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11.逃げてばかりじゃだめだ

 俺が少しずつ後ろに下がるとゴブリン達は俺を見失っていた。ただゴブリンジェネラルとはずっと目が合っている。


 確実に俺のことを認識しているのだろう。


「グギャギャ!」


 ゴブリンジェネラルが叫ぶとゴブリンが俺に近づいてきた。しかし、俺の存在に気づかないのか何もないところに武器を振り回している。


 俺の存在に気づいているのはゴブリンジェネラルだけのようだ。


「あそこなら行けるか」


 近くにいたゴブリンの攻撃を避けつつ、俺はゴブリンとゴブリンでできた隙間を狙って滑り込んだ。


「グギャ!」


 しかし、その判断は間違っていた。その隙間を潜り抜けた先にはゴブリンが待ち構えていたのだ。


 俺は咄嗟に腕で体を守ったが、それでもゴブリンの攻撃は直接俺に叩きつけてきた。


「ぐぁ!?」


 口からは息が漏れ出し、気づいたら木に打ち付けられていた。小さな体のゴブリンでも、俺よりも遥かに強かった。


「グギャギャ」


 そんな俺を見てゴブリンジェネラルは笑っていた。俺は気づいたらやつの作戦にハマっていたのだ。


 あえてゴブリン達に襲うように命令して、逃げ道をつくりそこに俺を追い込もうとしていたのだろう。


 ゴブリンは知能が低いと言われているが、リーダーでもあるゴブリンジェネラルが存在していれば、ゴブリン自体の強さは確実に変わってくる。


 ただ、そんな中で疑問に思ったことをみつけた。それは直接俺を認識できているのなら、わざわざゴブリンを使わなくても自分自身で攻撃してこればいいということだ。


 それなのにゴブリンジェネラルは指示を出すだけだ何もしてこなかった。


 俺は体を起こすと、木に隠れるようにゴブリンジェネラルの視覚を誤魔化した。


 そこからゆっくりと隣の木に移動すると、ゴブリンジェネラルはまだ俺がいた木を見ている。


 やはり視覚で認識は出来ているが、注視し続けることができないのだろう。


 俺はそのまま隠れていたが、ゴブリンジェネラルは森の奥に帰ろうとしなかった。何か気配を感じているのだろうか、常に辺りをキョロキョロと見ている。


「どうやったら逃げれ……いや、俺は冒険者なんだ。スキルがなくても俺には装備があるんだ」


 逃げようにも逃げられない環境に、このままだといつまで経っても変わらないと思った。


 ランクとしては高ランクの敵だ。それでも、ここで戦わないと常にアドルの後ろにいた俺と変わりない。逃げてばかりの自分と決別するために、ゴブリンジェネラルと戦うことを決意した。


 少しでも逃げる隙を作ればいいのだ。


 俺には存在を消す匠の外套がある。


 武器にも運が発揮される短剣がある。


「今の俺には匠のシリーズがあるんだ」


 俺は自分自身を鼓舞して靴を横にある木に向かって投げた。その瞬間、ゴブリンジェネラルの意識が靴の方に向いたのに俺は気づいた。


「グギャギャ!」


 投げた靴を襲うように自身で動き出したのだ。確かに命令するより自分で動いた方が早いが、その選択は間違いだ。


 俺はゆっくり忍び寄ると、後ろから思いっきりゴブリンジェネラルに短剣を突きつけた。


「グギャアアァ!!!」


 何か仲間達に伝えているが、それでも俺は何度も何度も短剣を抜いては刺してを繰り返す。


 大きな体から俺を振り落とそうとするが、それでも必死に短剣を掴む。


 ゴブリン達が立ち向かうが、やはり俺の姿を見つけられない。


「グギャ!」


 気づいたらゴブリンジェネラルは倒れており、周りにいたはずのゴブリンは居なくなっていた。


「終わったのか……」


 俺は力尽きてその場で崩れるように倒れた。体を動かそうと思っても動かないのは全身の緊張が抜けたからだろう。


「ははは、俺って本当に冒険者になったんだな」


 今まで逃げていた俺はどこか成長した気がした。





 いつもより風が当たり心地良い気分で目を覚ました。目を開けると雲一つない空が広がっていた。


 なぜ外に居るんだろうかと思った俺は隣に目を向けると大きな顔があった。


「ゴブリンジェネラル!? 痛っ!」


 俺は急に立ち上がり後ろに下がった。記憶を遡ると俺はそのまま意識を失い、ゴブリンジェネラルの隣で倒れていたようだ。


「はぁ、驚いて損だったわ」


 俺は近づくと近くにあった短剣でゴブリンジェネラルの魔石を探す。ゴブリンジェネラルもゴブリンと同じで胸の辺りに魔石があるはずだ。


「おー、これって魔石か?」


 ゴブリンジェネラルから出てきたのは見たこともない色の魔石だった。色はゴブリンから出てきた魔石に似ているが、黄色というよりは透明感があり琥珀色に近い。


 勇者パーティーに所属していた時にゴブリンジェネラルを倒すことがあっても、今まで見たことない色に俺は怪しさを感じていた。


 見たことはないが、聞いた話では貴族達が着けている宝石という石にはこんな輝きがあるのだろうか。


「とりあえず街に戻るか」


 俺は投げた靴を探そうと向きを変えると、目の前には靴が落ちていた。


「靴?」


 急いで証券口座を開くと配当の欄は2から3になっていた。きっと目の前にある靴がルドルフの鍛冶屋からの配当だとすぐに気づいた。


「これって履けるのか?」


 俺は靴に足を入れると靴が動いている気がした。


 一度足を圧迫すると、少しずつ広がりちょうどいいサイズ感になっていた。


「これこそ匠の技ってことか」


 今まで履いたことないほど靴は軽く、体自体が軽く感じる。


 俺は新しい靴を手に入れたからなのか、ゴブリンジェネラルを倒したことが嬉しかったのか、いつもより早足で街に帰って行った。


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