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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「魔女裁判」随想

作者: 海山ヒロ

「魔女にされた女性たち」「火刑台への道」を読みながら。

コロナ禍の渦中やそれ以後、いまこの瞬間の我らの周りにも同じような状況が見えるのは、なぜでしょうねぇ?


魔女=姦婦、女妖怪、夢魔、女魔術師。


教会や、教会の代わりに実際の刑を下した「当局」はキリスト(神)の敵として魔女を見ていたのに対し、(孤立した)共同体の人々は、魔女を「害悪をもたらす」女魔術師として恐れた。


魔女は、キリスト教の、ひいては教会の力が強いからこそ生みだされたものである。


当時の「知識人」―宗教書の編集者や神学者、法学者、医学者など。文字を読み、解し、自ら書くことが出来る人間たちの想像と幻想、主としてキリスト教を反転させたものとして、「異端」と「悪魔」とその手先である「魔女」が描かれ、流布された。


そして、グーテンベルクの活版印刷が普及するにつれ、挿絵入りのチラシのような「新聞」が大量に巷間にまき散らされ、魔女は蔓延し、「悪い女」は死刑によって相応の報いを受けるべきであるということを、絵と言葉、スローガンのようなもので訴えた。


当時の人々にとって魔女や悪魔、そして神は、自分の身体と同じくらい明確に存在するもので、わざわざ確認する必要もないものであった。

だから、魔女に家族を殺された、傷つけられた呪われた家畜を喰われた農作物をダメにされたという訴えは、証拠を示す必要もなく、彼らが「魔女」だと認識した人物さえいれば、事故や災害、当時の栄養・衛生状態の悪さによる死亡率の高さが招いたことであっても、「魔女」のせいとされる。


その疑いが、彼らの嫉妬心や逆恨みから発したものであったとしても。

自分より多くを持つ者、美しい土地や家畜や家や女や姿かたちを持つ者への妬み、それを奪ってやろうという心からであったとしても。

断罪者にしてみれば、「魔女」とはそうした行為をするものだから。


魔女=悪。「善」に対するもの、憎むべきものという図式は揺らぐことなく存在し、そこには魔女が何故そのような行為を行うのか、それをして魔女になんの利があるのかと言った疑問を挟む余地は、ない。


唯一にして絶対の神がいて。それが「善」である以上、それに対するものは、「悪」なのである。

一神教にとってはそれ以外の論理は存在しない。

そして、自分たちの神が唯一のものである以上、他者の「神々」や「神」は、「間違っている」のである。


なんと傲慢なことよ。君たちの神とやらが、いつ、そんな権利を君たちに与えたのかね。


八百万の神のいます日本で生まれ育った優、「伝説の魔導師?イエイエただの出稼ぎです」の主人公に、多神教の国で生まれ育ったルーカス―――同小説の登場人物―――には、そのような無邪気な傲慢さは生まれようがない。

今回の主役であるマークは一神教のキリスト教国家で生まれ育ったが、歴史を学ぶ者の一人として、中世の同胞のような固定観念は持っていないし、そういった現象が「過去存在した」ことは学んで知っているが、何故そこまで思いこめるのかを、理解はしていない。


対して同じキリスト教国家出身の教授は、中世の人々に勝るとも劣らない妄信は現代でも存在することを体験として知っており、自分たちの利益のためにその妄信をあえて作り出したり、利用したりする人間が存在することも、知っている。

そして、その対処法も。



***************



隣人や時には家族を「魔女」だと告発するにいたる状況とは、どのようなものか。


おそらく最初は。すこしづつ、少しづつ、「皆」の輪から離されることから始まるのかも、しれない。

いままで当然おなじ「輪(和)」の中の一人として数えられていたのが、ある日を境に、呼ばれなくなる。


その切欠がなんなのかは、おそらく外す側でさえ、わからない。が。たとえばこんな状況が考えられる。


「輪(集団)」の中のひとりが、その人物の欠点をあげる。そしてその一人が、その輪の中では頭一つ分ほど抜け出た存在、リーダー、影響力のある、所謂中心人物だったとしたら。

その「輪」の色は、一気に変わっていく。


それぞれ固有の考え方、生活様式、性質をもつ他人同士が寄り集まっているのが集団(輪)である。互いに何かしら思うところはあるだろう。しかしそれを日々逐一あげつらうことはしない。そんな事をすれば、その集団はあっという間に分解してしまうから。


しかし、ある一人に対して中心人物が良い点ではなく欠点を口にすれば、それ以外の人間も、日頃流していたひっかかりを「そう言えば…」などと口に出し、その欠席裁判が終わるころには、その人物に対するその集団の「皆」の意見は「嫌い」でまとまる。よくて忌避や苦手であろう。

彼ら一人ひとりがそれまでその人物をどう思っていたかに関係なく、そのような共通認識イメージが出来あがるのだ。


なんともお手軽なことだが、集団の中での孤立は、こうして生まれのではないだろうか。

学校と違い仕事の集団は、仲良しクラブではないので、孤立するだけならば、特に問題はないように思われる。


が。


その孤立が無意識のレベルではなく、意識して行われるようになれば、問題になろう。つまり、その人物に対して、「皆」が、あえて避ける行動を取り始めれば、ということである。

具体例をあげれば、「必要な連絡をその人物にだけ告げない」といった行動である。


現代の日本の都市部のように、資本主義が発達し、宗教や公的機関(政府や警察など)が強権を持ちすぎていない社会ならば、そのような行動をとられたとしても、仕事に支障はでるかもしれないが、命まで脅かされることはない。

知識やサーヴィスは、金で買えるから。


ただしローマ亡きあと、海賊や山賊から逃げ隠れるようにして山間に暮らす集団の中ならば、そのような行為は即、生死につながる。


だから、魔女として告発されること、孤立することが、なによりも恐ろしいのか。

自分がその生贄とならないように、隣人や家族ですら売り渡せるほど?

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