EX.slmm-2 十一.五話 いーこ、いーこ。
トモザネ君達を見送りながら、私はソレイユの手を握る。
それは私の小さな手を包み込んでくれて、暖かくて。
でも一度離すと何処かへ行ってしまいそうで、時々不安になる。
この子は、私のことを想ってくれている。
私も、この子のことをいつも想っている。
でも、私のそれはこの子のものとは……
「なあ、ミモザ。この後どこかでお昼でも食べないか?」
ソレイユは優しい声で問いかける。
その声を聞くだけで、心が安らぐような、騒ぐような……
嗚呼、ソレイユ。私は……
私は彼女の手を軽く引っ張った後、彼女の頭上まで浮き、握っていない左の方の手で頭を撫でた。
「な、なんだよいきなり……」
この子は一度恨み、殴ろうとした相手に、しっかりと魔石を返したのだ。
いーこ、いーこ。
私はそう心で唱えながら、出来るだけ優しく撫で続ける。
彼女の頬が少し紅潮してくる。
彼女の心も暖かくなる。
「ミモザ……ちょっと……恥ずかしいかも。こんなところで……」
けれども彼女に、あの感情は見えない。
*
記憶が美化されているだけかもしれないけれど、あの森でこの子に初めて会ったあの日、あの時から既に、私の胸に確信めいた予感があったように思う。
気がついたら、私の心はこの子でいっぱいだった。
この子に会う前の私は空っぽで、その頃のことはもうほとんど覚えていなくて。
私はきっと、この子に出会って初めて生まれたのだ。
「何がいい?ここのメニューは挿絵がついているから、自由に選んでくれ。」
そう言ってソレイユは、自分の読んでいない方のメニューを渡す。
ざっと見る限り、パスタにピザにチキンにローストビーフ、それからパイにパルフェに、それに黄色いライスに、……生の魚の切身?あと何だろうこの茶色い……シチュー?
うーん、何でもありのお店みたいだ。
「……お、ここのカルボナーラ、チーズの量を指定できるみたいだな。……ん?ミモザ、それ気になるのか?辛くないのもあるようだし、口に合うかもしれない。頼んでみるか?」
へえ、このシチューは本来辛いんだ。香辛料とか入れてるのかな?ちょっと高いし。
とりあえず辛くないのをとお願いしておく。
「それでさ、ミモザ。アガペンの街に珍しい魔法道具があるという話だけど……って、ミモザ。そんな心配そうな目で見ないでおくれよ。私の好きに生きて欲しいとでも言いたいのだろうけれど、これも私の好きなことなのだから。」
うーん、本当かな。
嘘を言っている感じはしないけれど、この子のことだから、自分でも気づかないうちに自分を押さえ込んでいるのかも知れないし……
「本当だとも。それに、アガペンでないにしても、旅行には行ってみたいしね。」
私も、あなたとまた旅に出かけるのは楽しいと思うけどね。
「まあ、なにもすぐにではないさ。そのうち、近いうちに。」
もしも。
もしもその珍しい魔具とやらで私が少しの間だけ言葉を取り戻したとして、私はなんと伝えればよいのだろう。
この気持ちを伝えたとして、あの子はどう思うだろう。
果たしてあの子も、私と同じ感情を得てくれるのだろうか?
果たして私は、それで救われるのだろうか?
そう考えると不安で、やはりこの感情はしまい込むしかないのだという思いが強くなる。
でもやっぱりこの感情は、私をじりじりと追い込んでいく。
なぜでしょうか。本編よりもおまけ回の方が筆が乗ります。
それに、自分で読んでて本編よりも出来が良い気がするのは気のせいでしょうか?
ちなみに、ミモザとソレイユは本編にはしばらく出てこない予定です。
というか、ミモザとソレイユでスピンオフ作品を書いてもいいかもしれません。結構設定考えてますし。





