十二話「保護者会配信(2)」
「お兄さん、挨拶を……!」
「はっ! すみません!」
そうだ呆けている場合ではない。今は生配信中なのだから、しっかりしなくては!
「は、始めまして! えーっと……兄です! よろしきゅ…………噛んじゃった……」
俺は緊張と困惑と驚愕のあまり舌を噛み痛さに悶える。
畜生……最初っから醜態晒しちまった……!
俺の目の前に出されているイケメンのアバターが俺がしかめっ面をしたら、悲しそうな表情を浮かべてしまっていた。
俺は、反応が怖くなり、チラリとコメント欄を見たら
・かわいい
・かわいい
・は? かわいい
・もうこれ女の子だろ
・お姉ちゃんだった可能性が微レ存?
なんてコメントが流れていくのが見える。
いや、かわのさんと違って、アバターも男だし、声も男だからお姉さんな訳ねぇだろ。
いや、かわのさんも男だけどさ……ええ? ちょっと困惑してきた。
俺が困惑した頭を捻りながら、少し収録現場を見渡す。
すると、少し離れた所に萌香が座っており、俺と目が合った。
萌香は俺と目が合うや否や、両手で拳を作り、グッとする。
『がんばって!』
そう妹の声が聞こえたと思った。
よし、やってやる。
それと隣に座っているイケメンは誰ですか、後で俺に言いなさい。お兄ちゃん心配。
「すみません、緊張してしまって。改めまして兄です。妹がいつもお世話になってます」
俺は画面に反映されないのに、画面に向かって深くお辞儀をする。
これはいつも妹を支えてくれるファンへの感謝だ。ありがとう。妹を救ってくれて。
俺が挨拶を終えるとかわのさんと同じように拍手が起こる。
一人、萌香がすごい勢いで拍手しているのを見て、少し笑った。
「はい、拍手の勢いで分かるかと思いますが、幽香さんも来ております」
・888888
・お兄ちゃん──!
・今日は立場逆転だねぇ
・なんか、遠くからめちゃくちゃ拍手してる音聞こえて草
・ゆうゆうは見学だぞ!!
大岩さんのアバターであるショタの男の子が笑顔で司会を続ける。
桜乃さんに続き、クロアさんの自己紹介も終わり、妹の隣に座っているイケメンが同じく見学に来ている宵闇ノ響さんだそうだ。
リアルでもイケメン系女子なんだな……。
さて、未だかわのさんに慣れないまま進んじゃったけど、これどうしよう。
ヘッドホンから聞こえてくる声と、隣から男の声が聞こえてくるせいで、非常に混乱しているのだが。
どうやら、かわのさんはバ美肉というものらしい。詳しくは知らない。いつのまにか妹がカンペみたいなの持ってて、『ママはそういう人なの!』って書いてあった。
いつのまにカンペ持たされてんだ。
「さて、一番最初は質問コーナーですね。リスナーの皆さまから届きました質問をいくつか読み上げさせていただきます。ではまず一つ目! 『ここ最近で嬉しかった事は?』です。まあ、お兄さんもおりますし無難なものからいきましょう」
質問が出たと同時にかわのさんが手をあげる。
「お兄ちゃんに会えたことかなっ」
「ぶふっ!!!???」
なんちゅうこと言ってんだ! この人! きゃぴっからのウインクしてんじゃねぇよ! アバターが可愛いのに、中身見えてるせいで台無しだよ!
・草
・草
・お兄ちゃん荒ぶってて草
・on……♂
「ありがとうございます」
大岩さんが急に目をキラキラさせて、拝みながらかわのさんにお辞儀をする。
待って、今すぐそのキラキラした目を止めなさい。怖いですよ。今後の付き合いを考えなければなりませんよ?
「は、はは……えーっと……どうしたらいいですかね?」
俺は思わず、隣の桜乃さんに助けを求める。ちなみにクロアさんは盛大に笑って、妹はとんでもない顔した瞬間、椅子から立ち響さんに抑えられていた。
「えっと…………そうですね……私は旭ちゃんに……ママって言ってもらえた事……かな」
おお、さすがプロだ。この状況にも関わらず、てぇてぇ話をぶっ込んできたぞ。これはコメントもてぇてぇで溢れているに違いない。
・いつもの
・知ってた
・精神年齢5歳。旭ちゃん
フユバナアサヒ 待って
・周知の事実やぞ
・やはり幼女
そうだったのか……なんか聞いちゃいけないものを聞いた気がしたな……。
というよりいつものことって、どれだけ旭さんは桜乃さんに甘えてるんだ。
「そうじゃのぉ……我は、響と同棲しとるんじゃが……たまたま響が前に我が食べたいと言っていたスイーツを買って来てくれての、それが一番嬉しかったわ」
・これが本当のてぇてぇだよ
・同棲……!? 同棲と言ったか!?
・シェアルームじゃなくて同棲だぞ
・切り抜き
響さんが奥の方で頭を照れながら掻いていた。その横で妹が茶化すように肘でツンツンしている。おいおい、妹がいつのまにか初対面と思しき人と馴染んでるぞ……。イケメンか!? イケメンだからか!?
おっと、響さんは女の人だった。
「お兄さんは何かありますか?」
「ああ、俺は……妹が笑ってる事ですかね」
・妹思い……
・お兄ちゃん……
・やはり俺と結婚するしか……
・くそっ! 俺が貰ってやるしかないか!
・ゆうゆう! 俺にお兄ちゃんを下さい!
なんでコイツらはすぐに俺と結婚したがるんだ。俺は妹さえそばにいてくれたらそれでいいんだよ。
誰とも結婚する気ねぇよ……。
「いやぁ、いいですねぇ……てぇてぇですね……ちなみに僕は好きなBLがはちゃめちゃにエッチだった事です」
「えっ、それ後で教えてもらっていいですか?」
「いいですよぉ! さて、次の質問ですが」
・いいのか
・流すな
・お兄ちゃん……?
・草
・このショタとイケメン……
「次は『好きなもの』です!」
「娘たち」
「妹」
「あんぱん」
「ツインヘッドシャーク」
「はい! 即答でした! 私……僕はもちろんBL!」
・早い!
・クロアちゃんの癖がすごい!
・ええ……
・さくのん……あんぱんって……もっと他にあったでしょ……
「あんぱん……あれがないと生きてけない……糖分……」
それから皆が次々に繰り出される質問に答えていく中で、俺は場をなんとか繋いでいき、ようやく最後の質問になった。
「さて、これで最後の質問です『ここ最近ハマっているVは?』お兄さんは照美さん以外でお願いします!」
「ぐっ! てるみん以外ほとんど見てないです……」
「あー、我の最近ハマってるVかぁ……」
「うーん、私も一人思いついているんですけど、個人の方なんですよねぇ」
「…………私も……」
全員が全員、頭を捻り出す。
個人のVか……そういや、俺は個人さんには殆ど触れていないな。妹はどうなんだろうか……とふと、妹に目線をやると、興奮したようにカンペを持っていた。
うん? 何々? 黒鞠コロン? へーそんな人がいるんだなぁ。
俺がジッと見ていたので、みんなも気になったのか、萌香の方へ全員目線を送る。
そして、かわのさんも桜乃さんもクロアさんも驚愕したような顔になる。
ん? どうしたんだ? みんなビックリして
「はー、まさかこんな偶然が起こるとはのぉ」
「え? もしかしてクロアちゃんも?」
「…………あ……二人とも……その反応だと同じ人だね…………」
なんなのだろうか、三人とも目を合わせて。
「それでは一斉にどうぞ!」
「「「黒鞠コロンさん」」」
・誰?
・誰?
・えっ……まさかの! 誰?
・誰も知らなくて草