第二十二話「秘密はきっと───」
“乙女課”にて会議中。
本当に、最悪な展開になった。いやまだ、考え得る限り最悪な展開であったのならばまだ可愛げがあったものを、考えてもそんな事はないと選択肢から排除する事例が向こうから来るとは。
「………。本当に面倒な事になったね」
「はっは。賀状は相変わらずの不運じゃな。そろそろ、前借した奇跡の負債はそろそろ払い終えたかの」
「───否定。まだ払い終えていないと、
「えっと、何でこんな面々の中に私が………」
会議室に集まった面々は、全部で四人。
まずは、梓ヶ丘の“乙女課”を取り仕切る皆森賀状。
次に、“帰還者”の一人たる魔法少女ミコト。
そして、同じく“帰還者”の一人たる魔法少女ガラテア。
最後に大取を飾るべく何故かこの場にいる、“乙女課”梓ヶ丘支部秘書の飯田恵果。
「(ほんと、何で私みたいなパーティーピーポーがいるのでしょうか?」
さて、こうして会議を開催する羽目になったのは、当然の事ながら緊急事態であるからだ。
そもそも、この梓ヶ丘は“ケモノ”の襲来がそれなりにあるとはいえ、この数はかなり可笑しな話。レーダーで確認できる限りでは、今だ百を超えている。
しかして、そのどれもが丙種であることが幸いか。
それでも、魔法少女の数は今回の試験を受けた半人前を含めたとしても、その数はぎりぎり十数人に届くかといった辺りである。
普通なら、あり得ない事例。
だが、不足の事態と言えど、当然の事ながら理由がある。
「───それで、中東亜戦線が崩壊したとは、本当か?」
「少し、違うのぅ。確かに東亜戦線の一部が崩れたとはいえ、すぐに復旧作業を終えたからな。とは言え、それなりの数を日本国に入れたせいで他の支部もてんわやんわ、じゃな」
───中東亜戦線。
それを説明するには、少し軍事的な話になる事だろう。
まず前提情報として、四十年ほど前に“ケモノ”がユーラシア大陸の中心部辺りに出現して、それらは人々を襲い、殺し始めた。
勿論、日本を含めた各国は各自で対処を始めたのだが、大国の類というものはそう簡単に動く事ができなかった。いきなり現れて人々を殺し始めた正体不明の生物を殺しつくすため、そんなお題目では民主主義を動かすには足りなかったのだ。
そんな中で、かなり強引ながらも民衆の意識を排除へと持って行ったのが、かつてのアメリカ合衆国である。
だが、今でこそ分かる大問題なのだが、“ケモノ”には通常の兵器の類が通用しない───。
結果として、クラスターも当時国際的な問題となった物も通用しなかった。
人類にはなすすべはない。───誰しもそう思っていない。
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そんな危機的状況に現れたのが、あの黒い猫こと“プラン”だった。
そして、魔法少女になった各国の少女たちは、どうにか大攻勢を続ける“ケモノ”等を退ける事に成功したのだった。───多大の犠牲を以てして。
それに対して、前回完敗と呼べるほどの大敗を喫したアメリカ合衆国はというと、“ケモノ”の素材を使用した『Ⅴ弾』という画期的な兵器弾頭を開発した。
それが、各国の対“ケモノ”戦闘における、通常戦闘の基盤となった。
もっとも、特効状態の常時付与でもされていると云わんばかりな魔法少女には、流石に敵わないが。
さて、話が長くなってしまった。
“ケモノ”が今だ地球上に残っていて、ソイツ等は人類に対して攻勢を仕掛けている真っ最中。
地球上の各地に今もまだ戦線が開かれている最中であるが、その内の一つが中国西部の一部から南部へと連なる“中東亜戦線”。日本と中国が共同で戦線を維持している、人類防衛ラインなのである。
「まぁ、東亜戦線の件については当代の責任者に任せておくとして。今後の梓ヶ丘における“ケモノ”の掃討について、話をしようか」
「確か、データを見る限り、おおよそ1000体を越える“ケモノ”、かの」
「………。包囲網は作っておいたほうがいいよな」
「じゃがどう対処する。もう、ここまで分布しているとなると、もう後は掃討戦しかあるまいて」
「───肯定。支持します」
人々は、シェルターにて現在も生活中。基本的な生活必需品や食料などを考えると、大体一週間は持つ筈だ。だが、各自のストレス状態を考えると、早急な事態の収束をすべきなのだろう。
だが、ただの掃討戦となると、それに掛かる時間は考えたくないほどに長い。何しろ、1000を超える“ケモノ”の軍団。そう簡単には片付けられない。
つまる話が、どう調律を取るかという問題か、新たに対応策を思い付くのか。
前者はともかくとして、後者についてはあまり現実的な話ではない。逃した“ケモノ”が潜伏した場合の処理がとても大変だからだ。もしも、新しく対応策を考えるとしても、“ケモノ”を感知できる魔法少女がいれば、話はまた変わっただろうに。
「しかし、どうしたものか。包囲してからの掃討戦なんて、現実的な話じゃない」
「なら、儂等が包囲網の中を蹂躙するか? 少なくとも、勝つ気しかないがの」
「いやしかし、何処にいるのか分からないだろう」
「そこは、儂が片っ端で目星がつくところを重点的に探せばよい」
「だが、それでも包囲に使う銃火器兵の事を考えると、それはあまりにも非効率的だ」
会議は進まず、され躍る───。
なんて話は聞くけど、それは結論が決まっているからに過ぎない。
つまる話が、それは答え合わせだ。ただ、会議をしたという事実を現実のものとするための行為に過ぎないのだ。
「………。そう言えば、彼女は?」
「彼女じゃったら、適当にそこら辺を歩いているんじゃなかろか。あ奴、集団行動が苦手じゃしな」
「───肯定」
♢♦♢♦♢
「お~い、蓮花。かなり消耗が激しかったと聞いたけど、」
「………」
如何やら、瀕死のようであった。
あれほど色々と酷使したのだ。それに慣れていないと言うのならば、その反動は押して図るべし。
確かに、伊織を基準とするのならば、蓮花は不甲斐ないと言うべきなのだろう。
だが、伊織を基準点をするのがおかしいのだ。
とはいえ、───いやこれ以上言うのは………。
「あ゛ー、冷たい」
そんな時だった。
蓮花の仰向けとなった顔面に、何か液体のような物が掛けられた。
普通なら、いきなり何だと飛び起きるものなのだが、生憎と当の蓮花にそのような気力は残っていない。いや実際は、ある程度何の液体か想像がつくというものなのだろう。
───そう、水だ。
例えば、スポーツ飲料や酒の類であったのならば、後処理が大変な目になっていた事だろう。いやそもそも、お酒は未成年を越えてから、か。
というか、乙女がこんなだらしない顔をしても良いのだろうか。
「あっ、伊織さん。今日はお疲れ様でした」
「あぁお疲れ。今日は本当に災難だったな」
災難、その言葉で片づけるには、あまりにも不意に訪れた災害。
だがしかし、台風や大雨といった自然災害とは違い、“ケモノ”の襲来は人々にとっては対処できる自然災害だ。もっとも、人死にという危険度に関して言えば、台風などを越えてしまうのだが。
「………、伊織さんの方の班はどうでしたか?」
「別に、特に問題はないさ。私が数がいるとはいえ丙種相手に苦戦すると思うか?」
「………。いえ、そんな事、ないですよね」
「だろ?」
にっと笑った伊織の笑顔は、少しだけ眩しくて。
それに対して蓮花は、少しだけ表情を暗く落とした。
知っていた、知っていたとも。
蓮花は、伊織から近接戦闘技術を叩き込まれたのだから、少しは伊織の戦闘能力について知っている、そのつもりだった。
だが、結果がそれが間違いだったと、そう伝えて来る。
杏と優子に偶然会って聞いてみた話だと、伊織はまさしく獅子奮迅の如く、まるで鬼神の如く“ケモノ”を蹴散らしていったとの話。その内容は、前に伊織に見せて貰った光景から、容易に想像がつく。
そして、他愛のない会話が終わって、蓮花は何処かで休もうとその場を去っていったのだが。
───その、杏と優子の表情に暗雲が立ち込めていた、そんなような気がする。
正直、蓮花にも分かる話だ。同じ舞台に立つ人が、自分とは比べようがないほどに離れている、その劣等感に。
だが、理解はできないと、そう思っていたのだ。
「(でも、少しだけ分かる気がします………)」
理解はできずとも分かる気がする。
「───なぁ、蓮花。あの、そこにいる彼女について、お前は知っているか?」
「えっ?」
蓮花の思考が現実へと舞い戻る。
そして、蓮花が伊織の視線の方向へと向けると、蓮花には見覚えのある人物が此方に歩いてきている。彼女の視線は此方へと交差していて、それ故に伊織は気付いたのだろう。
「やぁ。えっとお主は、あの時の………」
「───鈴野蓮花です。魔法少女ミコト」
「おぉ、そうであったか。いや何、あの時ぐったりとしておったからな。調子を見に来ただけじゃ」
そう助けられた本人たる蓮花は、少しだけ恥ずかしそうにする。
確かに、限界を超えた肉体と《マホウ》を行使したのは生き残るためにしょうがない話なのだが、それでも不甲斐なさを恥じるばかりだ。
と、一方でミコトの興味はというと、伊織の方へと移っていた。
別に可笑しな話ではない。
伊織の剣術の腕前であるのなら、ミコトが興味を抱くのは当然の話。それに加えて、何処か波長が合うのだろうか。
「───お主、名は」
「柳田家次期当主候補、柳田伊織だ」
「では改めて。儂の名は、九重美琴」
互いの口ぶりは、まるで重力が増したかのように重い。
黒澤流が表向きの武術の流派であるのなら、柳田流や九重流、それに確か鬼道の奴等を合わせて裏の流派。───“御三家”と呼ばれている。
であるのなら、伊織と美琴同士、何かしらの面識があってもおかしくはない。
しかし、───。
「へぇ、“千変万化”の九重の娘、か」
「そう言うそちは、“剣術無双”こと柳田龍前の孫かの。確か、柳田家は───」
───伊織がいつの間にか抜いた脇差の切っ先が、美琴の顎付近に添えられる。
伊織と美琴の一連の会話を見て聞いていた蓮花でさえも、その抜刀の瞬間は捕らえる事はできなかった。そして、伊織の放つその殺気は、“ケモノ”に対して発していた威圧を目的としたものではなく、敵を動けなくする固定化の殺気。
それほどまでの殺気。普通の一般人なら、その伊織の本気とも呼べる殺気を以てして、窒息死すらも可能とさせるある種の凶器。
だが、伊織自身と同系に類する武家の血は侮れぬか、多少怯みはしたものの美琴の体は今だ自由を保っている。
「おっと、藪蛇じゃったかの。これはすまなかった。武家の秘術の類には触れるべきではないのぅ」
「───。本当にその通りだ」
「了承してくれると言うのなら、その脇差を降ろしてくれんかの」
そう、美琴は講義の言葉の述べる。
それに対して伊織は、渋々ながらも脇差を鞘へと納める。もっとも、あまりの地雷に触れたことにより今だ納得できないのか、軽い殺気は残したままであるが。
「そう言えば、お主に聞きたい事があるんじゃが良いか?」
「………、はぁ。別に良いけど、手短に終わらせてくれないか」
「そうじゃな。手短に終わらせるとしようか」
伊織の静かな怒気にも何のその。
美琴は、本題を話し始めるのだった。
「これは、お主等の班の救援に向かったガラテアから聞いたものじゃが。柳田、何故“ケモノ”の位置が分かる」
「………」
“ケモノ”の位置が分かるとは、一体どういう事なのだろうかと、蓮花は思う。
確かに、伊織と一緒にいると何故だか“ケモノ”と会う機会が増えるとは思っているけど、基本的には警報が鳴り響いてからだ。
しかし、こうして疑問に思うと、少しだけ不自然にも思う。
蓮花が実戦に連れ出された時───“ケモノ”と戦った日、そのどれもがぴたりと一致していた。丁度確率を引いた偶然かと思うのかもしれないが、出現頻度を考えるとそれは考えづらい。………まぁ、今日のように“ケモノ”が大量に出現するなんて、それは予想外中の予想外なのだけど。
だが、
「何だ。言いたい事があるなら言えよ。───私に、“ケモノ”の位置が分かる、そんな能力があるのではないか、と」
「言ってくれるのぅ。今まさにお主が言うように思っていたところじゃが、───それでは辻褄が合わぬ。お主の《マホウ》は、身体強化系かと思っておったがの」
───そう、辻褄が合わない。
蓮花が聞くに伊織の《マホウ》は、涼音のものとは毛色が違うそうだけど、身体強化系。あれだけの運動能力を、魔法少女だとはいえ素の状態だとは考えづらい。
その一方で、今までの“ケモノ”の感知能力についても、魔法少女が各自で所有する《マホウ》だと考察することも出来る。
そう、両者が《マホウ》的な能力だと考える事ができ、同時に素の状態では考えづらい能力。
そして、伊織の答えはというと、───。
「別に。他者の気配感知はある程度やっている者なら、当然の技能かと思っていたけどな。───何だ、出来ないのか?」
───少しだけ、伊織の背が大きくなった、そんな幻覚を見る。
まるで、意趣返しが嫌がらせかと云わんばかりの行為。
それに対して当の美琴は、納得がいったと云わんばかりに、湯呑を置くようなポーズでぽんと叩く。如何やら、伊織の攻撃は効いていないのか、それとも単に上手く受け流しているに過ぎないのか。
「何じゃ。てっきり儂と同じ二重詠唱者かと思っていたのじゃがな」
まるで、殴りかかった拳を受け流されて、その上カウンターを叩き込まれたかのような、綺麗な返し。
───結果、伊織は倒れた。
しかして、その一方で先ほど美琴が発した謎のワードについて気になるご様子。
蓮花は、意を決して聞いてみる事にするのだった。
「………。えっと、美琴さん。二重詠唱者って?」
「何じゃ。賀状の奴、ソレについて教えておらんかったのか? まったく、相変わらずのけちん坊じゃな」
「まぁ、簡単に言うとじゃな。儂等魔法少女には、必ずしも《マホウ》が使えるじゃろ。その要素に、間違いはない」
「………そうですね。魔法少女は《マホウ》が使える」
魔法少女が所有する能力について、大体三つほど。
一つ目が、素の身体能力の向上だ。《マホウ》による身体能力強化系とは違い、予め備わっている能力。勿論、身体強化系の《マホウ》と比べるとかなり性能が落ちるが、それでも魔法少女本人としては有難い能力である。
二つ目が、各自に与えられた《マホウ》。特殊能力とでも言えばいいのだろうか。今までに、十人十色の《マホウ》が確認されている。
そして三つ目がとても大事で、“ケモノ”に対する特効性だ。ソイツ等には通常兵器の類は効かず、どのような手段を用いてもそれは同じ。だが、魔法少女に備わった特効性ならば、たとえ飛び道具や罠の類であっても、“ケモノ”に対して有効打となりえる。
まぁ、此処からの延長線な能力があるにはあるが、それでも基本的にはこの三つ。
「賀状の奴に魔法少女について聞いたのであれば分かるのじゃが、魔法少女には《マホウ》と呼ばれる特異能力が備わっておる」
「えぇ、私にも支援系の《マホウ》が使えます」
「そうじゃろそうじゃろ。じゃが、魔法少女に備わっている《マホウ》は、個人一人について一つじゃ」
それも蓮花は、聞いた話だ。
魔法少女が所有する《マホウ》は、各自に一つ。それが原則である。
しかし、美琴が言うには、それはそうれで正しいのだが、如何やら原則からはみ出した例外があるらしい。
「じゃが、稀に儂のように二つの《マホウ》を使える者が現れる。それを二重詠唱者と、そう呼ばれておる」
「───二重詠唱者………」
それがどれくらい驚異的な話か分からないかもしれない。
例に挙げてみるとするなら、あのただでさえ驚異的な伊織の身体能力に、後少なくとも《マホウ》が一つ使えるとなると、それがどれほど驚異的な話か。
《マホウ》とは、魔法少女の戦闘能力を支える大きな力の元。
これがまだ、《マホウ》を上手く扱えない成たてな魔法少女であったのならば、それほど脅威ではない。
だが、先の美琴や例題として挙げた伊織が二重詠唱者なのだとすれば、その脅威度は押して図るべし。
ちなみに、二重詠唱者な当の魔法少女ミコトが言うには、国内でも科のyぞと同じ魔法少女は片手で足りて、世界中で見ても百にも満たない。
それほどまでに、二重詠唱者な魔法少女は希少で、同時にとても驚異的なのだ。
「それで、A班の戦績を見た限り、もしかしてと思って居ったが、如何やら違うようじゃな」
「………悪いか。私がその何だっけ、………二重詠唱者じゃなくて」
「いや、そうは言っておらぬ。《マホウ》が二種類あっても使えぬなら意味はないし、弱々しい《マホウ》であっても論外じゃしのぅ」
如何やら、いつの間にか伊織は、顔を美琴と蓮花に視線を向けていた。丁度、伊織の角度からだと蓮花のアレが見えるだろうが、それにはお構いなし。
その一方で、美琴は伊織が又聞きながらも会話を聞いていた事実に差しも驚きはしないのか、そのまま会話を続けた。
「───じゃがそうなると、気配で“ケモノ”を探知できるという事じゃな」
「───元々、“ケモノ”は呼吸の類を必要としないのか、呼吸で判別する従来の方法では、無理だな。だが、足音やそこにいるという気配でなら、識別は十分可能では?」
───正直、まだ武術を習い始めて少ししか経っていない蓮花でさえ、伊織の言う事が無略茶だと分かる気がする。
足音や気配───第六感を用いた相手の探知という話は、まだ理解できる内容だ。例えば、達人とかの話題で、そのような技術があるとは知っていた。
だが、伊織の言っている事は、達人の技術のその先へと向かっている。
何しろ、達人級の技術はそもそも、一人または複数人を相手にしたもので、平衡な二次元的なものである。
そして、当の伊織が言うには、十数か数十の相手の位置を更に三次元的に把握するという、正しく神業級の技術である。
「(………)」
実際、同じ魔法少女(片方は見習い)であるのとは同時に“帰還者”の出である美琴でさえも、その開いた口が塞がらない。
一方で伊織は、まるで先ほどとは違い当然と云わんばかりに、不思議そうにその首を傾ける。
そして最後に蓮花は、会話に着いていけないと、真っ白にいつの間にかなっていた。
♢♦♢♦♢
休憩時間は、あっけなく終わりを告げた。
そう、美琴は休憩時間内ではあるが、途中退席をしたのだった。
そして、美琴の衝撃的発言からガラテア以外全員が絶句しつつも会議は進み、最終的には当の伊織の話題へと繋がるのは、当然の話。
「───あ奴を、安全な護送の上、戦場で探知レーダーとして活用する気はあるかの?」
「だがそれは、柳田君の大きな利点を切り捨てる事になる。それに、彼女はそんな事は望まないだろうし、それに君も乗り気ではないのだろう?」
「はっは。やはり見抜かれておったのぅ」
答え合わせには、少し白々し過ぎる会話。
正直な話、柳田伊織としての探知能力を最大限に活かした場合、先ほどの美琴の言う通りにした方が最大の利益を生み出す。東亜戦線の“ケモノ”等を考えれば、一体どれだけの兵士を救えるのだろうか。
だがそれは、自らの得た利益を同時に捨てる事でもある。
目先の利益を取るのか、それとも目先後の利益を取るのか。───答えは、単純明快に尽きるものだ。
それに、───。
「それに、“000計画”の事を考えれば、柳田君には前へ出て戦ってもらわないとね」
「ほぅ。それでは、彼女はさながら猟犬でもあり猟師であるという事かの?」
「───態々、魔法少女になりに来た彼女等の事だ。さぞ、光栄であろうな」
皆森賀状は今までにこやかな表情であったのだが、最後のその一言は絶対零度の如く冷ややかであるのだった。