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ROUND 3  先行:ディトリエ


 ROUND 3  先行:ディトリエ


「あ、そうだ。カードの準備が終わる前に、あたしが勝った時の話を少ししておこうか」

「どういうコトかしら?」

「肉体と人格を下品でいやらしいのに改造してやるから。そのあとで最悪の娼館に売っ払ってやるって話。

 元の人格も精神の中には残しといてやるから、心の中から自分の痴態を楽しめるぜ。

 いやぁお高くとまってたり、クッソ生意気だったりする奴がグチャグチャになっていくの見るの楽しいんだよな。

 時々呼び出して、元の人格に戻してから自らの口で自分の状況を報告してもらうってのも悪くなくてさ、元々の高飛車なツラなんて見る影もない顔で報告してくれるんだ」

「そうやって何人か売ったのですね。リストはありまして?」

「あたしがマメにリスト作るような奴に見える?」

「聞いたわたくしが馬鹿でしたね」


 やれやれと嘆息してから、気怠げな視線を向けた。


「トラッシュトークも良いのですけれど、早くプレイしてくださいな。そちらが先行でしょう?」

「なんだ、こういう話に耐性ある方だったりする? 実はこっそり利用して楽しんでる?」

「いえ、わたくしはリストをちゃんと作っているというだけです」

「は?」

「クリス様には言わないでくださいね。

 先日もやりすぎだとお父様に叱られてしまったばかりでして」


 何を言っているのか理解できないという顔で、ディトリエが目をぱちくりと瞬く。


「このような古代遺失物(オモチャ)なんて使わずとも、ギャンブルというのは容易に人の人生を台無しに出来るというだけの話です」

「おっかねー!」

「あなたもリストに入れて差し上げますよ」


 オフィーディアの言葉の意味に気づいてケラケラとディトリエが笑う。

 そんなディトリエなど気にもかけないように、オフィーディアは言った。


「GM、そろそろカードを配ってくださらない?」

『かしこまりました』


 そうして、GMがカードを配る。


 これまでと同じように<裏面カード>がセットされ、その下に表向きにカードが設置される。


「は?」


 だが、設置された2枚のカードを見て、ディトリエが素っ頓狂な声を出す。


「おいおいおいおいおいおい。なんだそれ」


 表向きで設置されたカード。

 それは右上と左下の数字を示す部分が赤く塗りつぶされている。

 加えて、スートを隠すようにカードの五カ所も赤いモノが付着していたのだ。


 それだけではない。

 <裏面カード>にも僅かに赤いモノが付着していた。


 ディトリエが思わずオフィーディアを見れば、彼女は悠然と微笑むだけだ。


(マジかよ、あの女。

 いつの間に赤いインクなんか塗ったんだ?

 しかもあれじゃあ、スートがわかんねぇじゃん)


 戸惑いながらも、ディトリエは自分の手元に置かれた手札を手に取ろうとして……動きが止まる。


(おいおいおいおいおい! マジかよ! なんでだ? どうしてだ? どこでどうやったらこんなコトができるんだ……ッ!?)


 手元に伏せられた二枚のカード。自分の手札。

 その背面にも赤いインクが付着しているのだ。


(露骨すぎんだろ……)


 だが、これではオフィーディアが圧倒的に有利だ。


(しかし、わからねぇ……。

 このゲーム、カードに触れる機会はほとんどないってのに、どうやってこんな広範囲にマーキングしやがった?)


 考えながらも、ディトリエはカードを手にする。

 すると、ぬるりとした感触を感じて、目を瞬く。


(乾いてなかったのか。

 つまり、本命に塗った塗料が、ほかのカードにも移ってるだけってか?)


 それならオフィーディアも自分のマーキングを見失っている可能性がある。


(……いや、そりゃ楽観か)


 その程度の問題など、恐らくはものともするまい。


 オフィーディアはそういう対戦相手だ。

 そうでなければ、自分の仕掛けを看破してみろなどと宣戦布告なんぞしてくるワケがない。


 とてつもなく強い。

 とてつもなく恐ろしい。

 とてつもなく面白い。 


 最高の対戦相手だ。


(向こうもまたギャンブラー……。

 土壇場の賭けを成功させたってだけだ。だけど、それは勝利につながる賭じゃあない!

 まだ、あたしが勝つ目はある……ッ!!)


 まずは手札。

 <ハートの6><クラブの3>。


 次にBレーンに設置されたカードを見る。


(塗りつぶされているのは右上の左下の数字と添えられているスート。

 さらに、5を示す並びで塗りつぶされている……)


 これでは、数字が5であることがバレバレではないだろうか。


(……そんな単純な話じゃねーな。

 4なのか5なのか、判断ができない)


 4であっても、四点と中央に塗りつぶしを作れば、それだけでまるで中央に5つ目のスートがあったかのように錯覚させることができる。


 そして、例えそれに気づいても、ディトリエにはそれが4であるか5であるかの判断はできない。


(どうやって塗ったのかのトリックもそうだけど、それを実行する上でのいやらしさも、ちゃんと計算してやがるワケだ)


 口の端を(かす)かに吊り上げつつ、ディトリエはオフィーディエに気づかれないように周囲を見回す。


 その時、自分の元へとカードが一枚配られてきた。


(……これには特に何も付いていないか……)


 新たに加わった手札は<クラブの1>。

 現状では、伏せカードの答えはわからない。


(オフィーディアの背後からこっそり覗き見させているギャラリーのサインからすると、一枚は<ハートの5>。

 もう一枚までは判別できないか。まぁ無理して覗かしてバレても困るしな)


 一番重要なポイントは、<裏面カード>にオフィーディアのマーキングがされているか否か。

 それを見抜けないのは非常に痛い。


(初手から解答。これしかないな。

 向こうにターンが回った時点で敗北の可能性がある以上、無理をしていくしかない)


 逆に、向こうもマーキングしてないカードが伏せられているのであれば、仕切直せる。


 むろん、仕切直しにはデメリットだってある。

 純粋に向こうが先行になってしまうというのは痛烈なデメリットだ。


(この三枚にマーキングしつつ、当てに行く)


 相手へのヒントにはなってしまうだろうが、どちらにしろリスクの弾幕をすり抜けていかねば勝てない相手である。


 ディトリエにとって、その程度のリスクは背負って当然。


 相手の人生を踏みにじる以上、自分の人生もまた踏みにじられる覚悟を持っている。

 そもそもからして、膨大なリターンと膨大なリスクを天秤にかけたギャンブルなのだ。


 それが背負う必要のあるリスクなら、ディトリエは踏み込むこともやぶさかではない。


 もちろん、その上で保険としてのドローを狙える状況になるのが望ましいが。


 今手元にあるのは <ハートの6><クラブの3><クラブの1>。


 ならば――


「GM。こいつをBレーンだ」

『かしこまりました』


 場に出すカードは<ハートの6>だ。

 表示される合計は【16】。


(これは……かなり絞れるぞッ!!)


 ちらりとオフィーディアを見れば、向こうも歯噛みするような顔を一瞬してみせていた。

 それはそうだろう。このゲームで【16】のもたらす意味は大きいのだ。


 なにせこのゲーム、トランプ各種の1~6を用いている。

 そして、スートの合計か色の合計のもっとも大きいものが判明するというルールだ。


 そのルール上、三枚の合計は色合わせで6+6+5=17が理論上の最大値である。


 スート合わせの場合、三枚の合計は6+5+4=15が最大だ。


 ディトリエが<ハートの6>を出した以上、<裏面カード>と<塗りつぶしカード>の合計は10。

 どちらも赤のカードではあるが、どちらかはスートが異なる。


(<ハートの5>はオフィーディアが持っていたはず。

 それを使わない組み合わせで【16】を作ろうとするなら……)


 <ハートの4>+<ダイヤの6>

 <ダイヤの4>+<ハートの6>


(……そうだ。<ハートの5>が使えない以上、赤で【10】を作るには、この組み合わせしかないッ!

 加えて、塗りつぶしの仕方からして、あれが6である可能性はあり得ないッ!

 ならッ……<裏面カード>は6以外あり得ないコトになるッ!!)


 そして、<ハートの6>はディトリエがすでに出している。


(出た――答えは<ダイヤの6>だッ! だが――)


 絞り込んだディトリエ。

 本来の彼女であれば、ここで確信を持って踏み込んでいっただあろう。

 だが今回の相手を強敵と認めている彼女は、可能ならばここで確実に決着をつけたいと考える。


(さっきのイカサマ宣言の答えが出てねぇんだよな……)


 だからこそ、たどり着いた自身の答えを一度疑う。

 オフィーディアほどの相手であれば、こちらが無意識のうちに思考を誘導されている可能性だってあるのだから。


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