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謹賀新年

7.謹賀新年


 慌しくも楽しい年末はあっと言う間に過ぎ去り、由香里は特に事も無く新年を迎えていた。

 そんな中、由香里は桜子と共に初詣に出かけていたのだが…


「お待たせー!」


 新年早々景気の良い声が響いたと思ったその瞬間、先輩四人組に囲まれていた。


「あの、別に待ってないんですケド…」


 すかさず突っ込む桜子に、声の主朱戸が切り返す。


「まあまあ、そんな事はいいとして!あけましておめでとう!」


 相変らずの威勢の良さにたじろぐ桜子だったが、由香里はいつも通りの笑顔で丁寧に頭を下げた。


「はい、あけましておめでとうございます。今年もどうぞ、宜しくお願い致します」


 そう言って頭を上げる由香里。桜子も慌てて頭を下げる。


「あっ、あけましておめでとうございます!由香里共々、今年もどうかヨロシクお願い致します!」

 

 年が替わっても変わらない二人のやりとりに、四人は顔を見合わせて笑う。


「まあ、今年も宜しくな」


「…そうね、きっとまた一年楽しませてくれる事を期待しているわ…」


「ふふっ、新年早々からかっちゃ駄目よ。ところで、二人ともこれから初詣かしら?」


「はい、由香里と二人で丘の上の神社に…って先輩方こそお揃いで何してるんですか?」


「えっと…ねえ」


 桜子の問いに、玄田は何か言いかけて苦笑する。


「…」


「まあ、私達も同じよ。ただ、朱戸が貴女達を見つけたんで折角だからからかいに…じゃなかった、新年の挨拶をしに行こうって駆け出したから皆で付いてきたの。新年早々こんなに走らされるとは思わなかったわね」


 白木は呆れながらも楽しそうに笑うと


「まあここで立ち話もなんだし、どうせ行き先が一緒なんだから話しながら行きましょうよ」


そう言って歩き出した。


 元日だけあって境内は混雑していたが、流れは非常にスムーズで由香里達は程無くして賽銭箱の前に着いた。桜子は真っ先に賽銭を投げ入れてなにやら呟き始める。由香里達も続いて賽銭を投げ入れ、手を叩き頭を下げ、暫くして頭を上げると…桜子はまだ何やら呟いていた。


「そりゃまた熱心だねえ!きっと神様もどれか一つ位は願い事聞いてくれるよ!」


 元日早々営業中の「てっちゃん」でそんな話をしていた一同に、年明け早々元気溌剌な哲子が笑いながら話しかけて来た。初詣帰りの客をあてこんで営業しているとの哲子の目論見通り、年明け早々「てっちゃん」は盛況だったが、そんな中でもやはり由香里達の卓が一番盛り上がっていた。


「そう言えば、アンタ達も今年は後輩ちゃんが出来る訳よね?」


 熱々のお好み焼きを頬張りながら、唐突に朱戸が言うと、由香里と桜子はハッとした様に顔を見合わせる。


「そっか、そう言えばそうよね」


「そうですねえ、でもまだまだ先の事かと思っていました」


「…そうね、まだ先の話…それより、何で急にそんな話をしたのかしら…」


「えっ?いや特に深い意味は無いけど」


「あら、やっぱりそうなのね?流石は朱戸、新年早々相変らずね」


 さらっとまとめる白木と対照的に、何か言いかけて言えなかった玄田。年が明けても変わらない皆の様子に、由香里は思わず笑顔になった。


 楽しい冬休みはあっと言う間に過ぎ去り…


「あー、なんでまだお正月なのにガッコ行かなきゃなんないのよー」


 思い切りローテンションな桜子の呟き。対照的に由香里は相変らずの笑顔で答える。


「サクラさん、今年もきっと楽しい一年になりますよ。いえ、是非楽しい一年にしましょうね」


「あー、そうね…そうよね!楽しいかどうかは結局自分次第なワケだし、由香里と一緒なら何かありそうだし!だから今年もヨロシクね、大親友!」


「はい、勿論です。こちらこそ宜しくお願い致しますね、サクラさん」


 年が明けても相変らずな二人。そこへ背後から声がかかる。


「よっ、お二人さん!」


 振り返った二人の前には、相変らず元気そうな朱戸の姿があり、その隣には同じく元気そうな玄田が立っていた。


「あっ、おはようございます!」


「おはようございます」


 そう頭を下げる二人を見て、朱戸と玄田は顔を見合わせて笑う。


「な…なんですか二人して?」


「いや、別に。なあ玄田?」


「そうそう。ただ、相変らずだなと思って」


「そうですね。お二人も相変らず仲がよろしい様で、羨ましいです」


「なーに言ってるのよ。お嬢と遊び人だってかなり仲よさげよ!ねえ玄田?」


「そうねえ。少なくとも私らよりは…」


「えーっ?玄田ぁ、アンタ私の親友じゃなかったの?」


 朱戸はそう言いながら玄田の肩を掴んで揺さぶる。


「えっ?あ、いや別に否定してる訳じゃないから…あ」


 玄田は若干うろたえ気味に朱戸をなだめるが、視線を感じて振り返る。


「やはり、お二人は大変仲がよろしいのですね。サクラさんもそうは思いませんか?」


「それは別に否定しないけど…ワタシってまだ遊び人なの?」


「そりゃあ当然!少なくとも私達が卒業するまでは確定だから」


「そんなー。玄田さん何とかして下さいー」


「それは…無理。ゴメンね、こいつ私の言うことなんか聞きやしないから」


「そゆこと!だから諦めなって!」


「あらまあ、では私もそのままなのでしょうか?」


「そうねえ、でもいいじゃない?本当にお嬢なんだし!」


「あー、そっちに関しては確かにその通りよね。あ、そう言えば最近お兄さんはどうしてるの?」


「あ、そう言えばあの事件以来ワタシも会ってないわ。元気してる?」


「ええ、そりゃあもう元気一杯ですよ。まだまだ寒いというのに、毎日の様にバイクに乗って出稽古に出かけたり、知り合いの道場に指導へ行ったり、なかなか忙しい様ですよ」


「そうなんだ…ってあの事件ってナニよ?クロは知ってるの?」


「いや、知らないけど。何それ?」


「あれ、まだ言ってませんでしたっけ?あ、そうだ!この間てっちゃんで話そうとしたのに、何か言おうとするとすぐに朱戸さんが別の話題振るから話せなかったんですよ!」


「えー、私そんなに喋ってたっけ?」


 その問いに玄田は無言で頷く。


「そうだったかー、それは不覚!じゃあいいや、今聞かせてよ!どうせまだ暫く歩くんだし、ね?」


「そうですねえ、まだ時間に余裕はある様ですし、お話しながら参りましょう」


「お、宜しく頼むよ!でもお嬢に任せっ切りだと学校に着くまでには終わらないかもしれないから、遊び人も要所を締めて頂戴ね!」


「…ワタシにそんな役を任せる気ですか?」


「あ、そうか。そりゃあ無理だね!」


「…そこまではっきり言われるとちょっと傷つきますけど」


「うん、それは言い過ぎだ」


「えっ?クロもそう思うの?」


 再び玄田は無言で頷く。


「あ、そうなんだ。ゴメンねサクラっち」


「…その呼び名もちょっと、子供みたいで嫌なんですが」


「えー、じゃあ何て呼べばいいのよー?」


「いや、後輩なんですから普通に苗字か名前で呼べばいいじゃないですか」


「えー、それじゃ他人行儀じゃない。ねえお嬢?」


「そうですねぇ。とは言え、サクラさんが本当にお嫌なのでしたら、どの様に呼んで頂くのが好ましい

のかお伝えするのが宜しいかと思いますが」


「えっ?いや…別にそこまで深刻に考えてる訳じゃ無いし…もう何でもいいです」


「お、ようやく観念したか!じゃあそれに関してはまた後で考えるとして…さっきの話をヨロシク!」


「そうしたいのは山々なのですが…」


「何?」


「もう学校に着いてしまった様ですよ」


「うえっ!マジで?」


「ああ、マジっぽいよ。じゃあその話は後で頼むね」


「えー、今聞こうよー!」


「いや、それじゃ普通に遅刻するし」


「あうー…仕方無い!じゃあまた放課後!」


「うんまたね。ホラ朱戸、行くわよ」


「後で絶対教えてよね!」


「はい、喜んで」


 そう言って由香里は頭を下げるが、桜子がその腕を引っ張る。


「コラコラ、もうそんなに余裕無いわよ!」


「まあ、それは大変ですねぇ。では、参りましょうか」


 放課後…部活に出た二人に早速朱戸が切り出す。


「ねえ、さっきの話教えてよ!」


「えっと…だったら部活終わってから皆でてっちゃんに行きません?」


「そう?まあ私は別にいいけど、他の連中も空いてるかな」


 そう言って朱戸は頭を掻くが、その背後から玄田の声が響く。


「おいっす。私はオッケーよ」


 更に


「何か面白い話?だったら私も…青山も付き合うわよね?」


「…そうね、面白い話なら私も付き合おうかしら…」


白木と青山も加わり、結局その日も下校途中に皆で寄り道する事となった。


 いつも通り夕方の「てっちゃん」は賑わっていた。そんな中でもひときわ賑やかなのが


「それでそれで?どうなったのよ!」


「そしたらですねえ、事もあろうに私と試合した鬼塚のバイクに乗って、と言うか無理やり乗せられて…」


 桜子のトークに必要以上に突っ込みを入れる朱戸、それを時たま止める玄田。そして隣の席で桜子の話が真実かどうかを由香里に確かめる白木と青山。更には確認の為に互いの卓にも質問が飛び、先輩四人組が全てを理解したのは暫く経ってからだった。


「そして、全てが終わった後で、やはりこの場所で一緒にお食事をしたのですよ」


 由香里の締めの言葉で一同は納得する。


「何かすっごいな!でも楽しそうじゃん?」


「いや、楽しくは無いだろ」


「…まあ、朱戸の言う事も解からなくは無いけれど…」


「そうね、でも正直楽しんでる余裕は無かったでしょ?」


「あー、確かにそうでしたね。何しろワタシなんてキョーコの後ろで騒ぎまくってたし、山頂でも彼女の後ろに隠れて適当に手を出してただけだし」


「それでも、サクラさんは二人も懲らしめたのですよ。凄いですねぇ」


 そう言って微笑む由香里。同時に感心した様に四人は頷いた。


 三学期はあまりにも早く過ぎ去り、武勇伝を披露したかと思ったらあっと言う間に期末テストと言う名の恐怖が桜子を襲った。身体の方はともかくとして、頭脳戦に関しては全く防壁を張っていなかった桜子は…意外にも学年八十位と言う好位置につけていた。当然の事ながら桜子は自己記録を更新したのである。


「よーっしゃあーーっ!」


 歓喜のあまり叫ぶ桜子。右手を上げてガッツポーズをしている所へ南城が通りかかる。


「…嬉しそうで何よりだ」


 一言だけ言い残して立ち去る南城。


「何よーっ!自分が十位だからって、人のいい気分を邪魔しないでよ!」


 むくれる桜子。しかし由香里は


「まあ、南城さんもサクラさんを祝福して下さいましたよ」


 相変らずの言葉をかける。すると今度は大道がその背後に立った。


「お、今回はイマイチだったな…まあ部活ばっかやってたから仕方無いか」


 若干悔しそうな顔の大道。その順位は…


「四十七…全然良いじゃない!アンタ自分が見た目より出来てるって自覚してるの?ちょっとは八十位で喜んでるワタシに気を使いなさいよね!」


 流石に正面切って八つ当たりをされては敵わない。大道は即座に退散しようとするが、由香里の順位を見て桜子に告げる。


「そう怒るなよ、第一お前の大親友はベストテン入りじゃんか」


「え?…えーっと…由香里は…七位…」


「サクラさん?」


「い、いいのよこれは!だって由香里は大親友なんだし、嫌味とか言わないもん!」


「…何だそりゃ」


 最早なす術なし、そう悟った大道は今度こそ退散した。


 そんな彼女達にも時間は平等に訪れ…二年生となる日を迎えた。



とうとう一年生も終わり。次からは2年生となってしまうのだがっ!!果たしてこんな暢気者とうっかり者に後輩が導けるのか?…どうなるんだろう?

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