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プリズム☆グレイ ~令嬢な魔法少女のカノジョは魔法が使いたい~   作者: 高災禍=1
第二章『魔法少女の章』
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第二十話「晩餐会」

 ───曇り空。陽光照らす隙間はなく、ただただどんより灰色日和。

 さて、伊織と蓮花は魔法少女になるための第三次試験の当日を迎えた。勿論、他の四人も既に集合済みだ。

 これは少し前に聞いた内容だが、如何やら街中に出現した“ケモノ”を討伐するという、伊織にとっては簡単な内容。彼女からしてみれば、少し効率的ではないと思うのだが、実践による試験というのは道理だ。

 であるのならば、多少効率的でなかろうとも、“ケモノ”と戦った際の記録を取りたいのだろう。

 ちなみに、これは涼音から聞いたものだが、“ケモノ”を捕らえて指定の空間で試験を行うというのは予算オーバーだったらしい。まぁ、“ケモノ”を飼うための施設や餌用の死刑囚などの配備、そもそも捕らえるためのコストを考えれば納得の話だ。


「黒辺さん。本日はよろしくお願いします」

「「お、お願いします」」

「………よろしくお願いします。………しかし、何ですかね。伊織に苗字さん付けで呼ばれるなんて、何か違和感を覚えます」

「それは慣れて下さいね、私受験生ですから」


 一応、こういった儀礼は必要なのだろう。

 少なくとも、伊織は特別扱いをされる気などはないし、他の受験者もいる事を考えれば、大きな軋轢を生むのは彼女としても避けたい話だ。


「………。今回の第三次試験は、“ケモノ”が出現した際における出撃から行います。ちなみに、出撃の順番としまして、前と同様です。………、何か質問はありますか?」

「………、質問いいですか?」


 そう手を挙げたのは、伊織と組んだ事のある杏という少女だった。


「杏さん。何か分からない事があったんですか?」

「あの。まだ私たち、出撃なんてやった事ないんですけど」


 恐らくは、“乙女課”の一室に集まって、そこから準備、出撃といった流れになるだろうと伊織は思う。

 だが、伊織に分かるのはそれまでだ。

 その場その場で臨機応変にと話に聞くに良いようにも思えるが、少なくとも伊織はやらぬ後悔というものは嫌いだ。

 そして伊織は、今まさに投げかけられた質問に耳を傾けるのだった。


 確か出撃の際には、“乙女課”が用意した装甲車に乗って現場に向かうらしい。

 しかし、“ケモノ”が現れた事による混乱の最中でどうやって現場まで向かうのかというと、救急車両の時のような感じで他の車が脇へと逸れてくれる。いやそもそもの話、避難の際には徒歩で近くのシェルターに避難するようにマニュアルがあるので、そうそう渋滞に嵌まったりはしないが。

 ただもしも、不足の事態故装甲車でこれ以上現場へと近づけないようであれば、彼女等魔法少女が徒歩となるのだが。

 ちなみにこの装甲車、流石に甲種の強力な一撃には対応していないが、それでも下手な“ケモノ”の攻撃で傷一つなんてつかないほどに頑丈で。また、どんな悪路であろうとも安定して走る事ができる高性能となっている。


「それについてですが、一応此方で使う装甲車と運転手は、“乙女課”のものを使っていただきます。また、説明につきましては、道中にて行います。では───」


 そんなこんなで、歩き始める“乙女課”の中。

 その中だと言っても、伊織と蓮花が前に訪れた二階以上ではなく、地下一階。階段を見る限りでは二階三階と続いていくようだが、今回はスルーの方向で。

 しかしてその内部は、普通の通路───に見える。


「(………。結構、頑丈そうだな。下手な大型地震や“ケモノ”の攻撃だって防げそう。ま、私なら、余裕で膾切りにできるけど!)」


 さて、壁に何やら対抗心を燃やす伊織を後目に、事は進んでいくのだった。



 ♢♦♢♦♢



 そして、伊織たちは“乙女課”のとある一室へと連れて来られた。

 ───モダンな一室。それなりに高いとはいえ量産的な調度品に彩られた、まるで待合室のようなところだった。

 いや、待合室なのだろう。

 ただまぁ、誰かを待つためのゆったりと寛げる空間ではなく、襲来を告げる鐘の音をただただ待つだけの断頭台のような切り詰めた空間であるが。


「………、それでは皆さん。よく聞いているでしょう警報のサイレンが聞こえ次第、すぐさま格納庫に向かいます。ちなみに、先に向かうA班は私───黒辺涼音が。あとから向かうB班は彼女たち───凪と雫が監督役として付きます。とは言っても、非常事態でもない限りは此方も手を出すつもりはないので、そこら辺はご注意を」

「凪です。よろしくお願いします」

「雫です。よろしくお願いします」


 役者は集まった。

 ちなみに、凪と雫は最初からこの部屋にいたらしい。




 それから十数分が立った頃合いか。

 その頃まで、誰も一言も言葉をしゃべらなかった。いや、お花を摘みに行くなどは軽く了承を一方的に得ていたが、それでも会話というものは一切この場には存在していなかった。

 それは、涼音や雫、それと凪も同様だ。

 というか、彼女達は今回の試験においての試験官としての役割などがある。

 それ故に、受験者に対しての過度な接触は避けるべき事なのだろうか。

 ただまぁ、涼音は軽口程度は真顔で叩くタイプなので、案外その禁止事項はかなり緩いらしいが。


「………、お茶でも淹れるか」


 そう伊織が、まるで風が一切吹かない凪の湖に一石、それを投じたかのように波及する。

 本来なら、柳田という家に対して好印象を持ってもらおうと色々している烈火とティファニーは伊織に淹れて貰おうとはせずに、彼女等自らが率先して行うのかと思えば、彼女達の表情は凝り固まっている。

 実際、“ケモノ”と戦うという事は、命のやり取りそのものだ。

 確かに伊織の範囲内では、()()()()()という“ケモノ”は見た事がないが、それでもアイツ等は魔法少女を含めた人々の命を狙っている。


「(───へぇっ。思ったよりも、ちゃんと理解しているんだな)」


 そして、“ケモノ”と戦う事を理解しているからこそ、そう皆の表情は硬くなる。

 ───余程、自分自身に失望でもしていなければ、どれだけ他人に対して自らの犠牲を強いていたとしても、最後には自らの命を失う事に恐怖するのだ。

 それが最初から恐怖するのは少しだけ溜息をつきたくのは可笑しな話ではないが、それでもあとからになって死ぬ事への恐怖に気付く間抜けよりかはずっとマシだ。

 そして伊織は、自身と蓮花を覗いた四人はどちらかと言えば後者寄りかと思っていたので、これは嬉しい誤算だったりする。


「あ、伊織さん。私も一杯お願いします」


 ちなみに、蓮花は伊織と一緒に野良の魔法少女として“ケモノ”を倒した経験があるので、どちらかと言えば伊織寄りだったりする。

 だからこそ、この状態でも蓮花は気をある程度は楽にしている………と思いたいが、それは彼女本来の気質なのだろう。そもそも、気弱な性格が主人公なんて、話としては受動的なものとなるし、題材が題材なだけにそれは悪手だ。


「はいはい。っと、ひぃ、ふぅ、みぃ。………私を含めて合計で四人、か」

「あ、私もお願いします」

「はいよ」


 そう了承の弁を述べた伊織は、備え付けの冷蔵庫にあった茶葉の入った入れ物を取り出す。

 開けてみて軽く香りを嗅いでみると、あまり香りはしない。恐らくであるが、よく店先に売られている比較的安い物な上に、冷蔵庫で長期保存された事による香り成分の低下を招いた結果なのだろう。

 だが、そんな伊織としては残念な茶葉でも、淹れ方次第ではある程度の香りの回復は望める筈だ。

 ───茶葉を蒸らして、均等に。パンチの強い濃い目ではなく、味と香りが際立つ濃さに。

 そして伊織は、先ほどの飛び入りを果たした涼音を含めた五人分を淹れ終えた。


「「あ、ありがとうございます」」

「ありがとう」

「伊織さん、ありがとう」


 そう言って伊織からお茶の入った湯呑を受け取った四人は、各々が伊織に対して礼を取った後、口を付けるのだった。


 伊織が使った茶葉は保存状態があまり良いとはいえない物であったが、一体どういう事だ。

 香りは立っているし、味も滑らかだ。正直言って、文句のつけようがないほどに、その一杯は完成されていた。

 だが───。


「(う~ん。茶葉も茶葉だから、これくらいか?)」

「(まぁ、茶葉が茶葉ですしこれくらいかと思いましたが、明らかに()を抜きましたね。ボクもこの茶葉では、手を抜くと思いますけど)」


 と、一方で淹れた本人たる伊織と彼女をよく知る涼音は、伊織が淹れたお茶を酷評するのだった。


 ちなみに、一応冷蔵庫の中には茶葉の他にインスタントコーヒーが眠っていたのだが、伊織が茶葉の方を選んだのには、ちゃんとした理由がある。

 緑茶は香気成分などにより、リラックス効果を得る事ができる。

 それによって、今現在の緊張状態を排除しようとした訳だが、如何やらある程度の効果というか。伊織が手を挙げた人限定ではあるが、態々彼女自身が淹れた甲斐があったというものだ。


 そして、緑茶を淹れたとなれば、当然お茶菓子が出て来るというものだ。


「よし! 緑茶を淹れたとなれば、───当然お茶菓子が出て来るよなぁ」


 先ほどのお茶がお茶なだけに、杏や優子といった面々は先ほど飲んだ緑茶からの印象で、期待真っ盛りだ。それに加えて、先ほどは遠慮から見逃しをしていた烈火とティファニーであるが、伊織の淹れた緑茶があまりにも好評だったために、少しだけ期待をしているのだ

 しかも、前に伊織が作ったお菓子を味わった事のある面々───蓮華や涼音といった人たちの期待は、前者の四人のそれを大きく上回る。

 そして、そんな期待を知らずあ知った上なのか、何処からともなく取り出した()()を透明なプラスチックの机の上に出すのだった。

 だが───。


「えっ、これって………」


 彼女等の目の前に伊織が置いたのは、直方体状の茶色い()()であった。

 いや、ある程度の予想は付くだろうが、これは携帯食料と呼ばれるお菓子ではない物だ。最近は、ある程度の味などの改善が行われているが、それでもお菓子と呼べるほどに美味しい食料ではない。


「(───携帯食料………)」


 本来、携帯食料をお菓子と呼ぶのは、相当無理のある話だ。

 銀パックをされているが、恐らくは伊織の手作り。

 しかし、伊織がお菓子と呼ぶだけあって、その味には興味がある。もしかしたら、見た目がアレなだけあって中身は美味しいという、ゲテモノ料理を思い浮かべるのだった。

 だが一つ、懸念事項があるのだとすれば、それはこの携帯食料がお菓子に分類されるのかという点に尽きる。


「いただきまーす」


 さて、そんな凪と雫、それと涼音を加えた三人は邪推するのであったが、他の五人は期待に胸を膨らませて伊織が用意した携帯食料というかお菓子というか、それに手を付けるのだった。

 いや、蓮花も少しは躊躇しろと、不意に思う。


「「「───美味しい、ですね」」」


 しかし、伊織の用意したお菓子の総評はかなり良かった。

 彼女等の反応を見てそれに次いで涼音は、机の上に出されたお菓子を手に取る。


「(………お菓子にしては、かなり頑丈ですね。これでは、本当に携帯食料のような物ですね。味わってみなければ分からないけど)」


 手にした感覚は、焼きに焼いた焼き菓子か、それともお菓子の中から可能な限りに水分を抜き取ったソレを思い浮かべる。

 ───正直な話、携帯食料とそう呼んでもおかしくはないのだ。

 実際、出来る限り水分を抜き取って保存性を高めている物が携帯食料であって、この伊織が用意したお菓子もそれなりの保存性を持ち合わせている事だろう。


「………美味しい、ですね」


 しかし、その外見と打って変わってその味は、十分お菓子として通用するぐらいには美味であった。

 恐らく味は、ココアの類。

 だが、乾燥したココアの味というものは、確かに美味しいのだけど何処か物足りなさを感じるものだ。それが、右肩上がりの美味具合が高ければ高くなるほど、それは顕著となる。

 ───外側は保存性を高めるためにがっしりと。内側は何故かしっとりと。

 そうであったのならば、保存性なんて論外な話かと思うかもしれないが、おそらくはこのしっとり感の正体は水分などの保存性を貶める関係性のものではない。


「………。あのい───柳田さん。これは一体どういう」


「なぁ、凪だっけか。───お菓子、食うか?」

「………、ありがとうございます」

「あぁ、それと雫も」

「ありがとうございます」


 一方で、涼音がどういった手法でこのお菓子を作っているのかと伊織に聞こうとすると、何故か凪と雫に対して餌付けをしていた。

 イメージするのだとすれば、小動物に動物用のクッキーを与えているような感じ。実際、身長差や雰囲気の関係で、姉妹かと思えるほどに似合っていた。

 そして、それを感じ取ったのか、凪と雫は怪訝な表情で伊織を見つめていた。


「………。餌付けでもしているつもりですか」

「うん。昔の妹を思い出させる、懐かしい感覚だったよ」

「「───っ!?」」


 そんな慈愛に満ちた視線に耐えきれなくなったのか、凪と雫はすぐさま手に取ったお菓子を途中で食い終わろうとしたのだが、───止めた。

 そう、凪と雫はこれまでそれほど裕福な暮らしをしてきた訳ではないのだ。

 故に、途中で食べ物を捨てるなんて暴挙を凪と雫はどうしても許す事ができず、伊織に観察される時間を短くしようと急いで食べるのだった。

 ───それが、要素を増している事に気付かずに。


「………何やっているんですか」


 そんな一連の流れを、涼音はただただ見るだけで何も介入しなかった。ただただ、伊織の作ったお菓子を食べて、お茶を飲んでの。まるで、鑑賞といった風靡にはなったが。






『───ケモノノ警報発令。危険度は『丙種』。至急、近くのシェルターなどに避難してください』


 それから数分後の事だった。

 断頭台に登れとの声が聞こえてくるようであった。

 これが初の実戦な杏と優子にとっては、拒否したい思いと、挑戦してみたい気持ちが相反する。

 と言っても、勿論ながら拒否権なんてある筈もなく、杏と優子は少しだけ自暴自棄になりながらもこの部屋を出るのだった。

 ちなみに、伊織の方はというと、随分と落ち着いた様子でこの部屋を後にした。何度か“ケモノ”と戦っていれば慣れるのだろうか。


「今から、装甲車が置いてある格納庫へと行きます。ですが、まだ魔法少女へと変身しなくていいです。アレ、時間制限がありますから」


 そう言って涼音は、伊織を含めた三人を引き連れていく。

 確か前に伊織たちが聞いた話では、魔法少女になれる制限時間というものが存在するらしい。伊織はこれまで、短時間で決着を付けていたために知らなかったが。

 話を聞く限り、何かしらを対価に伊織たちは魔法少女になれているらしい。───それを魔法少女や“ケモノ”関係の分野の『魔導力学』では、()()と、そう呼ばれている。

 ただ、何かを対価にして魔力を生み出しているが、それは今だ分かっていない。もっとも、魔力が枯渇したとしても、休憩を挟めば幾らかは元に戻るから、そう深刻なものではないようなのだが。




 と、そんな事を伊織が思考している間に、いつの間にか彼女等は件の格納庫へとたどり着いたのだった。

 幾つかある重厚な大型の車らしき物が目に映る。

 確かにそれならば、下手な“ケモノ”の一撃ぐらいは至極簡単に防げるだろう。


「黒辺さん。私たちはこれに乗るんですか」

「ええ、一応見回りの魔法少女を増やして足止めをしてもらっていますが、少しだけ急ぎます」

「「「はいっ!」」」


 まるで、警察などが使う装甲車のように後ろから入ると、そこは真っ暗闇だった。

 おそらくは、余分に脆い箇所を作らないための物だろう。少なくとも、“ケモノ”の攻撃に対して安全性を得るための防御性能を求めるのなら、視界よりも防御を優先するのは当然の流れと言えよう。


 そして、各自四人が席へと座りシートベルトをすると、それを待っていましたと云わんばかりに彼女たちを乗せた装甲車は動き出した。

 振動の類は、殆どない。此処が悪路の類がない市街地であるという要素もあるのだが、それ以上に装甲車が高性能だろう。魔法少女に掛けるお偉い方の期待が伝わってくる。


「それでは皆さん。今回の戦術形態についておさらいしましょう」

「「「はい」」」

「まずは柳田さんについては、前衛にて敵の攻撃をブロックしてもらいます」


 そう言って涼音は、どこからともなく取り出したチェス盤と騎士の駒を、“ケモノ”と思われる駒の前方へと置く。


「えーっ」

「そこ。ブーイングしない。この三人の役割を考えれば当然の結果なので、()()我慢してください」

「………、分かりました」


 ()()という事は、いつかはある程度攻めへと講じてもよくなるのだろう。

 実際伊織も、彼女自身が前へ出過ぎた結果、杏と優子を不必要な危険に晒された事による減点は嬉しくないものだ。


「(それに………。いや、そうするつもりはないから、今は関係ない話、か)」


 と伊織は、最終的に結論付けるのだった。



 ♢♦♢♦♢



 伊織たちが警報が鳴って部屋を出てそれほど時間が経たない頃、蓮花たちも先ほどと同じような警報を聞いて出撃する事となった。

 如何やら、今日は“ケモノ”の出現が多いらしい。


「(………)」


 その事実がどれほど深刻なのかは蓮花は知らないが、彼女の特出すべき感受性がこの事態を異常状態だと理解をさせる。


 正直言って、もしも異常状態であるのならば蓮花は、伊織と組んで起きたかった。相性が良いという点もあったのだが、そちらの方が危険性が少ないからだ。

 だがそれでも、蓮花は彼女自身が今できる事をやるしかない。

 それに、前に一時的に組んだ事のある凪と雫もいる事であるし、そう問題は起きないだろう。


「本日の戦術形態についておさらいします。まずは、鈴野さんには前衛で敵の攻撃をブロックしてもらいつつ、《マホウ》で各自にバフを掛けて行って下さい」

「………はい」

「そして、烈火さんとティファニーさんは、前衛の蓮花さんと的との距離に合わせた範囲マホウで攻撃してください」

「「はいっ!」」


 これまでの話を元に戦術形態を表すと、かなり歪なものだと言えよう。

 まず蓮花自身が、前衛にてタンクとバッファーを同時にこなすという、途轍もない重労働。とはいえ、“ケモノ”の一撃はたとえ両種であろうとも油断できるものではなく、どちらかと言えばタンクの方を優先した方がいいか。

 そして、烈火とティファニーが遠距離攻撃。盾役の蓮花から敵が遠ければ、範囲的な《マホウ》による攻撃を。その反対に蓮花から近ければ、弾き飛ばした敵をピンポイントで。


「(………、嫌な予感がする)」


 別に、この戦術形態に何かしらの不満はない。いや逆に、こういった一人称による俯瞰の視界というものを苦手としている蓮花にとっては、このカタチは素晴らしいものにも思える。

 しかしそれでも、それでも嫌な予感という正体不明の()()が後ろに着き纏っている気がする。


 ───比較的楽観的な蓮花自身でさえ、嫌な予感がする。


 もしも、こういった()に強い伊織だったらこれが何か分かるかもしれない。

 だが、生憎とこの場に当の伊織の姿はない。勿論、配備されたトランシーバーで連絡を取る事は恐らく可能なのだが、時間的にもう現場に着いている可能性を考えると、この選択肢は恐らく悪手。

 であるのならば、気を付けつつも前を向くしかないのである。

 現実は何時だって、突然にして目の前に現れる。

 だからこそ、その一瞬を逃さないように、備える事が一番の重要であるのだ。




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