第三十話 聞いていなかった
【旅のしおり】
―光魔法―
他の属性に比べて効率的な直接攻撃魔法が極端に少ない光魔法は、代わりに直接攻撃以外の魔法として使われることが多い。
また、光に対してであればかなり応用が効き、カモフラージュからホログラムまで、それなりの魔法使いならお手の物である。
「ふぅ……これで特訓も最後だけれど、どうだった?」
出発する日の朝。
僕と師匠はいつもの場所で、最後の特訓をした。
「えっと……なんだか、この数日で自分が格段に強くなった気がします。」
冷たく澄んだ空気が肺を刺す。運動後の熱い熱い体には、とても心地いい。
「そうね。君は数値としてはほとんど変わらないけれど、その振るい方をだいぶ身につけたから、実戦の能力としてはかなり強くなったわ。」
て言っても、基礎の基礎しか教えられなかったけどね。と付け足して無邪気に笑う師匠は、初めて会った時よりもずっとずっと頼もしく見える。
「とは言え、君の数値を存分に活かすにはまだまだ技術が足りないけどね。数値としてはあなたの三分の二の力もない私に全然かなわないところをみると、伸びしろだらけって感じね。」
師匠の言葉を聞いているとき、突如一つの違和感が俺の脳裏をかすめる。
確かに、俺の異常に高いステータスの割にあまりにも今まで強くなかった。
でも、それなら何で……
「何で今まで、ほとんど暴走しなかったんだろう……」
今まで俺は、一度暴走した後魔法が使えるようになったのは、俺が魔法を使うのに慣れたからだと思っていた。または、俺は今話している言語のように魔法も思い出すように会得でき、それを思い出したからだと。
いや、実際それも正しくはあるだろう。しかし、一度あれほどの暴走を起こしていながら、それ以降暴走の影も形もない……それだけならまだしも、身体能力もずいぶんと高いのだから暴走しそうなものだが、そんなことは起きないどころか、考えたのも今が初めてだ。それを説明するには、何かが欠けている。
「……確かに不思議だね。まるで誰かが制御してくれているような……でも、『思い出した』で説明できないこともないっていうところが厄介ね。」
「そもそも何で僕は、どうして思い出したように言葉や魔法が使えるんでしょうか……」
*
「えー、もう行っちゃうの?」
荷物をもった僕ら三人……じゃなかった。四人を、モモさんたちが玄関まで見送りに来てくれる。
「私ももうちょっと長く居たかったんだけどねー。」
「これ以上長くいると、出発するのが惜しくなるでしょ? 特にお姉ちゃんは。」
正論だ。でもちょっと妬いているようにも見えるのは、気のせいかな……まあいいや。
「確かに……チェリはモモさんも師匠も大好きだからな。」
「だいじょーぶ。既に惜しいから。」
「おい、だいじょーぶじゃねーじゃねーか。」
胸を張るチェリに即座にツッコミを入れる。
こんな調子で旅に出れるのかな。
「惜しいけど……ちゃんと旅には出るよ。私ももうお姉ちゃん離れしないと、妹は守れないからね!」
「ゔぅ……チェリが成長していて、お姉ちゃんうれしい。リリもまた一段としっかりして、安心してチェリを任せられるわ。」
「うん。お姉ちゃんは絶対に私が守る。」
そう誓うリリの目は良く澄んで、左隣のチェリをしっかり掴んでいた。
「ちょっとまって……なんで私が守られることになってるの!?」
*
そんなこんなで出発し、とりあえず外壁の門を目指し歩く。
アンドレイヌはソプロシュヌよりも大きな街なので、外に行くのもちょっと時間がかかる。
「そういえば、なんでローレルさんってついてきてるの?」
そういうことで街を歩いている間、チェリがポツリと呟いた。
「え、今更? てかチェリは、ローレルさんが旅について行くって話聞いてなかったの?」
言われてみれば出かける前にその会話は一切していなかったかもな……
でも、てっきり全員に話が回っているものだとばかり思っていた。
「え!? ついてくるの!? 初耳ー。でもなんでー?」
「なんでってそりゃあ……」
なんでだっけ。そういえば肝腎のそこを聞いていなかった気がする。
確か付いて来るって話を聞いたときは確かローレルさんの年の話にそれて……あれ? どうなったんだっけ?
「楽しそうだって思ったからね。ダメかな?」
そう首をかしげるローレルさんの髪は、旗だらけの住宅街に差し込む朝の光に煌めいている。
「いいけど……ローレルさんって戦えるの?」
「んー、まあ援護くらいなら。属性が光だから、直接攻撃するのは難しいけどね。」
へー、ローレルさんって光属性なんだ。
光魔法ってあんまり見たことないけど、どんなのなんだろ。前にソレイユさんが言ってた望遠は光魔法っぽいけど……あ、もしかして、前に見たローレルさんのホログラムもそうなのかな?
「それに、戦闘はともかくとしてご飯は作れるよ。というか、あそこの家ではいつも僕が料理をしているのさ。」
「へー。確かにお姉ちゃんの味ではないと思ってたけど、ローレルさんが作ってたんだー。あの料理すっごい美味しかったから嬉しいな。」
と、チェリは無邪気に笑う……のと同時に俺の隣のシェフが邪気たっぷりの嫉妬オーラを出しているのはどうするべきか。
「というか、料理担当のローレルさんが抜けて、あの家大丈夫なのか?」
とりあえず話をそらす。まあ、これもかなり気になるところではあるのだが。
「あー、それなら大丈夫だよ。モモさんも料理できるから。」
「へー、そうなんだ。」
料理できる人多いなぁ……とか思っていると、少し遠くに門が見えてきた。
「それじゃあ、改めてよろしく。」
ローレルさんは軽やかにステップを踏んで前に出ると、朝日を受けて手を差し出した。
「よろしくお願いします。」
「よろしくですー。」
「一応、よろしく。お姉ちゃんの分の食事は私が作るけど。」
僕としてはまだ疑念は残るけれど。
こうして旅の、仲間……としておこう。が、また一人増えたのでした。
どうも。最近小説の構想ばかり進んで文章化が追いつかない現象に名称はないのかな? とか思って生きている虹村萌前です。
もう本編だけ数えても三十話目ということで、自分にしては随分続いたなぁと思いつつも、前書きと後書きのネタがないことに嘆いています。今も前書きの内容をひねり出そうとしていますが、サボっていたらそういうことです。
ネタがないので今日はここまで。ごきげんよう。





