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異世界転移!? 禁忌《チート》☆兵器  作者: 虹村 萌前
第四章 ダイモニアを目指して。
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第三十一話 或る日の夕食。

【旅のつぶやき】

―ローレルのつぶやき―

よく、無意識にしていたことを、「あざとい」って言われるんだよね。そうすると、何となく、意識的にもあざとくしてやるっ♪ って気持ちになるんだよね。それで、気がついたら、どこまでが無意識なのか、わかんなくなってるんだー。えへへ。

トモザネ君にも言われたいなー。「あざとい」って。

「いいじゃないの、ちょっとくらい。ね? 一回だけ、一回だけだから。」

「嫌だ! 絶対に嫌だ! 私はお姉ちゃんのために……!」


 アンドレイヌから旅立って初日、今日は森の中で夜を越そうというときに、夕食の料理担当が、どうにもなかなか決まらない。

 いや、料理の出来る人間が二人いる時点で選択肢は二つ発生するわけで、リリが夕食を、正確にはチェリの食事を作りたがるのも、なんとなくわかっていたことだったのだが、てっきりローレルさんが譲ってくれるものとばかり思っていた。

 でもなぜか、そうはならなかったようだ。

 そんなこんなで、もうすぐ日も暮れるという時に、まだ言い争っている。


「そもそもローレルさんは、どうしてそんなにも料理が作りたいの?」


 二人の会話に進展が見えないので、とりあえず俺の疑問を投げ込んでみる。

 ローレルさんは、割と融通の聞く人だと思うから、今反抗しているのも何か理由があってのことだとは思うのだが、その理由とやらの見当がどうにもつかないのだ。


「僕はみんなと違って、戦闘ではあまり活躍できないからね。自分の得意なことくらいは活かしたいんだ。……それに、リリ君の料理も美味しいけれど、多分僕の方が上手だよ?」


 やっぱり本心が見えない。確かに、ローレルさんはこの中で一番料理が上手い。でも、リリの料理も美味しいし、いつものローレルさんならそんな風にいうことはないと思うんだけど……


「それでも、私はお姉ちゃんに、自分の料理を食べて欲しい。」

「僕の方が美味しく作れるのに?」


 そう問い詰めるローレルさんの、キツい言葉づかいは、本心でないように感じる。だとすると、どうしてそんなに……


「そうだ。」


 一切動じないリリの一言で、張り詰めた会話が膠着する。

 辺りに残るのは、どうしようもない沈黙。

 どこかから聞こえてくる虫の声は、前の世界の、秋のものと似ている。なんだか、妙に心が安らぐ。

 そこらの茂みから聞こえてくる物音は、小動物のものだろうか。直接姿を見ることはあまりないが、それらは前の世界のそれと似ているのだろうか。いや、そもそも前の世界では、身近にそんなのがいるような生活は送っていなかったな。

 しばらくの間、重い空気が流れた後、それはチェリによって搔き消された。


「うーん、よくわかんないけど、私はリリの料理好きだよ?」


 チェリの発言と同時に、リリが堪えきれない程の幸福感の濁流が押し寄せたかのような、実に、実に幸せそうな様子になる。


「……ほ、ほんとに!?」

「うん。なんか、美味しいのもそうなんだけど、落ち着く味っていうか……」

「あーはは、それじゃあもう、僕の出る幕は無いね。」

「お姉ちゃんが……私の料理を……好き……好き……っ! ねえ、ほんとにほんとにほんとなの!?」


 さっきまで仏頂面だった人間が、満面も満面、百二十パーセントの、ふやけた笑みに、大変身。

 あぁあ、リリってば、もう完全にお姉ちゃん大好きモードに入っている。いやぁ、このパターンも、だんだん見慣れてきたな。


「だーから、本当だってさ! それより早くご飯作ってよ。」


 ゔ、確かに俺も、腹の虫がきゅうきゅうと疼きだしている。というか、この体になってからというものの、妙にお腹の減りが早いような……

 体は小さくなったはずなのに、前の自分二人分くらいは食べてしまう。身体能力が上がって気になんないだけで、実は体重が凄いことになってたらどうしよ。この世界では、今のところ、体重計は見かけていないけれど、これからも遭遇しないことを願う。



 *



「わぁお。流石、あれだけ上機嫌で作っていただけあって、すっごい美味しいね。僕は、君の料理好きだよ?」


 火を囲んで、リリの作ったシチューを、美味しそうに食べるローレルさんからは、先ほどまで、それを作ることを阻止しようとしていた、など、全く、疑うことすらできない。


「それはどうも。でも私は、あなたからそんな言葉をもらっても、ちっとも嬉しくないの。大体、そんなこと言うなら、どうしてさっき、あんなことを言ったんだ。」

「んー、気分かな?」


 リリの質問を、ローレルさんは、笑って受け流す。


「でもまあ、自分に正直なリリ君は、結構カッコよかったよ。」


 焚火に赤く照らされた、ローレルさんの笑顔は、とっても楽しそうで、


「はぁ……。やっぱり私は、お前が嫌いだよ。だいったい、その『君』付けはなんなんだぁ? 『君』付けはぁ?」


 あっそれ俺も思ってた!……と口に出したいところだが、リリの美味しいシチューが、口に詰まっているので、残念、会話に参加できない。


「あっそれ私も思ってた!」


 ぐぬぬ……チェリめ。小さい頃から食べるのが遅くって、いっつもこう、会話に参加できないってことがあるんだよな。でも、その弊害が、ここでまで出てくるとは。前よりは早くなったんだけど、食べる量も多くなっちゃったからなぁ……


「二人とも、よくぞ気づいてくれました。実は、これはですねぇ……!」

「やっぱりいい。なんか、面倒な気がする。」

「そ、そんなこと言わずに、聞いてってば。」


 ローレルさんが、リリの肩をゆする。


「仕方ない。話すことを許そう。」


 なんだろう、無表情のリリが、やけに楽しく見える。

 それは、火に充てられてぼぅっとしている、俺の見間違いだろうか。それとも……


「これはだねぇ! なんか博識っぽいからだよ!」

「「…………。」」


 火を囲んで、またまた沈黙が流れる。

 でもなんだか、さっきより楽しい。相変わらず無表情なリリの顔も、呆れた、と笑っているように見える。

 ……あ、チェリが苦手な人参、柔らかくしてある。

なんかもう、リリが主人公でいいんじゃないかなって思ってます。

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