EX.lr…-1 十八.五話 運ばせて
――林檎の少年とその一行は、今日も無事に着々とアンドレイヌへの道を進むのでした。――
声……といっていいのだろうか。僕の中に、言葉が伝わってくる。
「今日もありがとうございます、天使様。」
形あるものなど何も存在しない空間。
そんな世界で僕は、現実で知り得ない事実を仕入れる。
――愛の天使は個人からの感謝など必要ないのでした。
愛の天使は全ての人間を、無償に、無限に、平等に、ただ愛するのです。
ハーフエルフの男に関わるのも、ただ人間への愛ゆえに、林檎の少年に革命をしてもらいたいだけなのでした。――
「そうですか。それでも、ありがとう。」
――そして愛の天使はハーフエルフの男に別れを告げ、彼の世界から帰っていくのでした。――
*
今日は何事もなさそうでよかったよ……
まったく、この前は心配したのだからね。
「お義兄さん今起きてるー?」
扉の外から声が聞こえる。
「今起きたところだよ。」
さて、朝ごはんは何にしようかな。
*
「うん。やっぱりお義兄さんのご飯は美味しいや。」
「そんなことはないと思うのだけれど。ところで、ロマリンはどうしたの?」
「朝稽古に行ってるの。あまり無理はしてほしくないんだけど、あの子が自分でやると決めたことだから。」
朝稽古か……
森を出てから体力づくりはしていたけれど、モモさんと暮らすようになってからは拍車がかかっている気がする。
「そうか……こんなにも朝早くから……」
「もうすぐ帰って来ると思うんだけどね。」
無理をしていないといいのだが……
「やっぱり、兄としては可愛い妹が心配?」
「まあ、ね。僕もロマリンの行動を制限するつもりはないのだけれど、あの子は無理をしすぎてしまうことがあるから。」
「そうよねぇ……うん、うん。心配よ、心配。」
「可愛い子には旅をさせよだなんて言うけれど、このままでは独り立ちなど不安でね。モモさんがあの子を見てくれると安心だよ。」
「ちょっと!これじゃあ私が二人に育てられてるじゃないの!」
いつの間にか部屋に入っていた銀髪の少女、ロマリンは抗議の叫びを上げる。
「自己管理くらい自分ででーきーまーすー!そこまで子供じゃないもん!」
「ああ、ごめんロマ。あとおかえり。」
「さあ、ロマリンも食べなよ。」
「わ!お兄ちゃんの朝ごはん大好き!」
確かに妹は年齢的にはそれほど子供ではない。
なのだが、ハーフエルフ故に年より幼く見えるのに加えて、言動や表情が少し子供らしく、見た目にも噛み合っているためなのか、いつもついそういう扱いをしてしまう。
「あら、ロマったら私からお義兄さんの朝食に乗り換えるの!?私悲しい……」
モモさんがわざとらしく悲しがる。
「え?い、いや大好きってそういうことじゃなくてモモのことは大大大好きでえっとその……」
そんな演技でも僕の妹は引っかかる。
だから心配されるんだよ。
「朝からロマの愛の愛の言葉をもらって、今日もいい一日になりそう!」
「え?ぅえ?!」
うん。確かに平和な一日になりそうだ。
「それでお義兄さん。妹たちは?」
「ああ、無事に旅を進めているようだよ。この間一度トモザネ君……同行している男の子ね、が危なかったけど、ちょうどお客さんが通りかかったから助けに行ってもらったんだ。」
「なるほどねえ。いやー会うのが楽しみだなー!おっきくなってるかな。」
「ヒューマンの成長は早いからねー。」
トモザネ君……僕を天使に、運命に運ばせてくれた人。
僕も会うのが楽しみだよ。
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