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十三話『保護者配信とその後』

 全員が全員、コメントで黒鞠コロンって誰って言っている。そりゃそうだろう。俺もそんなVtuberは知らないので相当マイナーな方なんだろう。


「いやー私にとってイラストレーターと言えば黒鞠コロンさんなんですよねぇ」


 かわのさんがしみじみと言い始める。どうやら黒鞠さんは、売れないイラストレーターをやっているようだが、知る人ぞ知る人みたいだった。

 そんな彼女がここ最近、というかトライアングルが出来る前にVtuberを始めたみたいで、そこまで登録者は伸びていないようだった。

 コメント欄の方も見てみると、概ね、誰? という評価しかなかった。


「彼女のイラストを見たとき……なんというかこう下品なんですが……ふふ……下品なんでやめときますね」

「なんでやねん」


 思わずツッコミを入れてしまった。

 いや、そこまで言ったんだったら言おうぜ。あの名言を。


「私は……なんというか…………初めて見たとき…………衝撃だった……かわいい……」


 桜乃さんは桜乃さんですごい乙女の顔をし始める。

 それはもう恋をした少女みたいに頬染めてうっとりと……。

 すごいな黒鞠さんとやら、ここまでの大物たちが尊敬するというのだ。

 俺も帰ったら見てみよう。


「うむ……なんというか我は黒鞠ちゃんがからかわれているのを見て、我もこんな配信にしたいと思ったな……あの空気感を素で作り出せるのは正直凄いと思うぞ。なぜ日の目を見ないのか不思議な程である」


 すげぇ……なんか分析しているんですけど……。これがプロ意識が高いと言うやつか……。

 クロアさんは配信に文字通り命をかけているんだなと素直に思った。

 ふむ、これはますます興味が出てきたな。


 帰ったら絶対見よ(使命感)


 ・みんながそこまで言うなんてな……

 ・見たいぞ

 ・気になってきた

 ・チャンネル登録してきた

 ・ああ……黒鞠さんか……なんか有名人しか登録していないって噂が流れてるけど……

 ・↑それはないでしょ


 俺はチラッと妹の方を見る。

 妹もかなり興奮しているようで、うんうんと首を縦に振っていた。かわいい。


「お兄さん顔にやけてますよ」

「えっ!? す、すみません……」


 大岩さんに言われて見てみると、アバターもかなりにやけていた。

 うおっと、これはなかなか気持ちが悪い。流石にこの顔はイケメンと言えどもダメだろう。


 ・草

 ・なんだその顔wwwww

 ・にやけ面初めて見たゾ

 ・何見てにやけてんですかねぇ……? 


「いや……妹を……」


 ・ええ……? 

 ・シスコンにも程がある……

 ・ゆうゆう、顔赤くなってそう


「はは、実際赤くなってますよ」


 大岩さんが爆弾を投下する。

 あっ……この流れ……。


 ・草

 ・草

 ・危ない兄妹

 ・事案? 

 ・秩序……乱してる……? 

 ・風紀乱れてんなぁ? 

 ・兄妹で……ヤベェよヤベェよ……


 クッソ! 案の定コメントが爆速で流れていきやがる! 


 その後、この配信の切り抜き動画が大量に作られたことはご愛嬌であった。


 一応その後、配信は自身のパートナーの一番可愛いところを言っていき、吹っ切れた俺はかなり熱弁したので、最終的に妹は茹で蛸になっていた。

 しかし、凄いのは後の三人。


 トライアングル全体のライバーの良いところ一個づつ言った完全無敵ママ(男)


 冬花旭の可愛いところを、いつもならゆっくりとした喋りでいたのに、急に早口になる桜乃さん。


 同棲の話が生々しすぎて、ガチ疑惑が出たクロアさん。


 しかし……! 


「私はBLは確かに生々しいのは好きなんですけど、やはり、純愛系を軸にストーリー展開が素晴らしいBLが大好きで、最終的に障害を乗り越えた二人が苦節の上に結ばれるという展開が大好きなんですよ……! しかし……地雷が一つだけあって……それが死ネタで……推しキャラを勝手に殺すな(ry」


「「「「やべえ」」」」


 不用意にBLの話を振ったら止まらなくなってしまったショタ(腐女子)が一番ヤベー奴として評価を受け、配信は終了した。


 ────


「さて……」


 今日の配信がなんとか終わり、家に帰りようやく一息ついた頃だった。

 一応ギャラも貰って財布も潤ったので俺のキャラが完全なるシスコンとなってしまった以外はOKだ。


 それと今日の配信で出てきた黒鞠コロン。あれだけ多勢の人が絶賛していたんだ。気になるに決まっている。

 俺は黒鞠コロンと調べ、配信のページに行く。どうやら丁度配信をやっていたようだ。


 かなり盛況しているみたいで、同接が一万に行っていた。


『んにゃははははは! 今日はいっぱい人来てて楽しいにゃ──!』


 ・調子に乗るなおばさん

 ・どうせ一時の盛り上がりで、この先本性が分かって登録者は減る

 ・可愛いです! 

 ・↑何も知らない視聴者め……楽しんで生きたまえ……! 


『おい! 変な事教えんな! 私は可愛いんだよ! 後、お姉さん! ぶちとばすぞわれ』


 ・「にゃ」忘れてんぞ

 ・キャラを守れ

 ・調子に乗るなゲップおばさん


『変なあだ名つけんにゃ!? おばさんはまだいいけど! ゲップつけたらそれはただの悪口にゃ!』


 ・おばさんはいいのか……

 ・やばい……なんだろう癖になる……

 ・やーい語尾にゃんゲップおばさーん! 


『信じられにゃい……これが同接一万人の民度にゃ……』


 ・お前の深層心理やぞ

 ・リスナーは配信者に似るってあれ程……

 ・調子のんなおばさん


『あばぁぁぁぁぁぁぁぁ!?? お・ね・え・さ・ん! にゃ! ぶちとばすぞわれ!』


 さて……ここまで配信を見たわけだが……。

 この声……どっかで聞いたことがある。いや、確実に聞いている。それも結構馴染み深い声だった。

 俺は震える手で、スマホを取り出す……。


 いや、そんな訳がない……。だって……! 


『40歳前半の女性が語尾に「にゃん」をつけて猫耳美少女アバターでアイドル配信をしている』なんて……! 


 俺は……! 絶対に信じない! 

 確かにあの人は口癖が『ぶちとばすぞわれ』だ。だけど、そんなのは偶然だ。


 俺は震える指で、お姉さん。本名「草鞠冴(くさまりさえ)」の携帯に通話をかけた。

 これで……! 全てがわかるはず……! 


『ピロン♪』


 配信の画面から電話のかかってきた音が聞こえる。

 俺は思わず、スマホを床に落としてしまう。


 ……バカな……こんな事が……! 


『んにゃっは!? ああ……なんだ……甥かぁ……』


 ・草

 ・甥……? 

 ・やはりおばさん……? 

 ・おばさんじゃねーか! 


『んがぁああああ! もう配信やめる! お疲れ! にゃん!』


 配信が終わった後、俺のスマホが通話画面に切り替わる。

 俺は恐る恐る、スマホを拾い耳に当てた。


「んん、どうした純? なんか用か?」

「…………黒鞠コロン」

「…………!??!?!?」

「説明を……してもらいましょうか……お姉さん?」

「…………」


 地獄の夜が今始まる。


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