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お別れ、出会い

とうとう彼女達も三年生になり、残すところ一年足らず。先輩が去った後の最上級生として振舞おうとしたりもするけども、やっぱり自分達の事で精一杯。そんな日々にも修学旅行という一大イベントが。さて、何か起きるかな?

14.お別れ、出会い


 蝶湖の意外すぎる進路に驚いてから、その旅立ちまでは正にあっという間だった。卒業式を終え、皆で空港へ見送りに行ったのも早二週間前。ついに最上級生となってしまった由香里と桜子は、相変わらずの調子で揃って登校していた。

「ねぇ由香里?」

「はい」

「ワタシ達ってさあ…もう高三なんだよね」

「はい、そうですよ」

「…そうなんだよねぇ」

「はい。そのお言葉も、私既に三度は耳にしているかと」

「まあまあ、それは言わないでよ」

「サクラさんは、三年生になった事に何か不安でもおありなのですか?」

「えー、そりゃそうでしょ!だって最上級生だよ?上がいないんだから模範とかにならなきゃいけない訳だし、それに何と言っても受験よ受験!正直今んトコやりたい仕事がある訳でもナシ。かと言って大学なんて行けるとは思わないし、専門学校はお金かかるって言うし、どうしよう?」

 桜子の話を聞いていた由香里は、不意に感心した様な顔で言葉を返す。

「サクラさん、凄いですねぇ」

「えぇ?何がよ」

「実は私、毎日の生活で精一杯なのです。ですから、卒業後の進路について今からお考えのサクラさんを尊敬してしまいます」

そう言った由香里の目はキラキラと輝いていた。

「え?いや…まあそんな感心される程の事は無いけど…ね」

照れ臭そうにしながらも桜子は、嬉しそうに笑う。

「あ、せんぱーい!」

 その声に返った二人の目に、駆け寄ってくる美鈴の姿が目に入った。

「おはようございます!」

「うん、オハヨ!」

「はい、おはようございます」

 美鈴を加えて三人で歩いていると、美鈴は何故か嬉しそうに身体を揺らす。

「なーんか、嬉しそうよね?」

「え?わかりますかあ?」

 桜子の言葉に反応した美鈴は、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに口を開いた。

「だって聞いて下さいよ!今日からついに勧誘が解禁されるんですよ?実は既に見込みのありそうな新入生を何人か見つけていますので、先輩方も是非期待してお待ち下さい。ああー楽しみですよー!あ、そう言えば、先輩方はどんな勧誘をされたのですか?」

嬉しそうな美鈴とは対照的に、二人は顔を見合わせた。

「えっと、何かしたっけ?」

「そうですねぇ、特に…何もしなかった様な気が致します」

「だよねー?」

「ええっ?それであんなに部員がいるんですか?凄いです!」

 興奮気味にまくしたてる美鈴だったが、その様子を見る限りでは、自分のおかげで急に部員が増えた事には気が付いていない様だった。由香里と桜子は互いに顔を見合わせて笑うと、更に言葉を続ける美鈴と共に舞い散る桜の下を歩いて行く。


 三年生になって早一ヶ月。桜子は既に来月に迫っていた修学旅行が待ち切れず、子供の様にそわそわしていた。しかし

「さて皆さん、いよいよ来月は就学旅行ですね」

 HRでの塩谷の言葉に桜子の顔はパッと明るくなり

「ですが、その前の中間テストを、どうかお忘れなく」

その言葉で一瞬にして暗転した。

「あー、折角楽しい修学旅行が待っているのに、何でその前にこんな嫌なイベントがあるのー?」

 早速ローテンションな桜子。すると、意外にも由香里より先に三船がその背後に迫る。

「でしたら、今度はお勉強合宿など如何でしょうか?」

「うわっ!って三船っち!びっくりさせないでよ。んで、何よそのお勉強合宿って」

「えっと…この間私が二人に面倒見て貰ったじゃない?だから、今度は私が…って言っても高屋敷さんは私より順位いいから、その高屋敷さんと私で春日野さんと一緒にお勉強すれば、きっといい結果が出るんじゃないかなーって思って」

「それはとても良い提案ですね」

 二人の会話を耳にした由香里は、いつの間にかその間に入り込んでいた。

「試験勉強は、一人だと行き詰っても相談する相手もいませんし、でしたら数人で集まってお互いに解らない所を教えあうのは、とても良い事だと思いますよ」


 そんな由香里の同意もあり、今度は三船の自宅でお勉強合宿となった。またもや由香里のペースで高屋敷家に行く事になりかけたのだったが、何としても今回は自分がもてなしたい。そんな三船の強い思いがあって、お勉強合宿はごく普通の一般的な家庭…かと思っていた桜子の目には、豪邸に見える三船家で行なわれる事になったのである。


「あらあらいらっしゃい。まあまあ皆さん可愛らしいわねぇ」

 三船の…明らかに母親と判る程三船に瓜二つな婦人に迎えられ、由香里達は三船の部屋へお邪魔した。桜子は演劇が好きな三船の部屋だけあって、きっと部屋の中はポスターだらけ…そう思い込んで入った部屋は

「あれ、何かすっきりした部屋だね」

 入って見回すなりそう口走った。確かにその言葉通り、淡い色調の壁紙が張られた室内には、本棚と机とベッド、それだけだった。

とは言え本棚自体はかなり大きく、それが三つ並んでおり、しかも演劇関係は勿論、かなり色々なジャンルの本でぎっしりと埋め尽くされていた。

「うっわー、見たことも無い本ばっかり…ってあれ?この絵本はウチにもあったかも」

 そう言って桜子の取り出した本は、表紙に小さな狐の絵が描かれた、ほのぼのとした絵本だった。

「ごんぎつね…あー、そう言えばちっちゃい頃に読んでもらった事もあったなぁ」

 懐かしそうにページをめくる桜子。由香里と三船は顔を見合わせて笑うと、桜子の邪魔をしないようにお勉強会の準備を始め…

「うんうん…懐かしいなぁ」

桜子がそう言って本を閉じる頃には、いつの間にか机が用意されており、その上にはきちんと勉強道具が並んでいた。

「あ、ゴメンね。すっかり夢中になっちゃった」

「いいえ、楽しそうだったのでつい、声をかけそびれてしまったの」

「そうですねぇ。私も、後で何か読ませて頂きたいと思います」

「うん、気に入ったのがあったら持って帰っても構わないから」

「まあ、それは有難うございます」

「マジで?あ、でも借りといて読まないんじゃ悪いから、やっぱいいや」

桜子の言葉に由香里と三船はまた顔を見合わせて笑った。


 お勉強会、と言っても実際の所は桜子の苦手を克服させる為に、由香里と三船が桜子に教えあう状況だったのだが…二人の説明が上手いのか、はたまた本気を出した桜子が凄いのかはともかく、お勉強会は意外とスムーズに進んだ。

「さあさあ、根の詰めすぎはよくありませんよ。一休みして下さいね」

 そう言いながら三船母がお茶とお菓子を持って入ってきた。誰と無く時計を見るともう午後六時を回っていた。あっという間に二時間もぶっ続けで勉強していた事に、桜子は今更ながら驚く。

「ほえー、こんな長い間勉強してて飽きなかったのは初めてだよ」

 香りのいい紅茶をすすりながら桜子は呟いた。そんな桜子の言葉を、三船母は微笑みながら聞いていたが、思い出した様に由香里達に問いかける。

「あ、そう言えば二人とも今夜は泊まって行くんでしょう?そろそろ晩御飯用意するんだけど、何か食べたいものあるかしら?」

「はい!私は何でも大好きです!」

瞬時に答える桜子。三船と母、それに由香里は互いの顔を見てから、桜子の顔を見て…思わず笑ってしまった。

 それから更に二時間ほどが過ぎ、由香里と桜子は三船母の心づくしに舌鼓を打つ。

「うっわー、コレも美味しい!お母さんって凄くお料理がお上手なんですね!」

「あら、お上手ね。でも嬉しいわ、どんどん食べて下さいね」

 桜子も楽しそうだったが、三船母はそれ以上に何故か嬉しそうだった。その様子に由香里も笑みを浮かべるが、いつしか三船母の目に光るものを認めて箸を止める。

「あの…どうかなさいましたか?」

「あらあらごめんなさいね」

 三船母はそう言いながら眼鏡を外すと、少し顔を逸らして…眼鏡をかけなおして向き直った。

「こんなに賑やかな食卓は、本当に久し振りだったもので、つい嬉しくって」

そう言いながら、今度は心底嬉しそうな笑みを浮かべた。それにつられて、由香里達も楽しそうに食事を続ける。


「ねえねえ、三船っちのお父さんって何してる人なの?」

 部屋に戻るなり桜子が聞いた。三船は少し俯いてから、その視線を机上の写真に移す。その寂しげな視線につられて桜子も視線を移すと、そこには中睦まじい家族の写真があった。

「あれ、これって三船っち?…でも今よりちょっとちっちゃい頃だよねぇ。あ、でもこれはママさんだよね。って事は、こっちの渋いオジサマは…お父さんなの?」

そう言いながら写真を除きこむ桜子。由香里も一緒にその写真を見てみると、そこに写っていたのは、今より若干若い三船母と、制服姿の、桜子の言う渋いオジサマ。そして、その中央に立っているまだ小学生と思しき三船だった。

「お父様は、船長さんなのですか?」

 制服の形に見覚えのあった由香里は、そう言いながら三船に視線を向けた。その視線に一瞬戸惑いを見せた三船だったが、ちょっと息をついてから口を開いた。

「うん…海外航路の船長なの。だから、ずっと帰って来られない事もしょっちゅう。流石にもう慣れたけど、その写真を撮った後は…凄く泣いちゃったの」

三船はそう言って笑うと、恥ずかしそうに舌を出した。その姿に桜子が壊れる。

「かーわーいーいー!」

叫ぶなり抱きつく桜子。唖然とする三船は咄嗟に由香里に視線を向けるが、当の由香里はにこやかな笑みで二人をみつめ、とても嬉しそうにしていた。

「あ、あの…春日野さん?」

「かすがのさんなんて言わないでよ?」

「えっ?」

「三船っちもワタシの大親友なんだから、由香里みたいにサクラって呼んでよね!」

桜子は真面目な顔で笑みを浮かべながら、そんな事を口走る。

「えっと…うん、サクラっち!」

「大親友!」

若干訳のわからない事を叫びながら抱き合う二人。そんな仲の良さが功を奏したのかはともかくとして、肝心のテストの結果は…


「…うっそぉ」

「サクラさん、お見事です」

「うん!凄く順位上がったじゃない!」

 驚く桜子、微笑む由香里と三船。

「ワタシが…三十位?」

「はい、もう学年トップクラスですよ」

「うん、次は私なんか抜かれちゃうかも」

素直に祝福する二人。由香里は五位で三船は二十二位だった。お勉強会の師匠的な二人は面目を施したものの、その背後に立つ大道は信じられないと言った顔つきで順位表を見ていた。

「おいおい、どんな魔法を使ったんだよ?」

頭を掻きながらそんな事を口走る大道。桜子は振り返ると、ゆっくりと時間をかけて口の端を上げ…

「どうよ!」

一言だけ、しかし勝ち誇った様に叫んだ。

「参ったな…俺も三十五位だぜ。悪くは無かったんだけどなぁ」

そう言いながら立ち去る大道。入れ替わりに現れた南城は、興味なさげに順位表に目をやると、そのまま立ち去った。

「南城?何よアイツ、ろくに見もしないで」

そう言いながら桜子は南城の名前を探す。すると

「あの順位であえて何も言わないって、何か嫌味よね」

恨めしげに見上げる桜子。

「由香里と同点で五位なんて…ムカつく」

 そんな桜子の恨み言から、あっという間に修学旅行前日となった。

「ああーーっ!楽しみーっ!」

 もはや興奮を抑えきれない桜子は、帰り道でいきなり叫んだ。

「えっ?どうしたのいきなり?」

驚いて目を丸くしながら三船が尋ねたが、桜子より先に由香里が口を開いた。

「きっとサクラさんは、明日からの修学旅行が待ちきれないのですね?」

「そう!流石は由香里!解ってるぅ♪」

「ああ、そうなんだ…でも高屋敷さんは凄いね。あれだけで解っちゃうんだから」

「実は、私もとても楽しみなのです。ですから、お気持ちがよく理解できますので」

と、言いながら微笑む由香里。三船も

「まあ、私も実は凄く楽しみにしてるんだけど」

そう言って頬を赤らめた。


 翌日、空港ロビーに集合した一同は一様にうきうきしていた。桜子や大道などは見るからに浮ついていたが、南城までもが若干嬉しさを堪え切れないかの様に山本達と何か喋っていた。

「あらら、珍しく南城も笑顔だね」

「ええ、今日はいつになく楽しそうで何よりです」

 南城の顔を見て桜子と由香里はそんな事を言うが、三船にはどこが普段と違うのか、全くわからなかった。


 数時間後、那覇空港に着いた一同は空港ロビーで早速はしゃぎ始める。とは言え塩谷が今後の予定を話し始めると、その内容を聞き漏らすまいと一同は静まった。と言うのも無理もない事で、旅行前の事前説明で聞かされていた話に、ろくに説明を聞かなかったせいで他の生徒の半分も楽しめなかった、可哀想な先輩がいたという話があったからだった。

 そんな事もあり、初日と二日目の団体行動は恙無く終わった。そして誰もが楽しみにしていたグループ行動の朝を迎える。

「ふっふーん♪たっのしみー!」

 朝食バイキングで山盛りにした皿を前に、桜子は鼻歌混じりに上機嫌だった。

「あらまぁ、今日はいつにも増して楽しそうですね」

「そりゃあそうよ。まあ昨日までだって楽しかったけど、観光しながらお勉強ってカンジだったじゃない?でも今日は由香里みたいな大親友と一緒に好きな所回れるんだよ?嬉しいに決まってるじゃない!」

「そう言えばそうですねぇ。私は昨日までの団体行動もとても楽しかったのですが、実は今日の水族館がとても楽しみなのです」

「そうなんだ?ちょっと意外…でもないか、由香里って生き物とか好きだしね」

「はい、お魚さんが気持ち良さそうに泳いでいる姿は、見ているだけで癒されますから」

「そうかもね。でもワタシは由香里を見てると癒されるわ」

「はい?」

「いや、何でもないよ」

 そんな二人の会話を、傍らの三船も笑顔で聞いていた。


 目的地に着くと同時に、桜子は駆け出して入り口のジンベイザメを見上げた。

「うっわー、なんだコレ?ねえっ、写真撮ろうよ!」

 早速携帯を取り出すと、桜子は由香里と見船に手招きをする。更には

「すみませーん!ちょっと写真撮って貰えませんか?」

全く気後れなく、たまたま通りがかった少女に声をかける。

「えっ、私?」

「そうそう、まあ急いでるんなら無理にとは言わないけど、駄目?」

「いや、写真位なら別に」

「有難う!じゃあ、合図したらここを…こうして…こう」

「ええ、私も同じの持ってるから大丈夫よ」

「本当?よかった。じゃあ宜しくお願いします!」

 桜子は由香里の隣でポーズを決めると

「じゃあ、可愛く撮ってー!」

そう言いながら手を振った。同時にシャッター音が響き

「おおー、凄くよく撮れてる!ワタシは当然だけど、由香里も三船っちもめっちゃ可愛いじゃん!本当に有難うね!」

桜子は少女の両手を取って感謝の言葉を述べると、少女はクスッと笑って

「アンタ、面白いね。それに…」

「ん?なーに」

「また、会いそうな気がするわね」

「そうね!だってもう貴女はお友達だし」

「えっ?」

「って流石に図々しいか!ゴメンね、変な事言って。それじゃ、本当に有難う!」

 そう言いながら、桜子は再度頭を下げた。


「すっごく楽しかったねー!」

 結局全エリアを回り、更にお土産の袋を両手にした桜子が満足げに声を上げた。その足で繁華街へ行くと、桜子は更に元気一杯駆け回り、更にお土産の袋が増えていった。とは言え、流石に初夏の沖縄。暑さに耐えかねた桜子は

「あー、なんか冷たいもの食べたいわね」

唐突に呟いた。すると、待ってましたとばかりに三船が

「それなら、行ってみたいお店があるの。凄く美味しいかき氷があるんだって。行ってみない?」

興奮気味な三船の言葉に、桜子のみならず由香里までもが明るい顔になり

「そりゃあ、行くしかないじゃない!」

「はい、是非ご一緒させて下さい」

「うん!じゃあ行きましょう!」

 その言葉から早一時間…

「ねえ、そのお店ってすぐ近くって話よね」

「そうですねぇ。どうやら、先ほどから同じ所をぐるぐる回っている様に感じます」

「えっ?いや…そんな筈は無い…と思うんだけど」

三船は言いながらガイドブックを覗き込む。しかし

「あれー、この辺りにある筈なんだけど」

そう言いながら不安げに辺りを見回すだけだった。

「どこなのよ?」

 痺れを切らした様に桜子が覗き込むが

「うーん?…ってか、ここはドコなの?」

全く話にならなかった。

「ねえ由香里、この地図が間違って…あれ、由香里?」

いつの間にか由香里は姿を消していた。桜子が慌てて辺りを見回すと、何故か由香里は金髪の男女四人組と楽しげに話をしていた。

「由香里…何してるのかな?」

「さあ…それより凄いね、高屋敷さん。あれってどう見ても外国の人でしょう?なんか普通に会話してるみたいだけど…あ、戻って来た」

「すみません、お待たせ致しました」

 由香里は戻ってくるなりそう言って頭を下げた。どうやら話を聞く限りでは、ガイドブック片手に困っている内の一人と目が合い、ついつい道案内を始めてしまったらしい。

「全く、由香里はお人よしねぇ」

「うん。でも高屋敷さん凄いよ、外国の人と普通にお話できるなんて」

「そう…でしょうか?」

そう言いながら首を傾げる由香里。二人は顔を見合わせて苦笑した。

「それはそうと、どうやら先程の方々が私達の探しているお店をご存知だった様ですよ」

「えっ、マジで?」

「それは偶然ですね!どこなんですか?」

「あちらです」

 そう言って前方に手を差し伸べる由香里。その方向を見た二人の正に目と鼻の先に、お目当てのお店ののぼりが立っていた。

「こんな近くに…」

「あったんですね…」

 呆然と立ち尽くす二人。そして、三船の手には何故かガイドブックが上下逆に握られていた。


「つっめたーい!」

 お目当ての氷ぜんざいを口にするなり、桜子は嬉しそうな声を上げた。

「うん、でも美味しいわね」

「はい、やはり暑い時に頂く氷は格別な物ですねぇ」

 三人はそれぞれ、苺、抹茶、黒糖のかき氷が乗せられた氷ぜんざいを前に話も弾む。そんな中、桜子は由香里と三船の氷にも手を出し、尚且つ勢いよく自分の分も頬張ると…

「あっ…頭…キターっ!」

何故か嬉しそうに叫ぶと、頭を押さえた。

「あらら、そんなに勢いよく食べるから」

「でも、そのキーンとなる痛さも氷菓子の醍醐味ですよね。あら、私も来た様です」

そう言いながら今度は由香里までもが頭を押さえた。

「さあ、折角沖縄まで来てるんだから、三船っちも」

「ええっ?」

「流石はサクラさんです。きっと良い思い出になると思いますよ」

「高屋敷さんまでっ?」

意外な言葉に躊躇する三船だったが、二人の眼差しに決意を固める。

「じゃあ…行きます!」

 一気に氷をかきこむと、二人と同じ様に頭を押さえた。その瞬間

「いただきっ!」

桜子は絶妙なタイミングでシャッターを切った。

「うんうん、よく撮れてる!」

「まあ、サクラさん写真を撮るのがお上手ですねぇ」

「いつの間に…あ、私にも見せて!」

 写真を眺めつつはしゃぐ三人に

「お冷はいかがですか?」

 バイトかと思われる少女が声をかけた。

「あ、下さーい」

「私も、お願い致します」

「あ、私はまだ残ってるからいいです」

「はい」

 そう言いながらお冷を注ぐ少女の横顔を見て、桜子は由香里に耳打ちする。

「ねえ、この子見た事あるよね?」

「そうですか?…そう言われると、確かに…それもごく最近…ああ!」

 突然大きな声を出した由香里に、当の少女に加えて桜子と三船までもがびっくりしてしまった。

「ちょ…由香里?」

「いきなり大きな声出されたら、びっくりしますよー」

「あの…何か?」

 そんな周りの様子はさて置き、由香里は少女の顔を覗き込む。

「あの…何か?」

「やっぱりそうですよ。先程水族館でお会いした方ですよね?私達に見覚えはございませんか?」

 由香里の言葉に、一同が思わず顔を見合わせた。


 数分後…

「えー、マジで?じゃあ昔会った事あるかもしれないんだ?」

「そうかもしれないけど…少なくとも貴女みたいな人、一度会えば忘れないと思う」

何故か桜子と意気投合してしまった少女、赤羽りなは、丁度休憩時間になった事もあり桜子達とのお喋りに興じていた。

「あーあ、やっぱり私も都内の高校に通いたかったなぁ」

 不意に寂しげな顔でつぶやくりな。

「だって、いきなり両親揃ってこれからはスローライフだ!とか言い出すのよ。信じられないでしょ?」

「まあ…そうだよね」

「でしょー!でもその時は私まだ小学生だったし、一人で残る訳にもいかなかったから仕方ないんだけどね」

「都内とまでは行かなくっても、関東に親戚とかいないの?」

「いるけど…熊谷って知ってる?埼玉の」

「熊谷?由香里は知ってる?」

「はい、埼玉県北部の…確か夏場は大層暑い所だったと記憶しておりますけども」

「そうそう、そのあっつーい所。そこには親戚が住んでいるし、意外と都心へのアクセスも楽なんだけど…そこの親戚とウチの親が、あんまり仲良くないのよね」

「あらら、それじゃ頼みづらいね」

「そうなの。だから友達ともお別れして、中学三年間と、結局高校三年間もこっちで過ごす事になっちゃったの。でもね、絶対大学はそっちに行くわよ!」

「じゃあ、一人暮らしするつもり?」

「ええ、だからバイトしてお金貯めてるの」

「まあ、それは素晴らしい心がけですね」

「うん、頑張って!」

「有難う!」

 初対面のりなと普通に話す由香里と桜子だったが、若干人見知りの三船は、その様子を黙って見守っていた。すると

「ねえねえ、貴女はどう?沖縄って楽しいって思う?」

 いきなりの問いかけに慌てる三船。

「えっ?わわわ、私?えっと…うん、凄く楽しい。海は綺麗だし、なんか時間がゆったりと流れるし…これも美味しいし」

「そう…やっぱりたまに来るのにはいい所なんだよね」

三船の言葉にりなは一瞬笑みを浮かべると、少し溜息をついた。

「私もね、来たばっかりの時は同じ様に思ったわ。羨ましがる友達も結構いたし。でも、私には退屈。それになんだか先が見えちゃってる気がするし。だから、何がしたいって訳じゃないんだけど…戻りたいの」

そんな言葉と共に、りなは遠くを見つめるように顔を上げた。


「住めば都、と申しますけども、やはり実際にお住まいの方には、それ相応の悩みがおありなのですねぇ」

 ホテルへ戻る道中、不意に由香里が呟くように言った。

「そうみたいだね。まあワタシにはちょっと解らないんだけど」

「そうね、こればっかりは当事者以外には解りにくいと思うわ。でも実際私達がずっとこっちで過ごす事になったら…どうかな?」

 三船は意味ありげに笑うが、桜子は首を傾げるだけだった。由香里と三船は、顔を見合わせて小さく笑った。


沖縄、いいですねぇ。行った事ないけど(笑)でも実際住むとなると結構大変だって話も聞きますね。そんなイメージでりなと言う少女を登場させてしまいましたとさ。次話はとうとう最後の夏休みです。きっと例の如くです。

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