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10年後の私へ  作者: 高濱 しず
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歴史の流れに立ち止まって

 プロローグ


2032年8月8日、私は28歳の誕生日を迎える。

就職して6年、そろそろ結婚の2文字がちらつく。

仕事は楽しいし、彼氏もいる。しかしながら、まだ踏み切れない。

「葵もそろそろかな?もう大学の時から付き合ってるんでしょ?」

友人の明日香が私の目をじっと見ながら、キャラメルマキアートに紙ストローを差し、こちらの答えを待っている。

私は周りの雑踏が心地よいと感じた瞬間、

「なんかねー。なかなかきっかけがないんよ。」

ぼそっと言って、口の中にチョコスコーンを放り込む。

「さやも結婚して仕事辞めて、今はもう早く赤ちゃんほしいって」

明日香はそう話ながら、マンゴーケーキのムースをフォークに乗せた。口に含んだ瞬間、にやっと笑って言った。

「あんまり、祥くん待たすと違う子にいってしまうよ!」

私は、それも仕方がないかと思った。



 祥との出会い



祥は大学生の時に、写真サークルで出会った。一つ上の彼は「夕焼け」の写真をクラブ勧誘の時に廊下に展示していた。懐かしいあったかいオレンジの光に包まれた橋の写真に惹かれた。それは父の故郷のものに似ていた。祖父母が亡くなってからは訪れなくなったあの景色は私をノスタルジーな気分にさせる。私はその写真の前に立ちつくしてしまった。

「ありがとう。この写真を見てくれて」

大学の文化部室棟の廊下にいることを思い出した私は、その声の人物を見た。私の目線より15センチ上に優しい少し細い目があった。サラサラの髪に華奢な身体、だけどがっしりした肩の骨が見えた。そのアンバランスな彼、(しょう)に私は一目惚れした。

「綺麗な写真撮るやろう?興味あったらぜひうちのサークルに!」

と、次はメガネをかけたふっくらした男性が私に声をかけた。

私は高校でほとんど部活に入ってなかったので、特に何かしたいわけではなく、ただ写真に詳しいわけではないので返事に困った。

しかし、次の男性の言葉に私はドキドキした。

「君、その写真見て立ち止まってくれたね。この写真撮ったのコイツなんだけど。なかなかシャイで自分から話したりしないんよ。でも、君が見てくれたの嬉しかったみたいだね。」

最初に声をかけてくれた彼を見ると、彼は白い肌を少し赤くして頷いた。

「ぜひ、写真を見に来るつもり、携帯のカメラ技術をあげるとかでもいいから。ぜひ入部してよ!私は部長の山田です。コロナで休講続いた時から部員が減って困ってるんだ。」

山田さんは入部届を渡してくれた。私は写真サークルに入ることにした。



祥はモテたと思う。口数は少ないけど綺麗な顔をしていたし、優しい仕草は好かれるだろう。しかし、自分からあまり話さないし、賑やかな場所は苦手だった。その性格からか彼女はいなかった。一つ上の先輩はほとんどリモート授業で大学生としてあまり活動できなかったからかもしれない。写真サークルは3回生と4回生は就職関係であまり人が来なくなった。1、2回生もバイトが忙しいとかで滅多に来なくなった。私は祥と2人で過ごす時間が多くなった。新緑が眩しくなった頃、私は

「付き合って下さい」

と祥に言った。

「僕でよければ。」

と、はにかんで顔を赤くしていて一度目線を下ろし、すぐに祥は私を見つめた。私たちはこうして付き合った。


私は大学へ自宅から通っていたので、祥と会えるのはサークルに行く日と、お互いのバイトがない日だった。撮影に行く日も一緒に出かけた。祥は写真の題材はほとんど自然の風景だった。家の近くで撮影したのは、雨上がりの虹が二重にかかった時、滅多に積もらない雪が積もった日、コロナで3年ぶりの湊祭りの日、数えるぐらいしかない。夢中でシャッターを切る瞬間を狙っている時、私は静かにそっと離れる。集中している時の彼は私のことは見えていない。撮影が終わると

「葵〜。ありがとう、終わったよ〜」と呼ぶ。

私はその声を聞き、ひょっこり顔を出す。帰り道一緒にご飯を食べる。たいていはラーメン。あっ、なれずしとたまごも食べる。

私達は幸せだった。神戸出身の祥は和歌山の麺と寿司を食べる文化に最初驚いていたが今はこれが普通になったと言った。






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