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0.店員カウルの日常

 曰く、その魔導書は先祖代々受け継がれているという。

 その魔導書を読んだものは、すぐさま業炎を扱うことができ、後に大魔道士としての未来が待っているとか。

 冒険者たちが挙ってこの本を求め、争いが絶えないという。

 つまりこの本を手に入れたものこそが、この時代の王者に君臨する。


「という訳で、この魔導書にいくらつけてくれる?」

「5G(ギルドコイン)ってとこですかねー」


 ある街の端。ある中古ショップでなんとも不毛な値段交渉が起こっていた。


「さっきの話聞いとったか?5Gはおかしいじゃろ」


 先程からはした金にしかならない本を高値で売りつけようというこの爺さん。大げさな曰くを付けることで値段が上がると信じている。というか言いくるめようとしている。

 因みに5Gがどの位の金額かといえば、大体一食の平均的な外食の値段が10~20Gといったところ。確かに魔導書としてはかなり安い値段での買い取り金額ではある。

 ではあるが―――


「理由が2つあります。まず1つ目としてこの【ファイアの書】、出回ってる数が非常に多いんすよ」


 そう、この【ファイアの書】は初級かつ小回りがきくため、愛用者が多いと同時に流通量も非常に多い。

 うちの店舗でも多いときは30冊ほど在庫を抱える。そして、あまり高い値段でなく新品も売られているため、中古ショップの在庫がはけない事が多々ある。

 最悪の場合、在庫処分という形で金をドブに捨てるっことになりかねないので、高値で買い取るわけにいかないのである。

 商売である以上、利益のために行動しなければならない。そこら編の事情はこの爺さんには関係ないため、理不尽に思えるかもしれない。先程の曰くも先祖代々受け継がれてきたことも本当なら少し可哀想に思えるかもしれないが、この爺さんに関しては勝手が違った。


「そして2つ目。曰く付きの【ファイアの書】何冊あるんすかお客様」

「あれー、もう何冊も持ってきておったかのう」


 この爺さんが【ファイアの書】を全く同じ語りで持ってきたのが、これで6度目であるからである。

 その都度5Gで買い取りしてるのだが、まったく懲りた素振りを見せない。

 店の在庫が偏るので本当にやめてほしい。

 そろそろ店長と相談して買い取りお断りにしようかというところだ。

 一回ボケているんじゃないかと思ったが、前に俺が買い取りの際に言った言葉を普通に覚えていたので、それはないと分かった。


「まったく、仕方ないのう。それで生産しておくれ」

「はい。それじゃ、書類にサインをお願いしまーす」


 ……とまあ、こういった困ったトラブルは中古ショップではかなり多い。ウチみたいに魔導書を取り扱っていると顕著になる。魔導書は値段が分かりづらく、思い入れも込みで高めに見積もって売りに来るからだ。

 因みにボッタクってる訳じゃない。正規の中古の買取金額である。


「はい、5G。ご確認くださーい」

「はいよ。じゃあ、また来るから」


 二度と来ないでほしい。


「ありがとございましたー」


 客を見送り、やっと人心地つく。

 商売とは戦闘であり、店は戦場であるとは店長の言葉だが、実際のところ冒険なりダンジョン潜るなりするよりも余程駆け引きをしている気がする。

 まあ、ダンジョンで成り立っている都市国家で言うべき台詞ではないのだろうが。


 ふと、昔の記憶が顔を出す。

 あの頃の殺伐とした記憶にいい思い出はない。

 そういった意味でもこちらの戦場のほうがだいぶいい。


「……さて!品出しでもするか」


 頭を振り、記憶を振り切る。

 浸っている暇はない。まだまだ仕事は残っていた。


 ネビア共和国。いくつかの踏破困難なダンジョンの元に冒険者と、冒険者が利用することで利益を得る商売をする者たちが集まり自然とできた都市国家。

 現在では冒険者たちが作り上げた協同組合、通称「ギルド」により自治され、その収益によって国は運営されている。

 そのギルドのお膝元、セントラル街区の片隅。閑静な通りの一角にその店はあった。

 価値がブレやすく、値段を付けづらいと言われる魔道具たち。それを安く買い、安く売るをモットーに取り扱う店。

 マルカッロ魔具リサイクル店。

 ここが俺―――カウル=ティエーレの今の戦場だった。


「あ゙っ!この本破れてんじゃん……」


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