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穏やかな年末年始

13.穏やかな年末年始


 激しい合同稽古も終わり、先輩達も受験勉強受験勉強に専念しだした今、桜子はいまいち気合が入らなかった。

「ねえ由香里、先輩方がいないと、やっぱちょっと物足りないよね?」

 帰り道で桜子が呟いた。由香里も軽く頷くが

「確かに、私も少々物足りなく感じますね」

「でしょー?」

「ですが、私達は後輩を導く立場にある事をお忘れなく」

「えっ?…あ、そっか」

「はい、私達が先輩方にして頂いた様に、後輩達にも楽しく沢山の事を学んで頂きましょう。それこそが先輩方への恩返しになると思いますよ」

にこやかな由香里の笑顔に、桜子はあっけなくやる気になった。とは言え、自分の事だけで手一杯な桜子が後輩達をどうこう出来る訳も無く、専ら指導は由香里が行っていたのだが、それが予想外の撒き餌となった。

「高屋敷先輩直々にご指導頂けるのですか?なら私、これから毎日参加します!」

真っ先に飛びついた美鈴。更にはその美鈴の可愛さに惑わされた数多くの男子と、真面目に護身術を学ぼうとする女子で、いつしか武道場は一杯になっていた。


「おやおや、盛況ですねぇ」

 塩谷は満足そうに笑みを浮かべつつも

「しかし、これ以上増えるとお隣柔道部の稽古の妨げになりそうですね。そこで高屋敷さんに折り入ってご相談があるのですが」

由香里にそんな言葉をかけた。

「折角始めたからには、やはり少しでも上達したいのが人の常でしょう。ですが、ここまで人数が増えてしまうと、一人辺りの稽古時間は限られてしまいます。ですので…」

「はい。では、その旨、今夜にでも伝えておきますね」

「ええ、何卒宜しくお願い致しますね」

「はい。きっと叔父も喜ぶと思いますよ」

「そうでしょうか?そうであれば何よりですね」

「はい」


 そんな会話があった三日後、美鈴を含む女子部員は全て、由香里の自宅にある道場で稽古に励んでいた。

「いつもむさ苦しい道場が、随分と華やかになったもんだ」

 若干にやけ気味に剛次は声を上ずらせた。

「どうでしょうか?私は皆さん素晴らしいと思いますが」

「ああ、由香里が言うならそうだろう」

「叔父様もそう思われますか?」

 嬉しそうな声を上げる由香里。その顔を見た剛次も思わず笑みを浮かべた。

「なーにヤラシイ笑みを浮かべてんだよ」

 いつの間に入って来たのか、二人の傍らに一騎が立っていた。

「何だと?」

「あらお兄様、お帰りなさいませ」

「おう、ただいま。んで、彼女達が由香里の学校の子達か?」

「はい」

「あー、あの子は覚えてるぞ。桜子ちゃんだったよな?」

「はい。私のとても大切なお友達ですよ」

「それで、その相手をしてるのが武さんの姪御さん…だったか?」

「はい、塩谷美鈴さんですよ。塩谷先生の血縁だけあって、腕前も相当なものです。先日の合同稽古でも、中国拳法の使い手に見事勝利致しましたから」

「ほう!流石武さんの姪御さんだな」

「でも、そんな子の相手をしてても桜子ちゃん全然見劣りしないぞ」

「はい!サクラさんの上達振りは、先輩方も皆さん口を揃えて褒めてらっしゃいました。それに、私もその通りだと思いますよ」

 桜子が褒められた事を、由香里はまるで自分の事の様に喜んだ。


「さーて、いっちょ混ぜてもらうかな」

 一騎はそう言いながら女子高生の中に混ざり…

「おおーっ!今の突きをかわすとは!」

「いやー、その身のこなしは凄いよ」

「ええっ!始めたばっかりなの?マジ?」

 剛次だったらまず言えそうも無い台詞を並べ、うら若き乙女達をその気にさせていた。とは言え、一騎自身はお世辞など一言も言わずに思った通りの事を言っていたので、それを相手が本気にするのも無理は無いが。そんな感じで皆を盛り上げていた一騎だが、美鈴はその実力が相当なものである事を見抜く。そして不意に一騎の前に立つと

「あの…宜しければお相手願えませんか」

意外な言葉と共に頭を下げた。


「では、宜しくお願い致します」

「ああ、宜しく!」

 対峙した二人は同時に礼をする。一騎はオープンフィンガーグローブのみ、美鈴は更に防具を身に着けていた。当然美鈴は嫌がったのだが、道場主として防具無しの試合は絶対にさせられない。剛次にきっぱりと言われては従うしかなかった。

「ねえ、前に由香里とお兄さんでやった時はグローブも防具もなかったよね?確か」

「そうですねぇ。ですが、今度のお相手は叔父様の恩師の姪御さんです。あくまでも万一の事を考えての事であって、決して実力不足だと言いたい訳では無いと思いますが」

「ふーん…まあいいわ。これはこれで面白そうだし!」

「そうですね」

にこやかに頷く由香里。同時に

「始め!」

剛次の声が響いた。

「さてと…どうするかな」

 軽くステップを踏みながら呟く一騎。様子見のつもりでいたのだが…

「やあっ!」

 美鈴が一足で飛び込みざまに突きを放つ。

「あれって、この間のカンフー少女の…」

「その様ですねぇ。一見しただけで身に付けるなんて、凄い事ですよ」

「いい攻めだ!」

一騎は余裕でかわしながら、まだ反撃をしない。その後も美鈴に攻めさせるだけで、全然手を出さなかった。次第に美鈴の表情が変わり始め…

「きえええいやあああぁーーっ!」

 突然の雄叫びと共に、美鈴が猛攻を仕掛ける。しかもそれは

「目突きっ?」

驚きながらも一騎はそれを受けるが、更に

「金的かよ!」

急所狙いの蹴りを抑える。だが更に、美鈴は一騎の襟を掴むと、顔面に頭突きを放つ。

「そこまでやるかっ!」

一騎は思わず両手で美鈴の顔を挟む…と言うよりは両側から張り手をかます様な勢いでその頭突きを止めた。しかし美鈴は

「本気でやって下さい!」

そう叫ぶと同時に、一騎の両手を振り払って跳び下がった。

「…参ったな」

 一騎は頭を掻きながら、その視線を由香里に向けた。すると、由香里は笑みを浮かべつつ頷く。

「そうか…ならば」

 一騎は深呼吸をし、美鈴は目を閉じて精神を集中させる。すると剛次の口から

「由香里、よく見ておきなさい」

静かな言葉が漏れた。

「やあっ!」

美鈴は更に勢いを増して一騎に打ちかかる。しかし一騎はまるで柳に風、全ての打撃を受け流し続ける。美鈴は次第に苛立ちを募らせて、その攻撃が大振りになって来た。同時に

「それじゃあ駄目だな」

一騎は軽々と突きをかわすと、最小限のダメージに抑えようと顎先をかすめるようなカウンターを放った。美鈴の腰が落ち、勝負ありかと誰もが思った瞬間…一騎の視界から美鈴の姿が消えた。

「何っ?」

驚きの声を上げる一騎。美鈴は回転しながら突きを受け流し、更に低くなりながら一騎の背後に回っていた。一騎が振り返るより早くその腕を首に回すと、そのまま膝を崩して倒し、裸締めを極める。更に力を込めて絞めようとする美鈴だったが

「惜しいなー」

一騎が平然と声をかけた。見るとしっかりと顎を引き、いつの間にか片手を美鈴の腕の内側に差し込んでいた。そしてその手で美鈴の腕を内側から、更に空いた手で外側から掴むと

「えいやっ!」

気合一閃、美鈴の小さな身体が宙を舞った。

しかもその腕はしっかりと掴んで離さない。今にも床に叩きつけられる、と思ったその瞬間に、一騎は美鈴の身体を引き上げて目の前に立たせた。

「えっ?」

呆気に取られる美鈴にはお構い無しに、一騎はその身体を自分に向け

「ハッ!」

その顔めがけて正拳突きを放った。

「!」

美鈴が見開いた目の直前でそれは止まるが、風圧だけで美鈴はよろける。同時に

「それまで!」

剛次の声が響いた。

 暫くの後、その日の稽古を終えた一同は一息つきながら和気藹々とお喋りをしていた。そんな中、美鈴は由香里に駆け寄る。

「あの、高屋敷先輩?」

「はい、なんでしょう?」

「先輩のお兄さんは、いつもここでの稽古に参加して頂けるのでしょうか?」

「それは…どうでしょうか?私の知る限りでは、ほぼ毎日よそ様に出稽古に呼んで頂いているみたいですので」

「…そうですか」

「ですが、美鈴さんがご希望とあれば、きっといつでも喜んでお相手をなさると思いますよ」

「…本当ですか?」

「ええ、何しろ先程のお兄様は、とても楽しそうでしたから」

「そうですか?でしたら何卒、また稽古相手を努めさせて頂きたいと申していた事、お伝え願います!」

「勿論です。きっと喜ぶと思いますよ」

笑顔で答える由香里。美鈴は頬を紅潮させて

「あっ、ありがとうございます!では、お先に失礼致します!」

そう言いながら頭を下げ、慌てているかの様に早足で立ち去った。その微妙な表情に、桜子は思わずニヤリとする。

「ねえ由香里、美鈴ちゃん、ちょっと怪しくない?」

「怪しい、ですか?何がでしょうか?」

「なーんか、お兄さんの事気になっちゃってるんじゃないかなー…って、ワタシは思う訳よ」

「まあ、そうなのですか?先程の組み手を見た限りでは、お兄様には特に問題は見当たりませんでしたが。でもそんな細かい所に気が付くなんて、流石はサクラさんですねぇ」

「え…?いや、そうじゃなくって」

「はい?」

「いや、いいや。じゃあまた明日ね!」

「はい、また明日お会いしましょう。お疲れ様でした」

「うん、お疲れ様!」


 そんなやり取りがあった事など露知らず、一騎は風呂を出て廊下を歩いていた所で由香里と出くわした。

「よっ、風呂空いたぞ」

「はい。あ、そう言えばお兄様」

「ん?」

「先程組み手をなさった美鈴さんが、是非また今度お相手を願いたいと仰ってましたよ。お時間のある時で結構ですので、また稽古に顔を出して頂けませんか?」

「ああ、そんな事ならお安い御用だ。いつでも言ってくれ」

「では、その様にお伝えしておきますね」

「ああ」

「あ、それとですねぇ…」

「何だ?早く風呂入らないと風邪ひくぞ」

「サクラさんが仰っていたのですが、どうやら美鈴さんが…えーっと…お兄様の動きに気になる所がある、と感じていた様ですよ」

「何?それはどの辺だ?」

「それは…ああ、聞いていませんでした。では私は、お風呂へ参りますね」

「え?…あ、おい」

 意味深な様で意味不明な由香里の言葉に一騎は立ち尽くすが…

「はっくしょい!」

大きなくしゃみをすると、急いで居間へ戻った。


 そんな事があってからと言うもの…

「ん?美鈴ちゃんか…おお、チケット取れたのか!よっしゃ…えーと、こんな感じで…送信っと」

「あら、また美鈴さんからメールですか?」

「ああ、あの子も結構格闘技好きみたいで、俺の好きそうなチケット情報を教えてくれるんだよ」

「まあ、今度は何の試合ですか?」

「それが聞いて驚け!あの打撃系世界一を決める、S1グランプリの決勝トーナメント、しかもリングサイドだぞ!」

「まあ、それはお兄様が予約しても取れなかったのではありませんでしたか?」

「そうなんだよ!一体あの子はどんな手を使って取ったんだろうな?」

「そうですねぇ、私も今度、聞いてみましょう」

「そうだな、自分で出来れば、一々あの子の手を煩わせる事も無いしな」

「そうですか?でも、一緒に観戦しに行かれるのですよねぇ?」

「ん?ああ、そうだよ」

「でしたら、そのままお任せしておいてもいいと思いますよ」

「…そうか?」

「はい、ですから、チケット代の代わりに、お食事などお誘いしてみたら、きっと美鈴さんもお喜びになると思いますが」

「…そうか?じゃあ今度好きな物でも聞いてみるか」

「それは、私が聞いておきますよ」

「ああ、じゃあそうしてくれ」

「はい」


 そんな感じで進展があったかどうかはさて置き、今年も高屋敷家のクリスマスパーティーは昨年以上に盛り上がっていた。その場で久々に揃った先輩四人組を見つけた桜子は、一目散に駆け寄る。

「せんぱー…ぐふっ?」

 いきなりの中段突きをまともに食らった桜子。嬉しさと驚きと苦痛が入り混じった、微妙な笑みを浮かべる。

「朱戸…サン?久々の…挨拶にしては…ちょっと…ひどすぎませ…ん?」

「いやー、つい嬉しくってさ!ねえ?」

 そう言って皆を振り返る朱戸だったが、他の三人は顔を見合わせて苦笑する。その様子に

「あの…せめて一人だけでも否定して頂けないでしょうか?」

桜子が思わず本音を漏らし、今度は揃って笑い声を上げた。


「ところで、やっぱり受験勉強って大変なんですか?」

 唐突な桜子の言葉に四人は顔を見合わせたが、白木と青山、それに玄田は申し合わせた様に朱戸から視線を外した。

「あれ?えっと…」

「ええーい!皆まで聞くな遊び人よ!白木と青山はともかく、何故かクロちゃんまでが推薦入学決定してるワケよ!でも、私だけ就職組なのさっ!そんな訳でいわゆる大学受験はナシ!それが私達の現状なのだよっ!」

何故か笑顔でⅤサインの朱戸。呆気に取られる桜子とは対照的に、由香里はにこやかに

「皆様既に進路がお決まりなのですね?それは何よりです。おめでとうございます」

そう言って頭を下げた。

「有難う。まあ私は青山と同じ大学だし、結構近場なんでちょくちょく会うかもしれないけど、鬱陶しいとか思わないでね?」

「…貴女が頻繁に顔を出さなければ、高屋敷さんはそんな風に思わないわよ…」

「だよねぇ。でも、私はちょっと遠いのよねー。あ、でも免許取ったし、高速使えば半日で来られる場所だけどね」

「はっはっは!私なんか自転車でも行き来出来る会社だってばよ!」

四人は四様に由香里に答え、その言葉で由香里も桜子も大体の事情は察した。


「…でも、あっという間ね、高校の三年間なんて…」

 ひとしきり盛り上がった所で、青山が呟いた。

「そうね、本当にあっという間」

笑顔で頷く白木。玄田も頷くが

「なーにしんみりしてんのよ!卒業までまだちょっとあるんだし、悔いの無い高校生活を送らなきゃ損だよ!」

朱戸は明るい声と共に、かけがえの無い友人達の肩を叩く。


「やっぱ…いいよね」

 その様子を見ていた桜子が独り言の様に呟くと、同時にその背後から声がした。

「はい。私達も来年の今頃、お互いに最高の笑みで向かい合えるといいですね」

「うわっ、由香里!いつの間に後ろに?」

「先程から、一緒に先輩方のご様子を拝見しておりましたけど」

「あ、そうなの?…流石だわ」

「そうでしょうか?」

満面の笑みで桜子を見つめる由香里。桜子は最早何も言う気が起きなかった。しかし、次の瞬間早くも口を開く。

「由香里!アレ見てっ!」

そう言って指差す先には、仲睦まじく腕を組む…と言うよりは大木にしがみつくコアラの様な風情で美鈴が一騎にくっついていた。

「あらまあ、お兄様はすっかり美鈴さんに気に入られてしまった様ですねぇ」

「あらまあって…アンタ気にならないの?」

「はい?それは勿論気になりますよ」

「おお、その答えはちょっと意外」

「ええ、もしも美鈴さんがお兄様とご結婚なさった場合、私は美鈴さんをお姉様とお呼びすべきなのかどうか、それが気になってしまうのです。恐らくそうなった場合、美鈴さんは気兼ねされるのではないかと…」

「それは…話が飛び過ぎなんじゃあ」

「そうでしょうか?」

「いや、もう何でもいいや」

「そうですか?では、私達も精一杯楽しみましょう」

「そだね、それについては異存無しよ!」

 それから由香里と桜子は、同級生や先輩や一騎達…には若干遠慮しながら目一杯に楽しんだ。暖かな光で満ちる窓の外には、いつしか雪が舞い始めていた。


 何事もなく年は明け…

「由香里っ、あけましておめでとう!」

 その声に由香里が振り返ると、年明け早々で元気一杯な桜子の姿があった。

「はい、あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します」

「うん、こちらこそ!」

 そう言いながら互いに頭を下げ、上げると同時に笑みを浮かべた。

「さてさて、今年の初詣は先輩方の必勝祈願だからねっ!気合入れていくわよ!」

「はい、早速参りましょう」

 そう言いながら歩き始めた二人だったが、特に先輩の誰とも申し合わせをしていた訳では無い。クリスマスパーティーの際に耳聡く初詣の予定を聞いていた桜子が、突然押しかけて驚かせようと考え付いて由香里を誘ったのだった。とは言え、由香里にはそうとは言わずに、単に「誘われたから一緒に行こう」とだけ伝えていたのだが。

「あ、いたいた!」

 暫く歩くと、少し前を歩く白木と玄田の姿が目に入った。その少し前には青山と蝶湖の姿もあったが、朱戸の姿は見えない。

「あれ…朱戸さんがいない。あ、そっか!朱戸さんは就職決まったって言ってたし…ん?何か忘れてる気が…」

そんな事をブツブツ呟いている内に、前方から声がかかる。

「あら、貴女達も初詣?」

「…まあ、あけましておめでとう…」

「おめでとう!今年も、ってもう僅かだけどまあ宜しくね!」

白木と青山、そして玄田は揃って声をかけるが、何故か蝶湖は青山の後ろから様子を窺っていた。

「…何してるの?前にも会ってるじゃない。新年なのよ、ちょこもご挨拶なさい…」

そう言われても前に出ようとしない蝶湖。由香里と桜子は丁寧に挨拶を返したが、それでも前に出ようとしない蝶湖の視線を追って、青山は小さく吹き出した。

「ど、どうしたんですか?」

意外な青山の反応に驚く桜子。しかし青山はそのまま笑い続け、何とか息を整えると笑いながら由香里に指先を向けた。

「…ちょこはね、高屋敷さんの晴れ着が怖いみたいなのよ…」

「私の、晴れ着…ですか?」

「何でですか?」

「…綺麗すぎるから、でしょう…?」

その言葉に無言で頷く蝶湖。その反応に一同は沈黙したが

「ぷっ!」

絶えられずに玄田が吹き出すと同時に、一斉に笑い声が上がった。


 朱戸は境内に続く石段の下で待っていたのだが、近付いて来る一同のやけに楽しそうな様子に頬を膨らませると…にやりと笑みを浮かべ、同時に駆け出した。

「あけましておめで…とおおぉおーっ!」

 その声と同時に桜子めがけて中段突きが放たれる。

「うわああっ?」

思わず身構える桜子。しかしそれより早く、蝶湖が反応していた。

「私を無視する気っ?」

蝶湖はすかさず間に割って入ると、朱戸の中段突きを外受けで外し、同時に中段に蹴りを放つ。朱戸もそれを膝で受けると、互いに飛び下がって間を取った。更に次の攻撃に入ろうとした瞬間

「いい加減にしなさい」

白木と玄田が同時に突っ込んだ。見事な手刀を脳天に受けた二人は

「クロちゃん、今の突っ込みは愛がなかったよ?」

「あうー、痛いよたっちゃーん!」

そんな事を言いつつも素直に拳を納めた。

「…全く、成長しないんだから…」

青山は蝶湖の頭を撫でながら、若干寂しげな笑みを浮かべた。

「…でも、貴女は卒業したら海外でしょう?いい加減甘えるのはおよしなさい…」

「うん、だから、せめてここにいる間だけはいいでしょう?」

「…まあ、相変わらずね…」

そう言って青山が蝶湖をぎゅっと抱き締めると、蝶湖も嬉しそうに抱き返した。何か言いたげにしていた桜子も、何故かしみじみとして見入っていたが、不意に声を上げた。

「海外に行くんですかっ?」

興味津々で蝶湖に詰め寄る桜子。すると蝶湖は怯えた様に青山の背後に隠れてしまった。「サクラさん、そんな勢いでは烏丸さんが驚いてしまいますよ」

「あらら、これは失礼しました。でも海外って凄いです!留学ですか?」

桜子は怯える蝶湖から青山に視線を移し、更に食いつく様に迫った。

「…留学じゃないわ、もっと凄い事…」

「まあ、そのチャンスを生かすも殺すもちょこの頑張り次第だけどね」

意味ありげな白木の言葉に、由香里も若干興味ありそうな視線を向けた。すると

「…ちょこ、貴女の未来の目標、可愛い後輩にも教えてあげなさいよ…」

「ええっ?だって私の後輩じゃないし」

「…何言ってるのよ今更、知らない仲でもないでしょうに…」

「そうよ、ちょこだって考え抜いた上で決めた事なんでしょう?だったら照れずに言いなさいよ」

「あうー…たっちゃーん!」

 結局蝶湖は青山の背中に張り付き、そのままの状態で一同は石段を登って行った。


「あの、朱戸さんや玄田さんは何か知ってるんですか?」

 いまだ興味覚めやらぬ桜子の問いに、朱戸はつい大きな声で答えそうになるが

「おっと、一応口止めされてるから、内緒話って事にしといてね?ってか私も細かい事聞いてないんだけどね」

「それでもいいです!何ですか?」

「えっとね…ごにょごにょ…」

「ええっ?ハリウッドデビュー?」

「ちょ…声が大きいって!」

朱戸は慌てて桜子の口元を押さえる。

「まあ、そこまでいくかは解らないけどね。何でもクリスの親戚に映画関係のエージェントがいるらしくって、試合の映像をクリスがメールで送ったらしいのよ。そしたらたまたま動けて面白い東洋人を探していたらしくって、彼女に白羽の矢が立った、って事みたいよ。まあクリスの留学先がウチだったら、間違いなく私がスカウトされてたけどねっ!」

朱戸はそんな事を言ってけらけらと笑うが

「でもさあ…アイツは結構寂しがりやなんだよ。大丈夫かなぁ?」

不意に表情を曇らせると、らしくもない台詞を口にした。その様子に桜子は思わず顔を覗き込むが

「あ、いい事思いついた!」

いきなり大きな声で叫んだ。

「なによいきなり?びっくりするじゃない」

朱戸は怪訝そうな顔をするが、桜子はお構い無しに言葉を続けた。

「実はですね、今日ワタシと由香里は先輩方の必勝祈願の為に来たのです。でもその話を聞いたからには先輩方には申し訳無いですけども、ワタシ達は烏丸さんの必勝祈願をさせて頂きます!」

「はあ?」

またもや怪訝な表情を浮かべる朱戸。桜子は更に意気込みを熱く語るが、流石に耐え切れなくなったのか、朱戸はボソッと漏らした。

「あのさ、そもそも私達の祈願はいらないんだけど…」

「…はい?」

「遊び人もいたよね?高屋敷さんちのクリスマスパーティー。そこで私言ったじゃない、受験生は誰もいない。って」

「えっと…ああーっ!そうか!そうだった!何か忘れてる気がしたけど、その事だったのかー!」

思わず両手で頭を押さえる桜子。

「いや、逆に凄いかもよ」

朱戸はそんな言葉で桜子を批評した。


若干、おかしな話になってしまいました。まぁそれぞれ勝手に動かしているとこうなってしまうという感じですね(笑)そんな訳で次話からとうとう由香里達も最上級生です。どうなるのかは…未定。

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