受けてもらう。
この試験で合格出来れば、お前達は冒険者として活動ができるようになるだろう。
詳しい話は目の前にいるローガンに聞いてくれ。
ロビンより
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「ローナさんこれを見てください」
俺が手紙をローガンに渡すと彼は震えていた。
「あいつまたローガンって言ったわねー!」
実際はローガンと言ったわけではなく、書いただけだ。
紙を横に引っ張っただけで、ローガンは一瞬にして紙を粉々にした。
あれはローガンの力の強さかスキルどちらが関係しているのだろうか。
「とりあえずあなた達は冒険者昇格試験を受けないといけないってことかしらね」
俺達は冒険者昇格試験を受けることとなった。
基本的にこの試験は街の冒険者ギルドであればどこでも受けることができる。
ロビンが王都で受けさせようとしたのは、他のギルドではポーターだからという理由で評価してもらえないからだ。
そもそも攻撃スキルがないポーターは、冒険者昇格試験を受けさせてもらえないことが一般的だ。
基本的に試験内容は先輩冒険者と模擬試合でどれぐらい戦えるかと、個人もしくはパーティーでどの程度の依頼をできるかで判断されるらしい。
盗賊などもいる世の中で敵が魔物だけとは限らない。
ただ、王都の冒険者ギルドで冒険者昇格試験を受けるにはそれだけのリスクもあった。
「えーっと、誰かウォーちゃん達の相手になってくれる人ー!」
ローガンは辺りを見渡すが冒険者達は全員首を横に振っていた。
みんな酒にやられて動くのもやっとだ。
「受けるのは今度に――」
「なら私が相手してあげるわね!」
昨日のロビンとの戦いを俺は見ている。
ローガンとの模擬戦なんかしたら、命が何個あっても足りない。
「えっ……」
「なに、文句あるのかしら?」
「いえいえ、お願いします」
絶対に逆らってはいけないと感じさせる圧力に俺は頷くことしかできなかった。
「えっ、オラもローナちゃんと遊べるの?」
「私も戦ってみたいです!」
どうやら子供達は試験ということを理解していないようだ。
俺もそんな風に感じれたらよかったのに……。
絶対に地獄が待っている。
俺は覚悟を決めてローガンと模擬戦をすることにした。
「マン・マン・マンドラ・ゴラゴラ・マンドラ」
「ゴラ・ゴラ・マンドラ・マンマン」
『ウェーイ! マン・マン・マンドラ! ★をたくさん寄越せヨォ!』
「マン・マン・マンドラ・ゴラゴラ・マンドラ」
『マン・マン・マンドラ! ブクマもよろしくな!』
マンドラゴラは今日も元気なようだ。