第三話「天気雨は突然に」
「だぁぁぁっ!? 広範囲攻撃は苦手なんだよ!」
「菟ァァァァ………」
本日は、晴れ時々洪水なり。
今回の伊織の戦いの舞台は、臨海都市梓ヶ丘なのだから、人の領域ではない海上だ。
しかし、残念なことに伊織には海面の上に立つ《マホウ》は所持していない。これはとある伝手にて、極秘に手に入れたものだ。おかげで、かなり足元を見られてしまった。
正直、出来ないであろうが、“乙女課”からは何かしらの対策は欲しかったものだった。
だが、伊織自身が戦いの舞台に立てたとはいえ、今回のケモノの相手は少々分が悪い。
伊織の得意とする戦法は、近接戦。いや、基本的にはそれしかできないに近い。遠距離攻撃手段を持たない彼女からすれば、弾幕を張られるとかなり厳しい。
───雨が、降ってくる。
たとえ、伊織が弾幕を抜けて海豚型のケモノに接近しようとも、そのケモノが生み出す鉄砲水にて流されてしまう。別に彼女からしてみれば耐えることも可能だろうが、そこで足が止まるのは致命的だ。
とまぁ、こんな調子で、伊織と海豚型のケモノは今膠着状態にある。
伊織は水流に流され攻めきれず、海豚型のケモノは先読みをする彼女に攻撃を当てられずにいる。
しかし、そんな膠着状態も───動き出しそうだ。
「ただまぁ、剣術の試合じゃ膠着状態なんて慣れているが、そろそろ押し切ってみせよう!」
───ダン! と。先ほどまでは回避を優先していた伊織であったが、縫うようにして現れた隙を通じてその間合いを潰しに掛かる。
果たして、伊織は何の策を所持しているのだろうか。
しかし、海豚型のケモノは結果を見るよりも先に、迎撃に走る。
「菟ゥゥゥゥ唖ァァァァ!」
伊織に迫る鉄砲水。それを直撃した彼女であるが、何故かそのまま立ちずさんだ後、手にした刀の刀身を天高く掲げる。
───今だ! そう思ったのも束の間、伊織の瞳には彼女自身を押し流すための海水の他に、確実にどてっぱらに風穴が空くほどの水撃が隠されているのが映る。
「───、くっ!?」
それを何とか流れに乗って避けた伊織は、鉄砲水の範囲外へと身を出すのと同時に仕掛ける。
いや、もしかしたら伊織ならばこの程度の間合い、すぐにでも潰せるだろう。しかし、それを行うには、あまりにも彼女の体は万全ではなくただただ流れていた。
《柳田我流剣術曲芸、刀穿ち》
───刃が飛ぶ。
伊織は鉄砲水の範囲から逃げ出した後、追撃として海豚型のケモノが放つ水撃を縫うようにして仕掛けに入る。
そう、伊織は利き手とは逆な左手で素早く鞘に収まった小太刀を抜くと、そのまま切っ先が海豚型のケモノの体に突き刺さるように投げたのだ。いや、武士の誇りである刀を投げていいのかと聞かれると正直悩むが、だからこその曲芸なのだろう。
「陀唖唖唖唖ァァァァ!」
そして、飛来した小太刀は深々と海豚型のケモノへと突き刺さるのだった。流石のケモノも、この事態は予測していなかったのだろう。突き刺さった小太刀によって刺激され、激怒した。かの暴虐な魔法少女を排除せねばならぬ、と。
───まるでそれは、津波のように伊織へと襲い掛かる。
先ほどまでは何とか耐えれていた伊織ではあったのだが、流石にケモノによって生み出された津波を受け切るのは不可能だと彼女自身も断ずる。それに加えて、その件の津波の中には幾つもの高圧な水による刃があるのだから、事実上受け切るどころか巻き込まれるだけでも致命傷になりかねない。
流石は、末端とはいえ、乙種のケモノといったところだ。
しかし、伊織には避ける素振りは、一切見られない。凄惨な未来だって視えている筈なのに、一体どうしたものだろうか。
「さて、何処かの偉人なら海ぐらい割れるだろうが、生憎と私では力不足だ。だけども、私にだってこれくらいはできるさ!!」
再度目の前に迫る人を容易く殺せる鉄砲水。
それを伊織は、先ほどと同じように刀身を高く掲げて迎え撃つ。別に先ほどと変わりない、一連の動き。
しかし、それは間違いであった───。
《柳田我流剣術、富嶽轟雷割り》
───景色が、ぱぁっと晴れた。
伊織の目の前に迫る鉄砲水に彩られた景色が、斬れた───いや、消し飛んだのだ。今、伊織へと襲い掛かった鉄砲水は、彼女が振るう人たちにて吹き飛ばされた。ある意味、海を割るよりかは現実的で無茶苦茶な、そんな一撃。
───ダン! と、伊織は海豚型のケモノが呆けているその瞬間の隙を付き、その間合いを潰しに掛かる。距離にして、数歩程度。これくらい彼女ならば、大した距離ではない。
「菟ゥゥゥゥ………」
しかし、それでもどうにか海豚型のケモノは、間合いを詰めて来る伊織に対して迎撃に奔る。だが、そこには先ほどまでの隠密性や威力や正確さなどといった要素、それらが全て欠けていたのだ。
そんな稚拙な迎撃、伊織に対しては何ら効果はなく、逆に姿を隠す絶好の隠れ家となってしまった。
《柳田我流剣術、朧突き》
突き刺さる、冷たい鋼の感触。
その時、海豚型のケモノは、初めて伊織に刺されたのだと理解した。
気付かなかった。というより、気付けなかった。
普通の突きなら、海豚のケモノは反応できただろう。しかし、伊織の放った朧突きは愚直なものではなく、相手の認識外や死角などを用いて放つ一撃。そう、《柳田我流剣術、朧突き》は、元々暗殺剣だったものを柳田流へと拵え直し、自らの流派へと適応させたものだ。
「菟ゥゥゥゥ唖ァァァァ!」
もう、己の命は残り僅かだと、そう自身で断じる。
しかし、ケモノの存在意義は人を殺すことで成り立つ。断じて、このまま惨めなまま、地へと伏せることでは決してない。最後まで、爪を牙を武器を振るい続けるべきなのだ。
だからこそ、ここにきて放つ海豚型のケモノ最大の大技。
もしも、これを至近距離で放ったのなら、目の前にいる伊織は殺せるのかもしれないが、それと同時に海豚型のケモノの結末は“死”で終わることになるだろう。
そして、───。
「本当に往生際が悪い。刃を突き刺した今なら、私の方が速いに決まっている筈だろうに」
───白刃が、血飛沫と共に宙を舞った。
その頃には、刀を振った伊織は刃に付いた血糊を振り払うと、スタスタと背後を見ずに歩き始めた。彼女自身の腕を彼女自身が信じているからだろう。現に、解体された海豚型のケモノに身動きなどの類は見られず、再生能力でもない限りは生きてはいないだろうと感じさせる。
───パチィンと、刀身を鞘へと納めた。
しかし、往生際が悪いのはどちらなのだろうと、少しばかり思ってしまった。
「………、こんなところに人の気配? 逃げ遅れたのか、それとも」
伊織が振り向いた、彼女の視線の先、そこはビル状の建物の影となる場所。
そして、伊織のいう通り、もうそこに此方を覗いていた人の姿はない。そう、そこには誰かがいたのだ。勿論、確たる証拠は何一つないが、自らが信じる感覚がそう告げているのだ。
しかし、そう話を盛り立てるが、魔法少女の戦いを観戦する人も少なくはない。一般的な魔法少女でさえある程度の人気はあるのだから、新規新鋭の伊織ならば人気以外にも話題性を求めて見ていてもおかしい話ではない。
「ただ………。いや、これ以上考えても仕方がない、か。別にコレがあるから、バレないだろうしな」
そう言って伊織は、掛けた眼鏡を軽く叩くのだった。
♢♦♢♦♢
翌日、伊織はいつも通りに聖シストミア学園の門を潜る。
鞄を肩に掛けた伊織であるが、当然日本刀なんて確実に銃刀法違反で捕まる物、日々の生活の中で持ち歩いている訳ではない。勿論、自分が魔法少女だと政府に届け出をすれば話は別だが、ちょいと彼女の身の関係上、それは避けておきたい。
だがしかし、別に武器がないから倒せない、………なんてことはない。流石に最近の手ごわい相手ならば正直無理だが、丙種辺りなら徒手空拳やそこらの鉄パイプで余裕であろう。
そして、昼の放課となった。
聖シストミア学園は、学食がある食堂が存在している。
なので、別に弁当を持参する必要もない。ただ伊織としては、高級志向の学食はあまり好まず、逆にフレイメリアの作ってくれた庶民的な弁当の方が好きだ。
「あら、伊織さん。今日も弁当なんですね。別にお金に困っていないのですから、学食なんてどうでしょうか?」
「洋食はあまり好きじゃなくてな。だけど、こうして美味しい和食の弁当を食べさせてもらっているよ」
「そう言えば、伊織さんには妹がいらっしゃいましたね」
基本的に、柳田家の食事は和食だ。
これは伊織が洋食ではなく和食が好きだからというのもあるが、妹のフレイメリアの作ってくれる和食がとても美味しいのもある。実際、今伊織が食べている色彩豊かな弁当も、フレイメリア作のものだったりする。
ちなみに、お菓子などは別だ。
そして、そんな可燃材を加えられた伊織の感情という炎は、酷く燃え上がっていた。
「ほら、見てくれ。これが妹が初めて料理した時の物だ。それから、これが初めて泳いだ時の物で───」
「ええ、貴女の妹好きは良く分かりましたから」
そう言って伊織がカレンに見せるのは、今までのフレイメリアの物の写真の数々。料理を始めて行った時のものは何故か炭化していて、初めて泳いだ時の物は泳げないのか浮き輪を装着していた。
しかし、伊織の妹は最近になって色々と始めたのだろうと、カレンはふと思った。実際問題、これでもお嬢様な伊織であってもその待遇は特別であり、妹を連れて暮らし始めた頃から始め出したのだろう。
「………、それよりも!」
突然、声を荒げるカレン。
「………。伊織、何であんなことをしたの」
「? あんなことって、一体何を指しているのか分からないが」
「そう、何で蓮華と徹が付き合っているか聞いたのよ!」
嗚呼、あの事だったのか。
別に伊織が何か意図があって行ったことではなく、ただただ聞いてみた話だ。まぁ、興味があって突いてみたことについては、彼女も否定するつもりはない。
「………、徹にも新しい春が来たと思ったからな」
「何よそれ。それよりも、………感触、どうだった?」
「少なくとも、互いに意識し合っているようだったな。蓮華も徹も」
「………、そう」
前にも言ったかと思うが、カレンと徹は所謂繋がりを強化したい政略結婚なようで。しかし、今はともかく最初の頃は、傍にいた伊織自身が胸やけするほどの相思相愛だった。
だが、魔法少女ものに侵略された乙女ゲーと言えど、ストーリーは今のところ同じらしい。
つまるところ、悪徳令嬢役のカレンに対して徹は愛想をつかしているご様子で。そんなカレンと親しくしている伊織としては、故意に地雷原に突撃をかましたとはいえ少し複雑な気分だ。
「ありがとうね、伊織さん。貴女、私が上手く聞き出せないから、こうして聞き出したのでしょう」
「はて、一体何のことやら? 私はただ、蓮華と徹の恋路が気になっただけだ。別に恩義があった訳じゃない」
「本当に素直じゃないですね、私も貴女も。折角ですから、貴女ももう少しご令嬢としての立ち振る舞いを覚えてはどうでしょうか。伊織さんの容姿ですから、きっと良い殿方と巡り合えますわよ」
「………。余計なお世話だ」
実際、伊織という彼女は政略結婚においての品質は、下手な資産家の令嬢さえも上回る。
数百年という長い歴史の名家だというのに加えて、柳田伊織はその当家においての最高傑作。彼女と結婚さえすれば、名門の柳田家で不動の地位を得る事ができるのだろう。
だがしかし、当の伊織としては、誰かと結婚する気なぞない。
元々、伊織の前世が男性だったという事もあるのだが、今は義妹のフレイメリアに夢中だ。他の男性なぞ、はなから眼中にない。
「良ければ今度、ご紹介しましょうか?」
「本当に余計なお世話だからな!?」
さて、伊織は昼食を食べ終わった後、中庭をぶらぶらとする事にした。
本日は快晴なり。草木は穏やかな清風によって靡き、葉陰がゆらゆらと揺られていた。喧騒も聞こえず、かなり過ごしやすい空間だ。
「………ん? あれは………」
草々に覆われたいつもの椅子にでも座って寛いで異様と思う伊織であったが、彼女の視界の中にとある人物の影を捉える。
普通なら、ここで声を掛けるか後に付いて行くかのどちらかの行動を取るのが定石なのだが、生憎とそんな面倒な事をするつもりはない。伊織としては、このまま穏やかな昼放課を過ごしていたいのだ。
しかし、現実は非情なようで、その人物は伊織の方へと足を進めるのだった。
「あの、伊織さん。お時間少しよろしいですか?」
「………、確か、蓮華だったか。それで一体何の用だ」
そう、了承の意を共に質問を伊織が投げかけた先にいるのは、ある程度親しくなった鈴野蓮華の姿だった。
あれから、───そう、入学式の日からある程度の時が過ぎたのだが、蓮華はかなり皆から疎外されていた。これは今は亡き乙女ゲーのシナリオとして攻略対象から声を掛けて貰えるという機会を作るためというのもあるが、実際のところはエスカレータ式の学園に異物が紛れ込んできたのだから、警戒してしまうのもしょうがない話。
しかし、それを見かねたお節介焼きな彼女ことカレンは、暇そうにしている伊織を連れてよく話すようになったのだ。ちなみに、そのせいで彼女等の不仲が始まったのだが、ここでは省略させてもらう。
「数日前の海豚型のケモノの襲撃のことなんですが」
「あぁ、あれか。かなり騒がしかったが、一応覚えているが」
「それで、あの時戦っていた羽織姿の魔法少女は、伊織さんですよね」
何言っているか分からない。
別に蓮華が言っている言葉の意味が分からないのではない。何故、その結末へとたどり着けたのかが、分からないというより理解ができないのだ。
一応というどころかかなり厳重に認識阻害を掛けている。それこそ、違和感の類すらないどころに。それでいてバレるのだから、その対策を講じた伊織自身からすれば、“何言っているか分からない”。
しかし、それを表に出す訳にはいかず、ほんの零コンマ数秒の思考が伊織の頭を駆け巡り、彼女の口から出てきた言葉はほんの僅かなもの。
「………いや、私が魔法少女な訳ないだろう。他人の空似といったところじゃないのか?」
「………。そうですか………」
そう蓮華は微かばかりの言葉と共に、手にしたスマホを弄り出した。
いや、そんな訳ない、そんな訳ないのだ。伊織が魔法少女になった時に使用している認識阻害は、たとえ画面越しであっても効果を発揮することを実証済みだ。そして、認識阻害が働いているとは、確認済み。
しかし、何処にも穴がない筈なのに、伊織の背中を冷たい汗が幻感として伝わってくる。
そして、その時は訪れるのだった───。
「でも、これは伊織さんですよね」
そう言って蓮華が見せてきたのは、伊織が最後海豚型のケモノを解体するシーンが映っている画面。そこにいる伊織は、浅葱色の羽織を着て銀閃が舞う刀を振り終わった、そんな彼女姿だった。
これがまだごく普通の出来事ならば、まだ追及を逃れることも可能だったのだろう。だが、認識阻害が掛かった上で彼女を伊織だと断じた以上、何かしらの確証はある筈だ。少なくとも、そう簡単に覆らないものが。
そう考えた伊織は、これ以上の追求を回避するのは無理だと早々に諦めるのだった。
「………。それで、私がその羽織を着た魔法少女なのだとしたら、どうする?」
「………」
これは、一種の賭けだ。
もしも、これがまだ乙女ゲー時代の鈴野蓮華ならば、伊織もそう警戒する必要はなかっただろう。蓮華は、ただの一学生に過ぎないのだから。
しかし、こうして何かしらの正体不明な手段を用いて伊織の正体にたどり着けたのなら、話は違ってくる。何かしら、原作とは違う能力を蓮華が持っていたとしても、そう可笑しな話ではないのだから。
───さぁ、どう出る。
「………」
「………」
………………………。
「あの! サイン、下さい!」
ズコっと、片足の力が抜ける伊織であった。
いや、分からない話でもない。伊織が魔法少女として活動している時に何度かサインをねだられたことがあるが、それと少しだけ類似するものだろう。実際、魔法少女をアイドルか何かと捉えている人も数多くいるらしいし。
「しかし、何でまた私なんだ。そもそも、魔法少女となって日が浅い新参者だし、別の魔法少女だってこの町にはいるだろう。向こうは私と違って、ファンサービスをしているそうだし」
「ですけど、私がケモノから助けてくれたのは、アーチャーさんじゃなくて伊織さん、貴女です」
そう恥ずかしさ満載の言葉を間近で言われると羞恥心がすごいな、と顔を少しだけ紅く染めた伊織は思うのだった。
魔法少女は、本名を明かさない。誹謗中傷などを避けるために各魔法少女たちは、お互いや人々には魔法少女名───コードネームのようなもので呼び合うのだ。
ちなみに、“アーチャー”という魔法少女の本名は、伊織や話題に出した蓮華も知らないが、黒辺涼音という名前だったりする。
「………まぁ、それくらいなら別にいいか。あぁでも、色紙にサインなんて書くのは初めてだから、変だったらごめんな」
「い、いえ、大丈夫です」
そうは言ってくれるが。いやはや、どうしたものか。
「伊織さん。どうしましたか?」
「いや、私は世間でいう野良魔法少女とやらで、魔法少女名とか一切考えていないんだ」
そう言って伊織は、手元で受け取った黒色のペンをくるくると回して考えてはいるが、どうも良いものが浮かんでこない。これはあれか、今まで関係ないからと先延ばしをしてきた、そのツケなのだろうか。
実際、伊織が助けてきた人たちに名前を尋ねられても、適当に話題転換していたし。
魔法少女名は、名が体を表すものだ。身近な例として挙げるのなら、一昔前には英雄などたった彼らの名前と、生まれてきた子供の名前の由来のそれと近い。
だからこそ、下手な魔法少女名は沽券に係わる。
───その時、ふと伊織は思った。
伊織のこれまでの、そしてこれからの人生を模るのだとしたら、あの名前が一番いい。
「“魔法少女グレイ”。伊織さん、良い名前ですね」
「割と良い名前が浮かんだ、私自身が一番驚いている。これからは、魔法少女として会う時でもあったら、“グレイ”とでも、そう呼んでくれな」
「はい! 分かりました」
そう言って蓮華は、大事そうに伊織がサインを書いた色紙を抱えるのだった。一番最初に書かれた初物とはいえ、新規新鋭というだけで有名な魔法少女グレイの色紙は、そんな価値のある物とは思えない。
そんな時、ふと伊織自身が書いたサインが彼女自身の視界に入る。
───きっと伊織は、黒にも白にも成れない、そんな半端者になるんだろうな、と。