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八話「うん、私もだよ」

 私は事ある事に、お兄ちゃんの話題を配信で出した。

 とある日はお兄ちゃんの家庭的なところを紹介しようとお兄ちゃんが毎日作ってくれるご飯を写真に撮ってみんなに見せたことがある。

 すると案外それがまた受けてしまった。今では『#今日のお兄ちゃん』なんてタグが作られるぐらいである。

 視聴者のみんなもどんどんお兄ちゃんの事に興味津々になって、コメントでは。


 ・お兄ちゃんVデビューまだ? 

 ・配信に一切出てこないのに、大人気の兄貴って何者だよ……

 ・ゆうゆうがお兄ちゃんの事を本当に幸せそうに話すから人気なんだろ

 ・お兄ちゃんを僕にください


 などなど、男の視聴者がお兄ちゃんにメロメロになっていた。

 ……うーん、私って女性の視聴者ってほとんどいないのかな? 

 でも、黒鞠コロンさんは私の配信を見てくれているみたいで、『なんか見ていて悲しくなってくるにゃ』って言ってた。

 悲しくなってくるってどう言う意味なんだろう。


 まあ、そんな日々を過ごして、お兄ちゃんのプレゼン(という名の自慢)をちょくちょくしていた頃だった。


 遂に二期生のデビューが決まった。


 二期生のメンバーは私たち一期生と同じ、三人。


 亜人系女子高生の『アーベントロート・クロア』

 ダークイケメン系女子高生の『宵闇ノ響(よいやみのひびき)

 僕っ子ほわほわ系女子高生の『天春照美(あまはるてるみ)


 みんな思い思いの初配信を終えたようで、私たち一期生にも挨拶に来てくれた。


 クロアちゃんは、銀髪のじゃロリ系の女の子。


「キャラの設定上、このような喋りになってしまうが許しておくれ先輩よ!」


 と、挨拶の時にメタい事を言っていた。

 でも、本人曰く、このキャラを常時保ってないと、いつ崩れるか分かったもんじゃないって言ってたので、プロ意識が高くていい子なんだなって思った。


 響ちゃんは黒髪ショートに青のメッシュが入ってるカッコいい女の子。


「よろしく、先輩。お会いできて光栄だよ。かわいいね」


 って、イケボで話していた。

 これはまずい。ささやきボイスに私は弱いのだ。お兄ちゃんの声を毎日聞いてなかったらもしかしたら落ちてたまであるかもしれなかった。

 ありがとうお兄ちゃん。


 最後に照美ちゃん。

 なんと照美ちゃんは私の配信を見て、トライアングル二期生に応募して来てくれたらしい。そして、受かって私との挨拶を待ち遠しく思ってたとのこと。

 話してみて分かったが、本当に私のファンだった。


 最初の配信からずっと見ていたらしく、もちろんお兄ちゃんの事も知っていて、何回かコメントもしていたとのこと。


『本当にゆうゆうってお兄さんの事が大好きなんだなぁって、見ているこっちまで思っちゃいました』


 と、うっとりしながら話していた。

 そうであろう、そうであろう。私のお兄ちゃんは世界一カッコいいのだ。照美ちゃんは分かっている。


 こうして、照美ちゃんとはかなり仲良くなり、一緒にコラボをしたり、プライベートでも通話で話したりしていた。

『てるゆうてぇてぇ』なんて言葉が作られるくらいには私たちも仲が良かった。


 照美ちゃんはお兄ちゃんのファンでもあるらしく、事あるごとにお兄ちゃんの事を聞いてくる。

 まあ、それに私は嬉々として答えるのだが。


 こうして、どんどんコラボも積極的にこなしていた結果、遂に登録者数が七万人に到達していた。後から入ってきた三期生もそろそろデビュー配信が決まっており、調子に乗ってトライアングルは四期生まで募集をかけ始めたみたいだった。

 お給料も毎月、30万以上は貰えており、企業としては大成功だと大岩さんは言ってくれた。


 これは、いよいよかもしれない。


 お兄ちゃんに話す時が来た。私はそう思った。

 そして、お兄ちゃんのお嫁さん見つける計画も遂に本格的に始動したのである。


 最初はお兄ちゃんに『お嫁さんって欲しい?』って聞いた。

 答えは『いらない、女性不信なのは知ってるだろう?』という答えだった。


 そう、お兄ちゃんが女性不信なことは知っている。恐怖症とはまた違うのだ。ビジネスや友人関係面では信頼できる人間を見定めているようでうまくいくケースが多いのだが、恋愛の面に関しては一切信頼をしないと決めているらしい。

 お兄ちゃんは私さえいればいいと言ってくれた。

 それはとても嬉しくて、そこが私がお兄ちゃんの好きなところでもある。でも、それでも私は心配なのだ。

 このまま、私に構ってばかりで、自分のことを疎かにして、それを理由に恋愛などを諦めてるんじゃないかって、不安になってくる。


 それは嫌だ、私としてはお兄ちゃんに幸せになって欲しいし、お兄ちゃんの遺伝子は後世に遺すべきなのだ。

 でも、本当にそれでお兄ちゃんが幸せになれるのかなって思ってしまう時もある。


 私はどうしたらいいんだろうか。


 しかし、その先を考えるのはお兄ちゃんに私の全てを打ち明けることから始まるのだ。

 私はお姉さんに「話す時が来た」って言って、手続きをしてもらった。

 私の通帳に全てのお給料が行くようにしたのだ。

 だから、毎月五万円を入れてくれてるお兄ちゃんからすれば、この得体の知れないお金に必ず不信感を抱くはず。


 そうだ、ここからだ。ここから私……いや、お兄ちゃんの物語が始まる。

 私はお兄ちゃんに部屋から出してもらって、心を癒してくれた。

 だから今度は……私の番だ。私がお兄ちゃんに恩返しがしたい。


「萌香、ちょっと話がある。来なさい」


 お兄ちゃんの真剣な顔が私の視界に入る。

 私も少し深呼吸して、身体の震えを少しでも抑えようと努力する。そして、私も同じような顔で、真剣にお兄ちゃんと向き合った。


「うん、私もだよ」


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