EX.llcl-2 十六.五話 向こうの国に
「ねえ、お姉ちゃん?」
「なぁに?、リリ。」
洞窟の中、リリの持ってくれている明かりを頼りに、魔物を叩いて倒しながら進む。
リリは私の死角の魔物の存在を教えてくれたり、魔法で狙撃してくれたりして、とても戦いやすい。
魔物が少なくなってきて、ちょっと余裕が出てきたあたりで、リリがふと話しかけてきた。
「あのさ……トモザネ居なくない?」
「え?……あ、ホントだ!なんで気づかなかったんだろう。いつから?」
そう、私たちは三人で旅に入ったんだった。リリと二人の戦闘が安定しすぎてか、気付かなかった。
「うーん、いつからだろう?私もさっき気づいたばかりだから……まあ、アイツ影が薄いとこあるし……」
「探さないと!」
洞窟で一人なんて、危険すぎる。一刻も早く……
「まって、お姉ちゃん。トモザネの実力なら大抵の魔物は処理できる。それから外れるような強い魔物は、私が察知できてたはず。それでもトモザネがいなくなったのなら、多分トラップにかかったのだと思う。」
焦っていた私を、リリが静止してくれる。
そうだ。リリはいつも冷静にものを考えて、私を助けてくれるんだ。
「よかった、魔物に連れ去られたりしてなくて。」
「魔物の作るトラップは侵入を防ぐためだから、閉じ込められたらそれ以上のことにはならないと思う。」
本当によかった。
私は誰も、死なせちゃだめだから。
「でもどうやって探そうか……アイツの声が聞こえないところをみると、仲間に感づかれないようになってるだろうから、罠の痕跡も少ないだろうし……」
「でも、リリなら魔力の気配とか探れるんじゃないの?」
魔法使いは魔力を多少察知できるらしいけど、リリはその感覚が結構つよいのだそうだ。
トモザネの魔力は結構強いみたいだから、大まかな位置は把握できると思うのだけど……
「それがやってみたけど気配が薄くて見分けが……まって、てことは遠くにいるってことだから……落とし穴か。」
「おー、リリ頭いい!」
さっきからリリはすごいな……
私だけだったら、こんなことできなかった。
「でも、やっぱり探す方法が見つからないや。でもとりあえず、来た道を引き返してみよう。少しでも罠の痕跡があるかもしれないから。」
*
「わあ、お日様だぁ……」
外に出る。
さっきまで来た道に、確認できるほどの罠の痕跡がなかったということだ。
「うーん、どうしよ……」
打つ手なし、かな。
「こ、こんにちは、お嬢さんたち。何かお困りかな?……ねぇ、これでいいのか?うん、完璧だよ。」
上空に通りかかった人が声をかけてくる。
風の魔法使いさん、かな?
地面に降りてきた。
私たちより少し年上に見える男の子。
……そして、その両腕にはトモザネよりも小柄な少年が抱えられて眠っている。
「俺たちはちょうどいい魔具を持っていてな、代わりにこの国の貨幣が欲しい。数日分だけでいいんだ。……僕らの持っている他のものも、渡せる限りなら見合う分だけ要求してかまわないよ。」
この人、声色と一人称を使い分けて、まるで一人で二人分演じているみたい……
「この国の、と言うからには異国から来たのか?」
「ああそうだ。俺たちはダイモニアから来た。人を探していてな。」
「え、本当!?私たちも、向こうの国に行こうとしてるんだよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
「まあな。だから、あなた達の硬貨も要求したい。その分の金は払うよ。」
「オーケー。交渉成立!だな?……そうだね。」
その人はダイモニアの紙幣と方位磁針のような魔具を渡し、リリの硬貨を受け取ると、
「こいつは探し人を思い浮かべながら周を三回なぞると起動するんだ。……あ、対象の変更はできないからねー。それと、僕たち密入国だから、ここで出会ったことはヒ・ミ・ツ。」
と言ってまた飛んで行ってしまった。
この世界には不思議な人も結構いると思う。私の知る限りでもちょいちょいいる。
けれど、あの人……達?はその中でも飛びぬけて奇妙な部類に入る存在であるような、そんな気がした。