第三十八話
───真子島巣穴付近にて。
別の場所では、蓮花とカレンが会合する頃。
伊織と涼音が待ち合わせをしていると、突然方陣らしきものが現れた。こういった超常的な話であれば、よくフィクション小説で聞く魔法陣の類なのだが、見慣れない方陣というのがより不気味さを増す。
しかし、伊織と涼音に動揺の様子はない。
何故なら、彼女等はこの事態を知っているのだから。
「───あぁ。もう休憩時間は終わり、か」
「えぇ。少しばかり休み過ぎた感じはしますけど、十分に休息は取れました」
そう、伊織と涼音は、作戦開始前に聞いていた。
そこに現れる、歴戦の機甲突撃部隊の部隊を。
彼の、戦場全てを見通し、そして操る。───現存する魔法少女の中で最も“ケモノ”を殺す事に貢献をした魔法少女の名を。
そして、数々の“ケモノ”を屠った、唯一の兵器を保有する魔法少女の名を。
「(………本当に、私なんかが必要ないほどの過剰戦力じゃないのか? いや、それで“ケモノ”を討伐出来ないなんて、困るけどな)」
そんな、たらればな事を伊織が思考していると、不意というにはあまりにも自然的に輝きだす方陣。
そして、───。
「───おや、お出迎えご苦労です。かなり若手な、それこそ片割れの方は見習いだと聞いていましたが、いやさて。中々の実力者だと見られますなァ」
『火雷』を身に纏う機甲突撃部隊の前に立つ、細身武術の欠片すらも見せない彼女。しかしてまるで、自分自身が強者だと疑わせないほどの、圧倒的な自信。
嗚呼きっと、───強い彼女なのだろう。
ある種、武力の極地を覗く事ができる伊織を以ってして、強いと。正直、比較対象としてベクトルの違いから碌に判断できないのだけど、きっとその細身の彼女は強いのだろう。
「───魔法少女デスガン」
「拙の名前を知っておられかァ。そう言えば、作戦前に某の事を説明されたのだから、名前を知っていてもそう可笑しくは、ない。───そう、拙こそが魔法少女デスガン」
あぁ。なんとなく、理解できてしまう。
彼女───魔法少女デスガンの腕に装備された、まるで盾銃とも呼べる銃器が、彼女の名前の由来となったのだろう。少なくともその盾銃は、乙種どころか甲種の“ケモノ”の一撃すら防ぎ切る筈だ。
「───それと、貴様の名前を聞いておられぬからなァ? 貴様だけ自己紹介をしないというのは、少々道理が合わぬからなァ」
「………まぁ、それもそうか。───では改めて、私は魔法少女グレイだ」
「………。それだけ?」
「? それだけだが?」
「いや、何とも難儀な後輩だ事で………」
さて、そんな感じのすれ違い的な会話をしつつも、時間に限りがある事に変わりない。
今までの“ケモノ”の出現総数が数万体に達している以上、少なくとも五段階評価の“フェイズ3”程度はあると思った方が良い。
そして、フェイズ3の巣穴を攻略する際に、まともな正攻法を使用した場合は、およそ一二時間ほどは掛かる。その上、真子島に存在する“ケモノ”の巣穴に横穴が追加されていた事を考えると、それ以上の時間を要する事となるだろう。
それに加えて、畳みかけて来る時間制限。───それは、突如として通信機の着信音から訪れるのだった。
『───“HQ”より、攻略部隊へ。今現在、別勢力の“ケモノ”に襲われ、北部戦線は臨時防衛ラインを建設。これを迎撃中。制圧部隊に関しては、至急制圧をされたし。繰り返す───』
「(………確かに、この緊急時なら彼女が最適だと思うけど。まさか、こんなにも早く、この手を使う羽目になるとは)」
「あららァ。拙が思っているよりも、あまり時間は残されていませんね。───少し、不味いかもしれません」
各々が、別の思考に耽る中。
確かに、魔法少女や政府といった面々には、それぞれの思惑があるのだろう。こうして、真子島攻略作戦を行っているのも、それぞれの思惑が重なった結果に過ぎない。
だからこそきっと、───各自の結果を飲み込むだけの器量が必要なのかもしれないのだ。
「───それでしたら、ボクと魔法少女グレイが先行をします」
「………へぇ。それを出来るだけの能力が、貴様等にはある、と?」
「えぇ。ボクと魔法少女グレイは、同じ流派ではなくとも、隠形の訓練を受けています。特に問題はないです」
魔法少女デスガンは、少しだけ細めの瞳を見開くのだった。
先ほどの、涼音の提案がそれほどまでに意外だったのか。
しかし、流石に魔法少女デスガンの思惑を満たしているとはいえ、無謀な闘いに戦力を消耗するのは避けたいらしい。詰まる話が、魔法少女だとはいえ、二人の少女に一体何が出来るのかといった具合だ。
だが、魔法少女デスガンが魔法少女アーチャーに聞いたところで、似たような返答を貰うだけだろう。
そこで魔法少女デスガンは、質問の矛先を魔法少女グレイと呼ばれている彼女へと、視線を変えるのだった。
「そこの貴様。確か貴様は、魔法少女グレイと呼ばれていたね」
「………まぁ、そうですね」
「なら、魔法少女アーチャーが言うように、………その、隠形とやらを使えるのかァ?」
その問いに、少しだけ悩む伊織なのであった。
確かに伊織は、涼音が言うように隠形の類を使える。
しかし、その力量は他の戦闘技能と比べると、何段が落ちる。
とはいえ、その程度ならば、特に問題はないだろう。
「………えぇ。数が多過ぎると少し問題がありますが、しっかりとルートを選べば、特に問題はないと思いますよー」
「ふむ───」
少しだけ、魔法少女デスガンは悩んだ。
しかし、悩むだけの時間がある訳ではない。
“即断即決”。───それしかないと、選択は指し示す。
「───ならば、先に向かって行って下さい。拙たちは、他の“ケモノ”を殲滅しつつ向かうから、最深部で集合という事で、お願いしますね」
伊織と涼音が先に“ケモノ”等の巣穴の中へと突入していって、ほんの少しばかりの時間が経った頃。
元々、整備の点検という名目で待機していたのだが、伊織と涼音が帰還してこないと分かった以上、早々に点検を終えて機甲突撃部隊と魔法少女デスガンは準備を終えた。
「………良かったのですか? 彼女等を先に行かせて」
「何を言うかァ、グローリーリーダー。態々、拙等が被害を受ける必要はないだろ。被害は最小限に。特に奴等に問題がなければ、拙等は手を出す必要はないからなァ」
とはいえ、そのまま無下に使い潰すのは、それこそ無駄な行為だ。
魔法少女デスガンは、───“願い”を叶えるために、命を賭ける魔法少女になった訳ではない。そんなもの、何の価値もないと思う類の彼女だった。
そもそも、《マホウ》とは何だ、魔法少女とは何だ。
碌に、魔法少女なんて不可解なものを信じない魔法少女デスガンは、討伐や作戦に参加して金銭を貰うために、ただ魔法少女をやっているだけ。
───故に、被害が出ずに評価を貰えるなら、それに越した事はないのだ。
卑怯者だと思うのなら、卑怯者だと思うがいい。
屑だと思うのなら、屑だと思うがいい。
───少なくともこんな世界、精一杯頑張る奴のの方が馬鹿だ。
「───とはいえ、一応彼女等に取り返しのつかない被害が出れば、拙の地位も危ないからなァ。精々、援護はしっかりとやらせてもらうぞ」
“ケモノ”の巣穴の内部は、よく見る洞窟造りだった。
しかし、少し進んで伊織は、その感想を改める。───それくらいまでの、衝撃的な内部だったのだ。
「───何だ、………これは」
伊織が驚愕するのも無理はない。
特に伊織が驚愕したのは、壁に刻み付けられた幾何学模様の魔法陣だ。
魔道具を扱う伊織としては、それなりの魔術や神秘的な知識を保有する。流石に、その道のプロには敵わないが、広く浅く知識を貯め込んだためか、ある程度の取っ掛かりぐらいは手に入る………筈なのだ。
しかし、伊織の記憶に、このような魔法陣の記述はなかった。
少なくとも、神秘的な世界の中でもかなりマイナーなものか、それとも元々ないものだろうぁ。
それを確認する術は、伊織にはなかった。
ちなみに、涼音の様子はというと、特に問題なくいつも通りだったりする。
涼音は何度か“ケモノ”の巣穴に突入した事があるし、そもそもそちら方面に知識がないからだ。
そして、伊織の様子が何やらおかしいと思ったのか。心配そうに、彼女の事を覗き込んでくる、涼音の姿がそこにはあった。
「………伊織。どうかしましたか?」
「………いや別に、何でもないよ。うん、何もなかった」
いや、それよりも。
「そう言えば、名前に関しては問題ないのか?」
「えぇ。通信が入ってきたり、また会うまでは特に気にしなくてもいいでしょう」
詰まる話が、たとえ任務中でも他のメンバーがいない以上、特にその必要はないらしい。
いや実際、それでは規則上かなり不味いと思うのが普通だろう。一応、魔法少女という存在があやふやだとはいえ、今現在臨時で軍隊に組み込まれている以上、それに従うべきである。
しかし、どうも涼音は伊織の事を、名前のさん付けなしで呼びたいらしい。
それで結果、最終的には───適材適所に呼んでいるみたいだ。
と、そんな風に話が逸れてしまっているけど、───それよりも、聞くべき事があるだろう。
「………なぁ、涼音。お前は、“ケモノ”の巣穴の最深部まで行った事があるか?」
「一応、ボクも魔法少女の一人ですから、何度かありますよ」
「そう、それなら丁度良かった。私なんて、魔法少女になったばっかりで、巣穴の内部構造なんて知らないからな」
丁度良かった。
もし、伊織一人で攻略しろなんて話だったら、何日も人を喰らう“ケモノ”の巣穴で過ごさなければならなかった筈だ。流石の彼女とて、それはかなりキツイ。
また、あまり知らない魔法少女と合同だった場合にも、伊織の気は休まらなかっただろう。
人を喰らう、殺戮の“ケモノ”の巣穴だというのに。
酷く、
酷く、
日常の一コマのようで、平穏で───。
───だからこそ、唐突に終わりを告げるのだ。
「───っと、不味いな、コレ」
「───えぇ。このままでは、かなり不味いですね」
何かを感じ取ったのか、伊織と涼音はそこの、岩場の影へと隠れる。
岩場の影というのは、あまりにも心許ない。けれど、隠れている本人たる伊織と涼音ならば、隠形の類で“ケモノ”たちから逃れられるだろう。それに加えて、抜け道がすぐそこにあって、これ以上ないほどの隠れ場所だ。
そしてそれは、ギリギリだったのだろう。
『異コ菟、異コ菟』
『音エ、音エ』
『菟、ゥゥゥゥ』
声が聞こえる。
人を喰らう“ケモノ”が発する、酷く、醜い、それでいて楽し気な声。
それが、通路を埋め尽くすほどの数に、溢れかえっているのだ。これには、伊織と涼音も、顔を顰める他なかった。
勿論、伊織と涼音なら、勝つ事も出来ただろう。
しかし、態々不利な対面で馬鹿正直に戦うほど、伊織と涼音は阿保ではない。
そもそも、伊織と涼音に任されたのは、この“ケモノ”の巣穴の最深部に到達する事だ。それを寄り道してまで、更に危険を犯しつつも行う必要はない。
「………そろそろ、移動しようか」
「………えぇ、そうですね。伊織は兎も角として、ボクはまり隠形は得意ではないですからね」
「よく言うよ。無差別級なら、どう考えてもお前の方が上だろうに………」
それから少し進んで、“ケモノ”がいないであろう通路へと、伊織と涼音はたどり着いた。
勿論、“ケモノ”に遭遇しない保証なんてない。その時はきっと、伊織と涼音の予感が嗅ぎつける事だろう。
───詰まる話が、会話をする程度の余裕はある。
「………。なぁ、涼音。さっきは聞き忘れていたのだけど、巣穴ってどんな感じなんだ?」
ふとした疑問。
けれど、伊織の前知識に“ケモノ”の巣穴についてのものはないため、このままではかなりの足手纏いになってしまう。
それは流石に、伊織が望まない方向。もし、そのまま彼女が碌に情報を知らないまま進もうものなら、作戦が終わった後の自宅で丸くなっている事だろう。
「そうですね。───なら、最深部に向かうがてら、少しだけ大まかなレクチャーでもしましょうか」
「あ、よろしくお願いします」
「ふふん~。伊織の頼みなら、報酬込みで聞いてあげますとも」
“あ、報酬は必要なんだ”。そう思う伊織なのであった。
「───ではまずはじめに、“ケモノ”が一体何者か分かりますか?」
「? ソイツ等の巣穴についての、話の流れかと思っていたのだけど、違うのか?」
「まぁ、巣穴の構造を知る前に少しだけ寄り道をした方が、分かりやすいですし。それに、まだまだ最深部への道のりは長いですし、“ケモノ”の気配もないですから」
知識を共有する前に、他の情報を関連付けた事による、認識の差を埋めるためなのだろうか。下手な認識の差は、説明全てをご破算する可能性を秘めている以上、確かにそれは必要経費の類なのだろう。
とはいえ、確か前に伊織が“乙女課”で聞いた話が全てかと思っていたけど、───これって本当に聞いていい話か、とても気になるところ。
「───ま、あまりよく分かっていないんですけどね♪」
「───っ」
「痛いです、伊織!? 確かに、この長時間過ごそうものなら精神異常をきたしそうな空間だから、少しだけボケてみたつもりですけど、伊織の抓り方は何か痛いので、止めて下さい!?」
痛ててと、再度伊織に抓られない位置まで、背後へと下がる涼音であったのだ。
「───話を戻しますと、前に“乙女課”で説明があった“ケモノ”について。それは殆ど合っています」
「………殆ど。あぁ、そう言う事か」
「早合点が治ったようで何よりです。───おっと、もう食らいませんとも」
再度、伊織の手が涼音へと延びるが、流石に警戒されている上に距離を取られている以上、ただ空を切るだけだった。
「───それで此処からは、結構機密情報なんですけど。………伊織、今回の件についての仕返しで、言いふらしたりしないでくださいね?」
「………私を何だと思っている。流石に、他に話しちゃ不味い話を、他の人様に話すほど考えなしじゃないよ」
「そう。それなら、良かったです」
「───と言いつつ、あれからどれだけの時間が過ぎた? どう考えても、何度か階を降りた気がするのだけど」
そんな感じで、何階か“ケモノ”等の巣穴を降りた、伊織と涼音。
先ほどから、周囲の風景は変わらない。ただ、頑丈な土塊と幾何学模様の魔法陣で出来た、正直不気味とも呼べる洞窟内だった。
しかし、涼音が言うには、かなり最深部に近いらしい。
対して、そんな事情を碌に知らない伊織からしれみれば、信用を傾けるほどの変わり具合がある訳ではない。
「まぁ、実際に見て貰った方が早いですし。所謂あれです。───百聞は一見に如かず、です」
「………確かに、あまり要領も、傍から感じ取れるだけの才能もないからな」
「え、───才能がない? 嘘でしょ?」
「私だって、武芸百般という訳ではないんでね。───それよりも、私たちは一体何処へ向かっているんだ?」
風景は、一切を以って変わらず。
ただ、土塊と幾何学模様の魔法陣が、意味も分からず見えるだけ。
それに対して涼音は、何やら納得がいかない様子であったのだが。それでも渋々と、渋々とではあるが、その話についての続きを話のだった。
「───まず伊織、貴女は“ケモノ”が何者か知っていますか?」
「さっきも、そんな風な話したよな。まぁ、人を喰らう程度ぐらいしか」
「………本当に必要最低限ですか。しかし、これから話すのはかなりの機密なので、気を付けてくださいね」
一応の、涼音の再度の念押し。
しかして、それを理解した上であまり気にしていないのか、伊織は案外平然とした様子でそこに立っていた。実際彼女は、不満げを漏らすように人差し指で叩いているのだった。
そんな、動じない伊織の様子を見て、涼音は一定の納得をしたかのように、再度話し続ける。
「───そもそも“ケモノ”とは、生殖によって増えるものではないです」
「!? もしかして“ケモノ”は、自然に生まれたものではなく、何者かによって生み出された、所謂創造生命体とでも言うのか!?」
「えぇ、初めの個体が一体何かについては、まだ分かっていないですが、少なくとも生命の系統樹から派生した何者かという線はかなり薄いと、我々“乙女課”は見ています」
───詰まる話が、現存する自然界で進化などを繰り返した生命の系統樹とは、また別の存在という事だ。
意味が分からないと思うかもしれないが、分かりやすい例に例えるなら、宇宙人とやらがそれなりに近いだろう。実際、もしも彼等が存在するのなら、地球の生命の系統樹を通っていない以上、別次元の存在とも呼べるだろう。
「───だけど、そんな理解が出来ない“ケモノ”という存在であろうとも、所謂炭素生命体という事は分かっているから、特に問題はないですからね」
「問題は、ない………」
「そうでしょう? 伊織───貴女は、とある事情で、“ケモノ”を殺して、それで願いを叶えたいでじょう?」
一歩間違えれば、その涼音の言葉は、掛けた本人を侮辱するものであったのだろう。
けれど、伊織は知っているのだ。
確かに涼音は、むやみやたらな殺戮は嫌いとしている。実際、殺す必要がなければ殺さない、それが何時か害になれば平然と殺すという、結構割り切った性格をしているのだ。
そして、ソレに当てはめて考えるなら、“ケモノ”を殺す事に何の後悔もない。
だがその一方で、大切な人を大切にするタイプだ。
何かを殺す事の重圧を、それなりに知っている。
その上で、───あのいつも何かに怯えていた伊織が、覚悟を決めて殺戮をしている行為を、馬鹿にするつもりはない。
「………。まぁ、その話はこの際何処か隅にでも置いておいて。───それで、“ケモノ”はどうやって増えるんだ? 無生殖という話だから、流石にナメクジとかと同じじゃないよな!? そんなグロテスクな様子を見る羽目になったら、私の心は折れそうなんだけど」
自業自得とはこの事。先ほどの伊織自身の発言から思い出して、ずぅんと黒く重く、曇天が彼女の空にあるようだった。
「………流石にそんなグロテスク? のようなものではないですから。とはいえ、少し方向性が違うだけですけど」
「今、方向性が違うと言った、言ったよね! ちょっと、私の心の限界量が溢れ出しそうなんだけど!?」
「それについては、今回の件と無関係そうですから。また今度の機会で───」
納得できない。
そんな終わり方をされた伊織としては、到底納得できない。少なくとも、ある程度の概要は知りたいと思うのは普通ではないのだろうか。
しかして、そんな涼音の思いを踏みにじるような行為は、二人共望んでいる結末ではない。
精々、勘のいい伊織は、聞かなかった振りをするだけだ。
きっと、それが一番誰も気づかない結末なのだから───。
「───そう言えば、涼音。私たちって、一体この巣穴の最深部に行って、何をするんだ?」
「………あ。えぇ、そうですね。確かにボクはそれを言ってなかったです。距離にしても丁度いいですし、それについて話しましょうか」
だからこそ伊織は、かなり強引ながらも、話題を別のものにする。
そして、焦りからなのか、碌な話題の話すべき内容も、何処か別のところへと思考が飛んで行った涼音。それ幸いと、伊織の話題へと思考を切り替えるのだった。
「───まずは伊織、貴女は何度か“ケモノ”の群れを討伐した事がありますか?」
「まぁ、何度かな。とはいえ、精々思い当たる奴が一体いる程度だがな」
「なら、問題はないです。そして、先ほどの言葉をすぐに撤回してしまうのだけど、───“ケモノ”は群れを作らないです」
“ケモノ”は群れを作らない。
確かに、伊織が見てきた“ケモノ”の中には、単体で梓ヶ丘に出現する奴もいた。勿論、集団で襲ってくる奴もいたにはいたが、最初のソイツ等との戦闘が一対一であったために、彼女からしてみればそちらの方が印象深い。
しかし、涼音が言うには、少し違うらしいのだ───。
「群れを作らない?」
「えぇ。元々、人間のような思考回路どころか、まともな思考が各自でできない以上、群れなんておこがましいです。少なくとも、同じ読み方をする獣だって、群れ社会とやらを作っているんだし」
「思考が出来ない。───詰まる話が、考えるという行為自体が出来ないという事か?」
「それで一応合っています」
一応って言った、一応って。
しかし、伊織には心当たりがある内容だった。
確かに、今まで出会った殆どの“ケモノ”は、戦い方に碌な工夫も技巧もない、稚拙とも呼ぶに値しないものが殆ど。基本的に、その場の対処の繰り返しだった。
だが、一体だけ、───その例外が存在した。
あの鎧武者のような、人型の“ケモノ”だ。あれは、戦い方を知っていて、それでいて剣術という概念すらも理解していた。
「───そして、その例外。周辺の“ケモノ”たちを統括する、頭脳体とも呼べる個体が、恐らくこの真子島の最深部にいる」
「それが、この丁度真下だと?」
「えぇ、勘が良くて、話が進み易くて助かります。」
「そして、頭脳体に選ばれる“ケモノ”は、最低でも甲種。島自体を奴等の巣穴としている以上は、───1国家が討伐できるクラスの歴種の“ケモノ”だとそう考えても問題はない、
油断だ。
これはきっと、油断なのだ。
たとえ、十数メートル以上離れているとはいえ、───歴種の“ケモノ”を侮るべきではなかったのだろう。
唐突に、地面が瓦礫と化した現象。
それが先が見えぬほど続いているのだから、おのずと何が起きているのか、嫌な予感というものがきっと教えてくれる筈だ。
「あれ、涼音。これってもしかして、あちらさんからお迎えが来た感じか?」
「───えぇ、これからの戦いはそう簡単に勝てないから。精々伊織も気を付けてくださいね」
割れた、割れた───。
崩れた、崩れた───。
瓦礫がガラガラと、伊織と涼音の足もとを崩していく。───まるで、今までの順調さが、足元から崩れていくように、ただガラガラと。
「───おっと。これは私の失態だったな。いやぁ、参った、参った」
「伊織。これは少し不味いかもしれませんね。いえ、手間が省けたと言えば、手間が省けたのですけど」
「と、いうと?」
「えぇ。伊織の感知能力を掻い潜る隠密能力、魔法少女であろうともそう簡単に壊せないほどの床を何枚もぶち抜いて、その上この殺気───」
そう言う涼音と伊織は、崩れ行く瓦礫の中を揉まれて、落ちて行く。
勿論、先ほどの奇襲があったために伊織と涼音の気は張っていて、奇襲の類の心配は殆どないだろう。
けれど、それでも気を緩める事ができない殺気。
ナイフにも似た、鋭いまでの、人を喰らおうとする上位種的な圧倒力。
───嗚呼、伊織は見た事がないだろうが、ソイツの個体名を知れば、きっと納得する事だろう。
そして、ソレを知っているであろう涼音の口から、彼の者の名が言祝がれた。
「───“ケモノ”。個体種、歴種にも相当。タイプ:アケ―プラスチダ」
「これは流石に、私でもかなり不味い。───っ!?」
そんな、空中で碌に威力を受け流せない伊織と涼音に、無慈悲にも叩きつけられる殴打。
おかげで伊織と涼音は、どうにか気付いたために受け身こそ取れても、見事に背後の壁にクレータを作りつつ叩きつけられるのだった。おかげで、背中を痛ててと、二人して摩る羽目になってしまう。
「───涼音!」
「───分かっています。伊織こそ、グットラックという奴です」
そして、先ほど出来たクレータによる被害。その砂煙が晴れる前に───そして、相手の姿を伊織と涼音が視認する前に繰り出される追撃が彼女等に襲い掛かる。
だが、感知できていた伊織と涼音に、そんな分かりやすい追撃が通る筈がない。
いとも簡単に、砂煙をかき分けるようにして出てきた伊織の視界に、ソレが映る。
「………なんか、何処かで見た気がするのだけど、気のせいかな? ───って、危な!?」
視界に収めた“ケモノ”を見ている瞬間に訪れる、ひりひりとした死の感覚。
その第六感にも等しい予感に、伊織は急速に回避行動を取ると、先ほどまで彼女がいた場所目掛けて振るわれる鞭のようにしなる殴打。しかもあれ、彼女の死角を突くように繰り出されたものだから、場合によっては即戦闘不能になってもおかしくはない。
回避を。
回避を。
他の魔法少女と比べて比較的頑丈な伊織とて、空気を割るような蔓の一撃をまともに食らう訳にはいかない。
しかもそれが、植物型の“ケモノ”の周りにまで飛んでいるのだから、攻防一体の策という奴だろうか。“ケモノ”の癖に、何とも理知的な考えな事で。
「ま、問題はないんだけどね」
伊織は切り返し、地を駆け、歴種の“ケモノ”との距離を縮める。
迎え撃つは、人の肉を容易に穿つほどの、蔓の雨。それはきっと、伊織の視界を埋め尽くすほどの豪雨だったのだろう。
それにしても、駆ける伊織からすれば予想外も甚だしい。
何せ、その歴種の“ケモノ”とやらは、予測を繰り返して、その自らを予知の領域へと昇華させているのだ。
流石に伊織の精度まではきっと届かないだろうが、これには彼女も、些か面倒くささを感じてしまう。
「訂正ぃ。───くそがっ!?」
『唖、唖ァァァァ』
───だが、明らかに予知の精度が上がっている。
そして、たとえ伊織がどれだけ優れていようとも、そこには確たる限界が存在する。どれだけ彼女が、限界値を誤魔化そうとも、いつかはそれが溢れ出す羽目にもなる。
「───読み違えた、かっ!」
溢れ出した。
伊織の、予知が飽和した。
確かに、伊織は予知が見えていたのだが。しかし、それを見逃してしまうほどに、圧倒的な情報量。流石の伊織とて、人間であるのだ。
だが、それで終わりにする訳にはいかない。
強引に受け身体勢を取り、そのまま壁へと叩きつけられた。
空気が動く気配はなく、ただ砂埃が舞うだけ───。
「読み、違えた、か………。これは結構、キツイかもなぁっ」
どうにか無事。
壁に叩きつけられた衝撃で痺れてはいるものの、手足や内臓の類は無事。骨は折れてはいないし、内臓が損傷した様子もない。
しかして、どうしたものかと当の伊織が考えていると───。
それでも、“ケモノ”が待ってくれる訳がない。
追撃の連撃。空間を打つような、風鳴を轟かせつつ、伊織の目の前へと迫る。
回避の類を許さない物量。今だ痺れている上に体勢が悪い伊織にしてみれば、死刑宣告と同義であろう。
だが、───。
「───私も、死ぬ訳にはいなかいんでね。精々、テメェを殺してやるよっ!」
《柳田我流剣術、富嶽轟雷割り》
碌な体勢ではない筈なのに、手は今だ痺れている筈なのに。
それでも、刀を握る片手を振り上げられ、闘気を高める。静かに、そして解き放つ時は一瞬に最大火力を。
そして、振り上げた刀を振り下ろす単純で、最速で、最大火力を、叩きつけた。
轟雷のような空気を割るような一撃は、あまりにも容易に、伊織自身に迫りくる蔓を纏めて叩き潰すのだった。
『唖ァァァァ!』
しかして、そんな伊織の視界外───死角を縫うようにして迫りくる、暗殺術もかくも言う認識外の一撃。
だが、伊織の予知は、態々視界に収める必要はないのだ。
そして、その予知の結果は、知っているのだから───。
《黒澤流弓術、閃光》
「───伊織。貴女は、もう少し慎重に行動をして下さい。人間一人で出来る事には、確かな限界があるのですから」
「………。最近は調子悪くて、本来の実力が出せないだけだしぃ………。」
「なら。それなら、少しは人を頼る事を覚えて下さいね。今の伊織は、決して一人ではないんですから」
「───っあぁ、畜生!? 精々今は、協力プレイでもしてやるさっ!」
岩場の上から放たれた一射は、伊織の意識外を狙う一撃を貫いた。その上で、圧倒的な威力を以てして、射貫くどころか、副次的なクレーターを作りつつも木っ端微塵にその蔓をへし折るのだった。
そして、向かい合う、伊織と涼音。
涼音はまるで、しょうがない妹でも見るかのように、少し厳しく諭すのだった。
それに対して伊織は、何やら不貞腐れつつも、どうにか持ち直す。
───ようやく此処が、スタートライン。
駆け出した、駆けだした。
先ほどまでが、紙一重な激戦だと言うのなら、これはきっと楽な前哨戦だ。それだけ吶喊する伊織には、余裕が存在する。
足を止める事はない。
何せ、後ろには伊織がその力量を保障するだけの彼女が、援護にいるのだから。下手に足を止めればそれは、伊織自身の恥となるだろう。
「───っ、はっ!」
風を切る感覚が心地よい。洞窟地下最深部故に、淀んだ空気というのが唯一の欠点なのだけれども、それを差し置いてこの感覚は心地よいのだ。
無作為に繰り出された蔓は、回避を。
死角を以てして繰り出された蔓は、迎撃を。
───そして、歴種の“ケモノ”と伊織との間合いは、彼女のものとなったのだ。
《黒澤流弓術、風穿ち》
《柳田我流剣術、神薙》
「───お先に。トドメはボクがいただきます」
「あ゛!? さっきから援護の手が減っているかと思えば、テメェ私に隠れて準備してやがったな、この!」
前門に虎、後門に龍。
歴種の“ケモノ”とはいえ、歴戦の武芸者たる伊織と涼音の攻撃を防ぐ手段はない。下手をせずとも、どちらもぶち抜かれる可能性があるのだから。
けれど、忘れてはいないか。
何も、その“ケモノ”は植物型故に彼女等は、蔓だけが攻撃手段だと決めつけてはいないだろうか───。
「───っ。涼音、そこから全力で回避しろぉっ!!」
「伊織、何を言って。───まさか!」
間一髪の伊織の未来予知。
先ほどの、空気を穿つほどの蔓の類ではない。それならば、先に伊織と涼音自身が粗方処理をした筈だ。
───けれど、それがきっと油断だった。
降りすさぶ、木枯らし。もしも此処が命のやり取りをする戦場ではなくて、平穏な日常だったら、どれだけ落ち着く風景だったのだろうか。
だが、涼音が見ているのは、血に飢えた刃の雨そのものだった。
「───っ、あっ」
伊織の言葉で、どうにか涼音は致命傷を避けられた。
だが、その体に刻み付けられた、無数の切り傷。そして、そこからどくどくと垂れ落ちる、真っ赤な血液。───酸欠状態からの流血で、涼音としては一息が欲しいところ。
「って、相手もそんな馬鹿ではないんですよね………」
『唖ァァァァ!』
しかし、そんな絶好の隙を見逃すほど、目の前の植物型の“ケモノ”は馬鹿ではなかった。
追撃と称した木枯らし旋風にも似た、無数の刃の風。
それを対処する術は、残念ながら当の涼音は所持していなかったのだ。
「───なら、そこは私が精々頑張って挽回するだけさ!」
《柳田我流剣術、剣域》
目の前に現れた、伊織。
誰かをかばうなんて、普段の伊織ならば決してしない事であろう。
だが、───伊織は涼音をかばった。
───それがきっと、全てなのだろう。
「───何ですか、伊織。さっきの貸しのチャラのつもりですか?」
「まぁな。貸しを抱えたまま眠るなんて、寝相が悪くて碌に寝れないものでね。───さっさと片付けて、祝勝会としゃれこもうか!」
「えぇ。ボクがきっちり、さっきのお礼にトドメを刺してあげますとも!」
「いや、私が願いを叶えるために戦っているのを、分かって言っているでしょ!?」
「どうですかね~?」
───駆け出した、駆けだした。
目の前に迫る蔓が、乾いた破壊音と共に消し飛んで。
目の前に迫る木枯らし旋風が、斬撃音と共に消し飛んだ。
先ほどよりも、植物型の“ケモノ”の攻撃の苛烈さが増している。それはきっと、勘違いの類ではないのだろう。
だが、伊織と涼音は、それを容易という言葉でも言い表せないほどに、乗り越えていく。予定調和とでもこの場合、まさに言うべきなのだろうか。
しかしそれも、植物型の“ケモノ”と伊織と涼音の間合いが狭まっていくほどに、より苛烈さを増していく。
それに対して、伊織と涼音の肌の生傷が、徐々に増えていくのだ。
流石の伊織と涼音とて、これ全てを対処しきるには、まだ本領を発揮できるほどの調子ではない。
けど、───。
「───だから、何だって言うんだ! 私は此処にいて、それでテメェを殺す。絶不調、バッドコンディション、何するものぞ!!」
「───えぇ。伊織の言う通りです! 碌な理由でなくとも、ボクはお前を殺しに来た。たとえ、此方が不調でも、それ以上でも以下でもないです!!」
宣言をする、伊織と涼音。
しかして、その足が鈍っている事は変わりない。
そんな、一々宣言で戦況が変わるほど、簡単ではない。
───もしも、援軍が来なければの話だけど。
───轟音。
着弾と共に、火薬特有の煙。
それを、衝撃を以って、植物型の歴種の“ケモノ”が吹き飛ばされた。
これにより、射撃場所の検討は、この場にいる誰であっても分かるだろう。
そして、伊織と涼音はそちらへと視線を移す。
吹き飛ばされた“ケモノ”だって、そちらに注意を逸らす筈だ。
知るのだ。───起死回生の一手となる、彼女の名前を。
「───魔法少女デスガン。如何やら、最終戦には間に合ったようですなァ」
そこに立っていた。
盾銃なんて珍しい武器を構え、女性用の黒のスーツを纏い、悠然とそこに立つ、態々伊織と涼音を先に行かせた彼女が。
「………。よくも、顔を出せましたね。ボクと伊織を先行させておいて。この状況も、貴女の予想通りなんでしょう?」
「あらら、気付いていたかァ。勿論拙は、あまり無駄をしたくないたちでしてね。しかしこれは、拙の予想以上ですなァ」
「───で、お前はたかりに来た、と?」
「おぉ。やはり貴様は、生意気な後輩だ事で。───精々、機甲突撃部隊の代わりぐらいにはなってくれよなァ!」
射撃が、再開された。
轟音、乾いた射撃音が辺りに木霊する。
どうにか当の“ケモノ”は防げているものの、その防御の手が甘くなっている。その隙を突けと云わんばかりのものだった───。
駆け出した。
軽やかに、空を蹴るように駆け出した。
蔓と木の葉が隠れる。
先ほどまでの苛烈さはなく、ただ容易なジェットコースターの如く。その程度で、波に乗る伊織と涼音が止められる筈がない。
しかも、遠距離からであるが、援護射撃も貰っているんだ。
そんな、絶好な条件で、おめおめと負ける訳にはいかない───。
『唖、ァァァァ!』
だが、それで終わるほど歴種の“ケモノ”は甘くない。
蔓と木の葉による、絶対的な防御。穿つ矢と弾丸による弾幕とて、そう簡単どころか抜く事すら難しい。そしてそれは、伊織とてそう簡単な話ではないのだ。
その上、ある程度防御の厚みを“ケモノ”自身が覚えれば、それこそ終わり。
───少なくとも、此方に勝ち目の類はなくなる。
「あぁ。これもう某では駄目だァ、これ。───あとは精々、後輩たちに任せるかなァ」
魔法少女デスガンは、精々勝つ確率を高めるために、援護射撃を再度開始する。
碌な威力はない、攻撃力の類もない。───それでも、被害が碌になく勝つためには、この方法しかない。
とはいえ、最悪の状況も考えていたりもする。
その時は、魔法少女デスガン自身が、確実に仕留めるつもりだ。
「伊織、さっさと道を切り開いて下さい。貴女は所謂、───主人公なのですから」
道を作る。
伊織を、植物型の歴種の“ケモノ”への確実に届けるための、涼音にできる一手。しかして、何か実害がある訳ではない。
けれどこれは、───彼女等が勝つための選択だ。
「………まったく、私は主人公なんて嫌いなんだがな。───それでも、賭けた期待に応えるのは、そう悪い事ではないな」
妨害はない。
道は作られた。
───ずどん、と重い踏み込み。
伊織の迅雷の如くな踏み込みを、ただ何人たりとも遮るものはない。───道は、拓かれているのだ。
走れ。
走れ。
疾風の、迅雷の如く───。
「───七ノ死、己が内に刻め。」
「───剣、孤高に立ち。磨き上げられた、玉鋼の軌跡を。」
「───使い手、孤独に立ち。阻む者なかれ、何人許さぬ国士無双を。」
再度迫りくる、蔓と木枯らしの風刃。
しかしてそれは、駆ける伊織を狙って放たれる、足止めのための連撃ではなく、殺すための一撃である。そこに、防御の概念なんて存在はしない。
そう、植物型の、歴種の“ケモノ”は、迫る伊織を最重要排除対象だと考えた。
それは、思考の上での思惑か、───それとも研ぎ澄まされた本能か。
だが、研ぎ澄まされているのは、伊織とて同じ。
仲間に助けられて伊織は、此処まで来た。きっと彼女とて、その仲間がいなければ此処にはたどり着けなかっただろう。
正直、───悪くはない。
けれど、伊織は元々一人だった。───その研ぎ澄まされた孤毒は、近寄る人全てを傷付けてしまう。
一人なんて今更だ。
一人なんて今更だ。
此処に立つはきっと、───伊織一人なのだから。
願いがある。
願いがある。
叶えるための、願いがある。
不条理?
決して届かぬ、最果ての星?
「(───何のその!!)」
伊織には、何を犠牲に、努力を重ね、不条理に挑み。
それでも叶えたい願いがあり。
もう一度、彼女に会うために───。
「───さぁさぁ。我が絶刀、魔性を、不条理を絶つかァッ!!」
《柳田我流剣術、第二秘剣・極星白光》
一閃───。
崩れ落ちていく、巣穴の主たる“ケモノ”の骸。
嗚呼きっと、───その一言だけで十分だっただろう。
一か月以上、遅れてすみません。
………一章分を二ヶ月で書き終えるなんて、土台無理な話だったんや。
ちなみに、残りの三章分は、近日中に載せるので、そちらの方もよろしくお願いします。
※追伸、ブックマークと評価で叩かれると、やらなくちゃいけない気分になるぅ………。




