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プリズム☆グレイ ~令嬢な魔法少女のカノジョは魔法が使いたい~   作者: 高災禍=1
第二章『魔法少女の章』
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第十七話「殺人料理」

 ───“乙女課”にて。

 局長、皆森賀状はとある報告書を貰った。

 今現在、“乙女課”所属の魔法少女になるための試験を受けさせている最中なのだが、街中で実際に“ケモノ”と戦う第三次試験の開始前なので、比較的暇なのである。

 これを職務放棄を呼ぶべきか否か。

 ただ実際、この第三次試験は、基本的に現場での試験監督───涼音や凪や雫といった面々に一任されている。そして、その報告書を受け取った賀状などの管理職に携わる人たちによって、合否が決定するのだ。


 さて、ここまでの前置きをしたのだから、その受け取った報告書とやらが第三次試験のものと思うかもしれないが、残念ながら違う。そもそも、第三次試験はまだ始まってすらいないからね。




 ───主題、『魔法少女に敵対する勢力について』


 そう書かれた一文が目に入る。

 この報告書に書かれている魔法少女に敵対する勢力に所属していると思われる人物について書かれた物だ。

 この報告書を提出した黒辺涼音と、何の縁があったのかは知らないが今現在魔法少女になるための試験を受けている柳田伊織の証言によるもの。


「あ゛ーっ、畜生! 何で一番問題の多い第三次試験前に未知の勢力なんかが現れるだろうなぁ!?」

「………皆森局長、キャラ崩壊しています」

「いやだって、ただでさえ第三次試験は、市民の反感を買いやすいんだよ。それなのに、魔法少女に敵対する未知の勢力。これ、下手しなくても上層部案件になるよなぁ!?」


 元々、第三次試験はあまり市民の人たちからあまり良い意見や感情を見た事がない。

 何しろ、自分達の命が万が一にも脅かされる訳。たとえ、自分等に実害がなかったとしても批判的な意見を言いたくなるのが、人間というものだ。

 その一方で、“ケモノ”を捕まえた上で見習い前の少女たちに戦わせる話もまた、酷なものだと言えよう。

 “ケモノ”とは、正しく人を喰らう人類の敵と呼ばれるものだ。それを損傷の少ない状態で誰かのために捕まえるなんて予算とリスクが高い事誰も望まない上、これでもかと叩いてくる一般市民。

 つまる話、“ケモノ”を捕まえる事自体、表向き誰も認めていないのだ。

 ───もっとも、研究に対しては政府から多額の報酬がもらえるために、秘密裏に行われていたりするが。


 話を戻した上で、次の話題へと移ろう。

 魔法少女という存在は、かなりの氷上の上に立っている。

 確かに、魔法少女は人類を食らう“ケモノ”を倒してくれるありがたい存在だ。しかし、それとはまたに、人を易々と殺せるだけの力を持つ人間兵器としての面も持ち合わせている。

 それ故に、魔法少女に敵対をする勢力というのは、現れてもおかしくない話。というか、何度か起きている話なのだ。

 しかし、魔法少女の存在は一種の国力そのもの。魔法少女が増えたり強力な魔法少女が生まれれば、国際的な発言権も増す。我が国が国際的な発言権が強いのも、強力な魔法少女を幾度となく生み出しているからだったりするのだ。

 故に、魔法少女に対して悪意的な行動を起こしている者は、厳しく処罰するのが普通。それが勢力的な話ともなれば尚更に。


「………。本当に、ままならないものだ」


 そう言って、賀状は書類の山の中にある一纏まりの書類を手にした。

 そして、そこにはこう書かれていた。



 ───『000(トリプルオー)計画』、と。



 ♢♦♢♦♢



 その日、伊織は前にカレンと行った喫茶店へと足を運んだ。

 他の客は、誰もいない。この空間にいるのは、客である伊織とこの店の店長だけだ。


「店長、緑茶をもう一杯貰えないかな」

「はいよっ」


 ───不自然な感覚だ。

 てっきり店長がセクハラ言動をかましたりするんかと思えば、意外な事にそうでもない。ただただ、毒が抜けた普通の店員に近い。

 これを成長と言うべきか。いや、言うべきなのだろうが、そう簡単に体内に溜まった毒気というものは抜けず、これは一種の鎮静化なのだろう。


 店長が淹れてきた緑茶を片手に、伊織は来るであろう誰かを待つ。

 しかして、伊織は緑茶には手を付けてはいるが、一方でお茶菓子の方には手を付けていない。この後来るであろう誰かを待っているのだろうか。


 ちなみにこれは余談なのだが、この店の入り口には『閉店』と書かれた向きに掛けてある札が見える。

 つまりは今現在、この喫茶店は伊織が貸し切っている。

 貧乏性ではあるがお金を貯め込んでいる伊織の事だ。少し残念などブルーな気持ちになっていたとしても、勿体ないとは思っていないだろう。

 ───そう、これは必要経費だ。


「よぅ、待たせたか、()よ」

「だから。行っているだろ、私の事を妹と呼ぶなと。別に私とお前は血縁関係がある訳じゃない。───なぁ、来栖」


 『閉店』と書かれた札を潜り抜けて喫茶店に入ってきたのは、伊織のよく知る柳田来栖。

 前夜に伊織が見た服装と打って変わって、よくある紺のホットパンツに何処かも知らない会社のロゴが付いた白いジャケットを羽織っている。相変わらず、金を鞣したかのような金髪だ事で、よく似合っている。

 それに加えて───。


「それで、そちらさんは誰かな?」

「───枝樹夕華です。以後、お見知りおきを」


 お見知りおきを、と夕華は言うのだが、伊織としてはあまりお見知りおきをしたくない。

 夕華は白いワンピースを着て、足には木と布紐で出来たサンダルを履いていた。垂れる白亜の清流。一見してハンデとも取れる無骨な車椅子は、歴戦感を醸し出している。

 写真だけで夕華を見ていたら、伊織も少しは油断していたのかもしれない。現に、相性が悪かったとはいえ、涼音が勝てなかったと聞いた時は、少し苦笑したものだ。

 しかし、こうして現物と会って、伊織はその認識を改める。

 ───伊織とは相性が良いのかもしれないが、それでも油断できる相手ではない、と。


「………。それにしても、私は来栖を誘ったんだがな。二人掛かりで私を倒すつもりなのか?」

「───柳田伊織。オレは貴女をそこまで過小評価してないぜ。何しろ、オレたち二人でも勝てる気でいるだろう?」


 そう言って来栖が視線を向けた先にあるのは、伊織の隣にある椅子に立てかけられた、剥き出しな一振りの無骨な太刀。

 ───銘は、『絶海制覇』。

 伊織の愛刀だ。


「確かにその愛刀があれば、誇張なくオレたちを相手取る事ができるだろうな」

「? そうなのですか? 私にはただの古びた日本刀にしか見えないのですが」

「的を射ているな。だが、アレを携えたオレの妹は、文字通り()()するからな。………ほんと、厄介な事に」



 ♢♦♢♦♢



 野良の魔法少女こと、鈴野蓮花は一昔前の女子更衣室を覗こうとする男子学生の如く、とある喫茶店の中の様子を凝視していた。

 いや、弁解の言葉がある。

 別に、他人の恋愛に対して出歯亀を繰り広げていた訳でもなく、()()に対して興奮していた訳ではない。


「───柳田、伊織、さん」


 ガラスの向こうにいる、伊織の事を見ていた。

 いや、伊織“たち”と言うべきなのだろう。何故なら、彼女の他に見知らぬ女性が二人いたからだ。

 別に、多少適当かつ不真面目な伊織に、友達がいたとしても何ら可笑しい話ではない。それが高名な家の令嬢であれば尚更に。

 ───蓮花が伊織の事を知らなかった、ただそれだけの話だ。


「きっと、私は───」


 蓮花はきっと知らないのだ。

 ───柳田伊織という人物が、一体誰なのかという事を。

 だからこそ、カレン・フェニーミアは蓮花に対して怒れたのだ。伊織がどういう人物なのか少しは理解して、故に怒れたのだ。


 ───私は、ガラスの向こうの彼女を見た。



 ♢♦♢♦♢



 あの後、穏便に来栖と夕華と別れて、町へと繰り出した。

 そもそも、今回来栖と夕華と会ったのは、会話のためだ。何も、揉め事を起こすために伊織は、あの場に行った訳ではない。

 もっとも、危険を犯しただけの報酬があったのかと言われると、そうではないと答えるしかないが。


 さて、そんな修羅場を乗り越えた伊織なのではあるが、とても暇をしている。

 事情を知る知人からすれば、さっさと休めと言いたくなるというものだ。しかし、とても残念な事に、そうも言っていられない事情がある。

 そもそも、休める場所がないのだ。


「………。暑い」


 ───炎天下が伊織などの通行人を照り付ける。

 今現在、気温は30℃越え。これが七八月の気温であったのならば、人間等の認識によって少しは涼しく感じるのかもしれないが、今は五月の真っただ中。平年よりも暑い気温に、余計に暑く感じてしまっているのだ。

 故に、ショッピングを梯子するという行為は、自殺行為でしかない。


 それならば、知り合いの先に行った喫茶ってんで涼んでいればいいかと言えば、それもまた違う。

 流石に柳田家最高傑作な伊織とて、休みたいものは休みたいのだ。

 あんな数十分前に修羅場があった場所で休みたいだなんて、主人公以上の鈍感スキルを以てしてどうにかといったレベル。戦場に行った兵士が生活環境に鈍感だと話に聞いたことがあるが、それでも危険な場所に留まり続けるような致命的な感覚が麻痺している訳ではないのだ。


 そんなところで伊織は、帰路へと付こうとした。

 で、その帰路の途中で伊織は、昼食を食べていない事を思い出し、買い物という名の寄り道をする事にするのだった。


「さて、今日の昼は何にすべきか。蕎麦もいいけど、うどんも捨てがたいな。………って、そう言えばメリアの昼飯を忘れていたなぁ。どうしたものか?」


 そして、伊織はよく行っていたスーパへと足を運んだ。

 別に、今から前に行った商店街に足を向けて、それで昼飯を作る事は可能なのだろう。だが、精神が多少疲弊している(自己申告)ので、あまり手の掛かる事はしたくない。

 いや、フレイメリアの機嫌も考えるともなれば、手作りの方がいいのだろう。

 だがそれは、あとで作るお菓子でも差し入れ解けば、何とかなる………筈。


 ───そんな時だった。

 買い物かごを片手に、まるで一昔前の主婦のような恰好で伊織が物色していると、とある二人組を見かけた。

 いや別に、先ほどの喫茶店で会った来栖と夕華ではない。もしそうであったのなら、今頃伊織は着物を着ているというのに、膝を曲げて頭を抱える事になるだろう。

 どちらかと言えば、涼音や蓮花といった面々の方が顔見知りかもしれない。


「………いや、私は彼女等と顔見知りという訳ではないし。なら、別に休日まで態々会う必要はないよな。主に私のために」


 と、伊織は主に自分自身のためにと、二人組の彼女の方向から背を向けた。

 しかし、


「───あっ、伊織さーん。こんなところで奇遇ですね。こっちに来て下さーい」


 残念な事に、あの二人組の彼女等の他に伊織の知り合いがいるらしい。というか、この少しだけ甲高い声色は、伊織のよく知る者であった。

 それに対して伊織はというと、少し溜息をついた後、声のした方向へと足を運ぶのだった。

 というか、絶対に逃げたら逃げたで、不味い事になるだろう………。


「それで何の用だ、蓮花。私はこれから、昼飯を作るために材料を買わなくちゃいけないんだけど」

「あぁ、それはすみません。いえ、少しお誘いしたい事があって………」

「………お誘い?」


 話を聞いてみると、蓮花とそこの二人組の彼女等は、つい先ほど偶然に再会したらしい。

 それで、蓮花がずいずいと距離感を詰める主人公スキルでも使ったのか、最終的には彼女等の家で晩御飯を食べる事になったようだ。

 ちなみに、今現在何故三人はスーパーにいるのかというと、その晩飯を作るための材料を買いに来たようであった。


 まぁ、それはそれとして。

 伊織は今一番気になっている事を三人に問い掛けるのだった。


「そう言えば。そちらの二人組は私は知らないけど、一体誰なんだ?」


 そう言って伊織は、蓮花の後ろをまるでヒヨコの行進の如く付いてきている二人組の彼女等に視線を向けた。

 身長はかなり低めで涼音よりも低い事から、恐らく年齢は中学生辺り。そして、髪色は両者同士似ていなくて、黄緑色と水色で両者共ボブショート。身長差もあるだろうが、肩辺りで切っている伊織よりも少し短めだ。

 その上、その歳にしては落ち着いた様子。

 それと前に、蓮花が第三次試験を監督する二人組の魔法少女について話していた頃があるので、何となくの予想は付く。


 というか、黄緑色の髪色をしている人なんて、案外身近にいるものだな。

 いや、差別をしているつもりはない。ただ、伊織の周りには前から銀髪や濃い赤髪の彼女がいたりしてそういう予感めいたものがあったからだ。


「姉の凪です。よろしくお願いします」

「妹の雫です。よろしくお願いします」

「私は柳田伊織だ。よろしくな」


 そんな二人の名前は、蓮花が言っていたものと同じだった。

 という事は、だ。そんな凪と雫が、蓮花たちの第三次試験においての試験官という事なのだろう。あまり伊織には関係のない話だが。

 と、そう言えば先ほどの件について、つい忘れるところだった。


「そう言えば蓮花。お誘いって、一体何の事だ?」

「ぁあぁ、そうでした。今日夜に凪さんたちの家で夕食を一緒に食べようという話になって。伊織さんもどうですか?」

「夕食、か」


 別に気にする事はない。

 昼間、伊織がフレイメリアのご機嫌取りに勤しんでいれば、十分間に合う時間帯だ。

 正直な話、伊織としてはさっさと断りたい話なのだが、何だかんだで敏い蓮花の事だ。あとで変な約束を取り付けられても困るので、伊織は渋々と乗るのだった。


「………駄目、でしたか?」

「いいや。今日の夜は特に予定もないし、行かせてもらうよ」

「それは良かった」

「それよりも、だ。それで今日の晩飯は何にするつもりなんだ?」


 それが本題だ。

 伊織としては、今日の昼は蕎麦がうどんの気分だ。

 その予定を伊織はあまり変えたくはないのだが、流石に二度も麺類は食べたくはない。むしろ、ご飯ものが食べたい。


「えっと、オムライスを作るつもりです」

「オムライス………。あとで、腹減らないか?」

「えぇ、ですから汁物など幾つか追加で作るつもりです」


 オムライス───なら、問題はない。


「でもすまない。今から妹のために遅めの昼食を作らなければいけないんだ。悪いけど、材料などはそっちで買っておいてくれないか」

「そうでしたか。それなら、また夜に会いましょう」

「あぁ。また夜、な」





 そんな去っていく伊織の姿を、蓮花は見送った。

 正直言って、蓮花は伊織の事を誘えるだなんて思ってはいなかった。てっきり、ぞんざいに断られると思っていたのだ。

 しかし、とても意外な事に、伊織は夕食を凪と雫の家で食べる事を了承した。

 もしかしたら、伊織の機嫌が良かったのか、それとも何かあったのか。

 それを知る由は、蓮花にはなかった───。


「………、さて。そろそろ買い物の続きをしましょうか。確か、卵は買ったからあとは………」

「そう言えばケチャップってあったっけ、凪」

「ないと思うよ、雫」


 滑らかに仕上げるために生クリームでも入れようかと蓮花が考えていたところ、時にして偶然というものは重なるようで、伊織よりも珍しい人物が声を掛けてきた。


「? あれ蓮花さんですか………。先ほど、伊織の声がしたような気がしますが?」

「あ、涼音さん。丁度良かったです。今日の夜、みんなで一緒に夕食を食べませんか」

「………? 夕食。みんな」


 先ほどの、伊織が意外にも誘いを乗ってきた幸運もあったのだ。もしかしたらと思い、蓮花は涼音にも先の内容を伝えた上で誘いをかけるのだった。

 ───しかし、


「すみません。今日の夜は道場で鍛錬を積む予定がありまして、今度誘っていただけると幸いです」

「そうですか………」


 残念な事に、涼音からの返事は芳しいものではなかった。

 いやそもそも、先ほど幸運な事があったのだから今度も幸運だという、当てのない予想を立てるべきではなかったのだ。幸運と不幸は天秤の上と、誰かが言っていたような言っていなかったような気がするし、うん。


 そんな訳で蓮花は少しだけブルーな気持ちになっていたのだが、如何やら涼音が興味があったは、“夕食を食べる”というワードではなかったようなのだ。


「そう言えば、先ほど伊織の声が聞こえましたが。もしかして彼女を誘ったのですか?」

「───えぇ、ついさっき伊織さんと会って、それで了承してもらえました。なんでも、妹の昼食を作り忘れたか何かで、すぐに去ってしまったけど」


 如何やら、まだ完全に来ないという選択肢にはなっていなかったようだ。

 これには思わず蓮花も、心の中ではあるがガッツポーズとヨッシャーという掛け声と共に。


「(………あれ?)」


 しかして、涼音の反応は思ったよりも芳しくない。いやむしろ、青い顔までしていて、蓮花の表情まで曇らせにきた。

 これには天真爛漫(自称)な蓮花であっても、嫌な予感がぬぐえないのだ。

 そして、その答えは涼音の口から衝撃的な発言と共に紡がれるのだった。


「伊織が、食事を、作る………。!? そう言っていましたか!」

「えっ、はい………。何か不味い事でもあったんですか?」

「いや、不味いと言えば不味いのですが………」


 何故か当の本人たる涼音も、要領を得なかったようだ。




「───実は伊織は、料理が下手なんです」



「───えっ?」


 ───柳田伊織は、料理が下手だ。

 その事実は、最近知り合ってそれなりの関係を築けた蓮花にとって、寝耳に水な話であった。

 蓮花から見た伊織の評価は、“何でもできる上に、特定の分野は恐ろしいほどの熟練度を持つ”といった万能人さながらなものだ。実際、他の人からの評価もさして変わらず、万能人としての扱いを受けていたりする。

 そんな、万能人としての伊織が、まさかの料理が苦手だと。

 少しだけ親近感を湧いてしまうのだが。

 ただまぁ、そう簡単に話が終わる訳はなく───。


「………もしかして、ただただ作る御飯が不味いと、そう思っていませんか?」

「いえ………。はい、何か問題があるのですか」

「………伊織が作る料理は、その言いずらいんですけど、()()が出るんです」


 まさか、殺人料理なんてフィクション小説だと、そう思っていた。

 いやしかし、食中毒による脱水からの死亡なんて、それなりにある話だ。対応と環境さえ確かなものであれば死ぬ事はないのだが、それは決して他人事ではない。

 ちなみに、料理前の手洗いと食材の的確な保存方法などを忘れずに。


「前に柳田家と黒澤家の合同鍛錬の機会で伊織たちなどが料理担当を任されて、辺りは死屍累々に………」

「もしかして………」

「勿論、死人が出るというのは比喩で、実際には伊織の料理で死人なんて出ません」

「? もしかして食中毒か何かですか」

「食中毒、なら対策をすれば特に問題はありませんでした。ですが、伊織はお菓子作りは得意で、その辺りはしっかりとできていたんです」


 詰まる話が、伊織の料理は衛生面や外的要因なく、理屈合わずに勝手に毒物を生成しているとの事だ。時代が時代どころか、現代においても通用する摩訶不思議なスキルと言えよう。

 しかも、お菓子作りには影響しておらず、何故そうなるのか分からない事だらけだ。


「───って、こうしてはいられないです! ではさようなら」


 そして、その今までの会話の内容と、伊織の料理下手についてが線と線で結びついたようで、まるで脱兎の如く涼音はその場を後にした。勿論、涼音の行先はというと、先ほど伊織が去っていった方と同じだ。


 そんな訳で、嵐の如く知り合いたちと会ってきて、それで蓮花はぽつーんと、残されるのだった。



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