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奪還成功


 ぱんぱか~ん! という気の抜けるファンファーレが聞こえてきて、ディトリエは不可解な顔をする。


『オフィーディア様、正解でございます。

 その結果この度の【(Karte )(Verstect)(Sich in )(den Zahlen)】はオフィーディア様の勝利にございます!』


 ぱんぱか! ぱんぱか!

 ぱんぱかぱっぱっぱ~!


 ディトリエにとっては聞き慣れたゲーム終了のファンファーレ。

 だが――


「待ってくれ」

『マスター。勝敗は覆りませんよ』

「わかってる。負けは認める。だが負けるまでの経緯に納得がいかないんだよ」


 勝敗は仕方がない。負けは負けだ。

 GMが誰かとグルになって相手をハメるような存在ではないことはわかっている。


 だけどそれでも、ディトリエはどうしても答えに納得がいかないのだ。


「あたしは<ダイヤの5>か<ハートの5>の二択だと推理してたんだ。

 だが、蓋を開けてみればそもそも5じゃなかった」

「ふふ――それは単に貴女が読み違えただけですわ」


 そう告げて、オフィーディアは自分の手札を公開する。


 数字の部分だけ塗りつぶされた<ハートの5>。

 それから、マークの配置に沿って格子模様のように縦に二本、横に三本の線で塗りつぶされた<ダイヤのカード>。


「こちらのダイヤ……実は5です」

「途中で六回ほどつついてたのは」

「フェイクです」


 頭が痛くなってくる。

 自分はどこから間違えたのだろうか。


「2ラウンド目。わたくしはそのまま勝ってしまっても、危険だと考えました」

「まぁな。状況的にあたしの方が有利だ」

「マーキングされたカードが<裏面>になるかどうかは賭けでした。これはお互い様だと思いますが」

「ああ。だからこそお互いに考えるべきは、3ラウンド目でマーキングされてないカードが<裏面カード>に選ばれた場合だ」

「勝ちに行くのかドローを狙うのか。

 まぁドローはお互いに諸刃(もろは)の剣すぎて、選びづらいのですが」


 ドローになればなるほどマーキングの数が増えていく為、どんどん先手が有利になっていく。

 だからこそ、ドローにするのであれば、先に相手が答えてくれる方が理想だ。次のターンで先手を貰う為に。


「そしてあたしは、勝ちを狙うべく<ハートの6>を出した」

「はい。正しく計算が出来ていたのであれば、その時点でそちらの勝ちでした」


 実際、ディトリエは一度<ダイヤの6>という答えにたどり着いている。


「貴女がわざわざ、わたくしが負けたあとの末路の話をしたのは時間稼ぎだったのでしょう?

 わたくしの手札を盗み見しやすい位置に、ギャラリーを動かす為の」

「正解」

「正直に言ってしまいますと、手札を使うゲームであるという時点でその手は考慮していました。

 結界の中で行えば反則でも、結界の外から覗き見れる場合であれば、反則が取られない可能性なども考えていたもので」

「だけど、気づけたところで利用するなんて思いつくかふつう」


 やれやれと肩を竦めると、オフィーディアは認めたくないけれど――という顔で、小さく告げた。


「あなたとのゲーム、楽しかったですからね」

「は?」

「貴女は気にくわないですが、貴女との今回のゲームは楽しかったと言っております。

 それは、貴女もそうだったのではなくて?」

「ああ――認めるよ。アンタはあたし史上最大の強敵だった。めっちゃ楽しかった」

「……だからこそ、深読みしてくると思ったのです」

「…………」

「わかりやすく大胆なカードの塗りつぶし。逆にふつうの人なら気にしないだろう些細な仕草。

 あるいはわたくしの表情であったり、わざとギャラリーに見せるようなカードさばきであったり……。

 そういうモノをいくつも組み合わせるコトで、貴女に必要以上の深読みをさせようという意図がありましたの。

 事前のイカサマ宣言も、それに拍車を掛ける意味がありましたしね」


 あまりにも予想していなかった解説に絶句する。

 だが、同時に納得もできた。


「あまりにも簡単に計算できてしまった時、もしかして誘導されているのでは――なんて、勝手に深読みしてドツボにハマりませんでしたか?」

「そこまでお見通しかよッ!」


 自分を信じきれなかった自分の負け――ということだろうか。

 なんにしろ、ディトリエは自分の負けを認める。


「おーけー、納得した。あたしの完敗だ」

『それでは賭けの精算を始めますがよろしいでしょうか?』


 GMが両者に訊ねる。

 それに、ディトリエはうなずき、そしてオフィーディアが告げる。


「ディトリエ。改めて宣言しますわ。

 貴女がわたくしから奪った婚約者(モノ)。返して頂きますわ」

「好きにしろ。あたしにはもうどうにもできねぇからよ」


 潔く両手を挙げ、ペタンと床に座り込むディトリエ。

 

『賭けが精算され、結界が解けた時、私の持ち主はディトリエ様からオフィーディア様へと移ります。今後ともどうぞよろしくお願いします』

「ええ、GM。あなたと別れる時が来るまで、しばしば楽しませて頂くわ」


 そうして、正気を失っていた者たちの瞳に光が戻り――


『では箱へと帰らせていただきます』


 GMがその姿を消して箱の姿に戻ると同時に、テーブルを中心にオフィーディアとディトリエを囲んでいた結界は消えた。


 オフィーディアがその箱を回収した時……。


「ディア!」


 イルニクリスがオフィーディアの愛称を呼びながら駆け寄ってきて、後ろから抱きついた。

 そのことにオフィーディアの胸がいっぱいになり、涙も流れそうになったのだが、グッと堪える。


 首から回されたイルニクリスの手を撫でながら、淑女の笑みを保ち告げた。


「はしたないですわクリス様。皆が見ております」

「でもボクは……、ごめん、ごめんよ……! ディア、ボクは……!」

「その話はあとに致しましょう。まずは場を納めませんと」

「それも大事だけど、手! 血が出てるじゃないか!」

「かすり傷ですわ。問題ありません」

「問題、大ありだ! ボクのせいで君がケガをするコトになったんだからッ!」


 結局、イルニクリスに押し負けたオフィーディアは、素直に自分の手を差し出した。


「こういう時、治癒術が使える自分で良かったって思うよ」

「本当に、大袈裟なのですから」


 そう言いながらも、オフィーディアの表情は安堵と喜びに満ちている。


「あー……はいはい。ごちそうさま。余所でやってくれる?」


 二人の様子を見ていたディトリエがつまらなそうな顔でそう告げた時、イルニクリスはらしくないほど怒った表情で、彼女を睨む。


「ディトリエ、君は自分が何をしたのか理解しているのか?」

「もちろん。国家反逆罪で首を斬り落とされたって文句は言えないコトさ。

 ま、オフィーディアに負けた時点で覚悟は決まってるんだよ。煮るなり焼くなり好きにしな」


 床にあぐらを掻き、両手を挙げながら、ディトリエはあっけらかんとそう告げた。


 あまりの潔さにイルニクリスが面を食らっていると、オフィーディアが彼の肩を叩く。


「クリス様。彼女の処遇について、わたくしから口添えは可能ですか?」

「まぁ、今回の一件は君の活躍があってこそだ。よほど無茶な内容でない限りは、通るとは思うが……」

「それでしたら、一つお願いがありまして」


 そうしてオフィーディアはよほどではないけれど、わりかし無茶な内容をイルニクリスに耳打ちするのだった。


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