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3.アリスとロバート

本日三回目の投稿です。

読み飛ばしにお気を付け下さい。







「それで、お兄様。わたくしを呼ばれたのは何故かしら? 何かお困りですか? わたくしに何でも仰って」

「常にお前という存在に困っている」

「まぁ! 常にわたくしの事を考えていてくださっているのね、嬉しいっ」

「間違いではない。間違いではないんだが今回はそうじゃない……うん。まあ、いい」


 仕方ない。キツく言って傷付けたい訳では無いし、自身の異質さの自覚が本人に無いのなら今ここでどうこう出来る問題でもない。

 両親と相談して今後の方針を決めてからしっかり話をしよう。


 生まれた時は可愛かった。何しろ、ウィルフレッドとは十四も歳が離れている。

 ウィルフレッドはずっと一人っ子で、長いこと弟妹がほしかった。

 だからアリスが生まれた時には婚約したてのスカーレットと二人、とことん可愛がったものだ。本当に可愛かった。

 それが今では懐かしい。

 いつからこんな風になってしまったのだろう。神を下僕にした二歳からだろうか。そうしたら生まれてからずっとということか。なんてことだ。


「スカーレットの友人がな、お前が私とスカーレットの結婚に反対していると言うんだ。確かに近頃スカーレットは元気が無かった。だから、本人に聞いてみたら……確かに反対されていると、そう言うんだ」

「あれ? おかしいですね。お兄様、スカーレット様にどうお聞きになりました?」

「どう、とは? 私達の結婚に反対していると言われたかと、ちゃんとそう聞いたぞ」

「わたくしが、と聞きました? アリスから反対していると言われたか、とお聞きになりました?」

「あれ。しまった、そうだな。お前の名は出し忘れたやも知れん」


 言われて気付いた。

 ウィルフレッドの中ではすっかりアリスの事を話題にしていたつもりだったが、相手も同じでなければ話は成立しない。


「そうしましたらスカーレットお義姉様は、誰かに言われたのではないかと、そう聞かれたと捉えたのでしょう」

「お前は反対していないか?」

「はい。しておりません」

「誓えるか?」

「勿論。何に誓いましょう? ポチ? ミケ?」

「止めてくれ悪かった疑って悪かったお前なら何でもやりかねんと思ってしまって本当にすまない」

「確かにわたくしは自他共に認めるお兄様至上主義ですが、生まれた時からスカーレットお義姉様にも可愛がって頂いていますでしょ?」

「そうだな」


 今ちょうどその頃の事を思い出していた。


「わたくし、スカーレットお義姉様はお兄様と同じくらい大好きですの。お義姉様が本当の姉では無いと聞いた時は、何を言っているのかと意味が分からなかったくらいです。いずれ姉になるとは言え、義理の姉だということには未だに納得しておりません」


 何を言っているのかと言ったかこの妹。何を言っているのかと言ったのか、今。

 これほどまでにお前が言っていい台詞ではないという言葉も無いのではなかろうか。ウィルフレッドは思わず目を大きく見開いて妹を凝視してしまった。


「ご安心なさってね、お兄様。アリスには反対する理由がありません。スカーレットお義姉様に横恋慕するご子息達を僻地へ飛ばし、お兄様を慕ってお義姉様へ嫌がらせをしようとしていたご令嬢方を脅して回っているのはわたくしです」

「待ってくれ。理解が追い付かない。現在進行形だというのが怖いがそれは後で詳しく聞く。それより、なんだ嫌がらせって。私だって常に警戒している。だがそんな情報は掴んでいない」

「お兄様あのね。わたくし、世間のやり方考え方が大嫌いですの。何かされてから対処するだなんて愚の骨頂。やられる前に捻り潰さないなんて平和ボケした体たらくでしかありませんわ!」

「それ只の通り魔!!」


 目眩がする。

 胃痛が増した気がしてウィルフレッドは胃を押さえて蹲った。


「だってね。考えてもみて下さい。被害が無ければ動けないって、何ですかそのボンクラ。なんていうどこぞの国家権力? わたくし、事件は起きる前に可能性から潰したい。事件が起きなければ加害者も被害者も生まれない」

「いやまあ、それはそうだが、だからといって何も起きていないのに襲ったら、お前の方が完全にただの犯罪だからな」

「被害に遭う可能性が著しく高いのなら、加害者側が被害者側に害を及ぼそうとした瞬間、全て加害者側に跳ね返るようにしてもいいではありませんかだってわたくしは一般貴族。か弱い令嬢。幼気な少女」

「神と魔王を下僕にする少女が一般的でか弱くて幼気であってたまるか!」

「お兄様のキレッキレのツッコミ、本当に大好きっ」

「誰のせいだ、誰の!」


 穏やかに静かに過ごす事を好むウィルフレッドにとってツッコミは凄まじい疲労を伴う。だが、ツッコミを入れずにはいられない、この妹。

 だがまた話が反れた。いかん。このままでは胃痛が悪化しただけで終わってしまう。


「……色々と納得はいかないが、今は話を戻す。それでは私達の結婚に反対しているのは、私に嘘を言ってきたスカーレットの友人か? スカーレットに被害が無いよう気を付けてほしいと言われたから……そうとは思えんのだが」

「彼女は本当にお義姉様と仲が良いですし、ご自身の婚約者との仲も良好です。彼女を騙した者が他におりますね」

「……回りくどいな。私やスカーレットではなく、その周囲に悪意をバラ巻くか」

「お兄様とお義姉様の周囲は徹底してお守りしております。それならばと、精神的に攻撃する事を選んだのでしょう。物理的な方面にばかり気を取られておりましたわ……不覚」

「スカーレットの友人……彼女は、あー……ナナリー嬢だったな。彼女に繋がる人物か」

「今回の主犯は、ナナリー侯爵令嬢のお母様である侯爵夫人のご実家、隣国レートン王国が関与しておりますね。レートンの王女です」

「隣国の王女殿下……? 確かナナリー嬢の……従姉妹? 確か従姉妹だな。彼女の従姉妹が王女殿下のご友人だったか」


 関係はまるで無いくらいに遠いが、ミケがやってきた日のパーティーで挨拶をした覚えがある。隣国の要人やその交友関係者くらいは、流石にまだ覚えていた。


「ええ。大方、先日のお兄様のお誕生日パーティーで一方的に目を付けてきたのでしょうね。ミケの対処のせいで見落としておりました、申し訳ありません」

「いやいや……魔王と戦っていたお前を責められる人なんていないよ。それに、私だってもっと警戒しておかなければならなかったんだ」

「レートンの王女は何となく気に食わなかったので時限爆弾にしておいたのですが、これは爆破させなければなりませんね」

「そうか、爆破…………待て。それは何の比喩だ?」

「何の、とは? 比喩?」

「レートン王国に何を仕掛けた?」

「時限爆弾を」

「本物の!?」

「はい。ただ、あの日の責任を取らせるという形で命じたので、実際に仕掛けたのはミケですけれど」 

「止めろ!! 爆破、ダメ、絶対! 何となくで他国の王族に何をしている!?」

「二ヶ月も放置していた自分が許せませんわ。その間、お姉様はどれほど不安だった事でしょう……。精霊王にも責任を取らせましょうね」

「待って待って。なんかまた新しい権力が出て来た」


 なんて言った?

 この妹、今、なんて言った?

 意味が分からないが止まらなくていっそもう何も聞きたくない。


「半月ほど前でしょうか。ミケの弱体化と飼い殺しに成功し、まったりとしていたある日のことです。魔王と相性の悪い精霊王が出ました。魔物の出す瘴気は精霊を病ませるそうで、魔王が弱っているこの時が絶好の機会だと襲い掛かって来ましたの」

「何となく話は読めたぞ。その精霊王は今は何の動物なんだ?」

「そこの御者です。ロバート」

「はい。こちらロバート」

「まさかの人類!! 精霊王様ごめんなさいっ! 御者代わります!!」

「止めて下さい働かせて下さい御者で罰が済むのならずっとやるんです止めないで下さい!! 私は御者ロバート!」

「なんで!?」

「最初はロバに乗せようかとも思ったのです」

「なんで???」

「ロバに乗ったロバート」

「………………。え? なんて?」

「ロバートがロバに乗ってロバロバしたところでさほど利便性も無く、面白くもなく、絵面的にも誰も得をしないのですぐに止めました。ロバート、役立たず」

「誠に申し訳ございません!!」

「ああ、でもロバに罪はありませんからね。レンタルさせて下さった方にはきちんと御礼をしてありますよ。ご安心下さいな」


 ウィルフレッドは遂に崩れ落ちて横になった。


「もう駄目だ……何一つとして意味が分からない……ここは真に現世か?」

「お兄様、馬車酔いされたの? お帰りになります? お家でお休みになって下さい。わたくしは一人で大丈夫ですよ」

「絶対ダメだ!」


 一刻も早く母にこの事を伝えねばなるまい。胃痛に負けてなどいられなかった。

 間違ってもこの妹を王太子妃にしてはいけない。




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