第二十六話 理解できない。
【旅のしおり】
―ローレル家―
ローレル、ロマリン、モモの住む家。モモが来る前は兄妹二人で暮らしていた。
木造二階建ての一軒家。知り合いに安値で譲ってもらったものらしい。
二階は各自の自室や物置、一階は改装されており、居間やキッチンに加えてローレルの占い店がある。
三人で住むには少し大きいが、知実達が来てからは逆に部屋が足りなくなり、リリとチェリは同室になっている。
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「どうゆうこと?……励ましてくれって?」
リリはベッドに腰かけたまま俯き、固まっている。
「モモ姉とな、……喧嘩をしようと思ってる。」
「はぁ……?」
うーん、ただの姉妹喧嘩か?
なんでまたそれで、リリが俺に励ましを求めるんだ?
「モモ姉はさ、私がお姉ちゃんをただの姉として見ていると思ってるんだ。そしてそれを望んでるんだ。」
リリは両手でベッドのシーツを、上の前歯で下唇を、同時にキュっと締める。
「でも私は……私にとってのお姉ちゃんはそれ以上なんだ!……なのに……なのに……」
声が震えている。
「でもお姉ちゃんはモモ姉のこと大好きで……私、どうしたらいいか……」
チェリ以外には仏教面ばかり向けていたあのリリが、いまここで泣きそうになっているのだ。
「それで……俺に何ができるんだ?」
リリが悩んでいるのはわかった。十分にわかった。解決してやりたいとも思った。
だが問題はそこだ。俺に何ができる?
「お前、言ったよな。お姉ちゃんのことが好きな私が好きだって。」
「……ああ、確かに。」
不思議なことを聞く。
チェリのことを好いているリリは、他のリリより幾千倍も眩しく見えた。確かに俺はそれが『好き』だ。
だが、それとリリの姉妹喧嘩との関連性が掴めない。
「私は自分の想いを認めて欲しい。そのためにモモ姉と戦いたい。……でもそれだけじゃあ足りない。私を動かすには、私の気持ちだけじゃあ不足しているんだ。」
「……だから一時的に、俺を行動原理の一部にする。そういうことか?」
俺はリリの、何とも情けなさそうな表情を見ながら聞き返す。
「ああ。お前はただ、私にお姉ちゃんを好きでいて欲しい、と。そのためにモモ姉と決闘をしてくれ、と。そう言ってさえくれればいい。」
話はわかった。
だが……正直、理解できない。
自分を動かすのに、自分以外の承認が要るだなんて。
俺には理解できない。が、
「わかったよ。」
断る理由はない。
それでリリの想いの到達に一役買うことができるのなら、喜んで手伝おう。
「俺はリリにチェリを好きでいて欲しい。そのためにモモさんと決闘をしても構わない。」
俺はリリの目をじっと見つめてしっかりと言う。
リリは口を動かし、
「……ありがとう。」
と、声にならない声を呟いているようである。
「……それに、他に俺ができることがあれば言ってくれ。今回のことに限らずな。」
*
翌日早朝。
姉妹喧嘩……というには真剣な、決闘が行われた。
結果は接戦の上、リリの勝利。
ハンディもあり、属性的に不利でもあったとはいえ、妹に負けてしまったモモさんは悔しそうに振舞っていた。
けれど同時に、とても嬉しそうだった。
なお、事の発端であるチェリは、リリの要望により何も知らないままである。
「あれ? リリ、この頬の傷って昨日までなかったよね。」
「あ、や……ちょっと今朝転んじゃって。」
「リリがドジ踏むなんて珍しいね。治癒しようか?」
「いや、そんな大した傷じゃないって。」
「リリはもっと自分を大事にしなきゃだーめ。ね、もっとちゃんと見せて。」
リリの傷にかざしたチェリの手が、紅柴色に光る。
「はい、おわり。」
手が取り払われた後のリリの肌には、あったはずの傷が無くなっていた。
「他には? 痛むところは?」
「えっと……お腹の脇と背中と膝と……」
「えぇ、そんなに転んだの? まあいいや、とりあえず傷見せて。ほら服脱いで。」
「ち、ちょっとお姉ちゃん!? 部屋でやろうよ部屋で! トモザネもいるし!」
リリが服を脱がそうとするチェリを静止する。
「トモザネ?……あ、ホントだ。トモザネがいるの忘れてた。」
俺も忘れてた。
「ううん、完全に気配を消したつもりだったんだけど……じゃあ俺も支度してくるから、三十分後に出発ね。」
「わかった! じゃあリリ、私の部屋行こ。」
「うん。」
そう言ってチェリ手をつないで一階を後にするリリは、昨日までよりずっと眩しく見えた。
お久しぶりです。虹村萌前です。……すいません。
しばらく投稿を休んでると、どう書けばいいのかわからなくなりますね。今度から気をつけます。
そういえば、この小説のメインヒロインはリリということでいいですかね。一番掘り下げているキャラですし。
主人公に一切の恋愛感情を見せないメインヒロインは違和感がある気がしますが、まるで義務のように主人公を好きになられても違和感ありますからね。
随分間が空いてしまいましたが、今度からは気を付けます。多分。
最後に。もしこの小説を少しでも面白いと思ったならば、ブクマ、評価、感想等お願いします。モチベーションは投稿ペースにほぼ直結します。