第二十話 十分なんだよ!
とりあえず一度距離を置き、魔法を喰らわせよう。
「炎・電撃!」
「シィァ˝ァ˝ァ˝ッ……」
大毒蛇に当たった閃光は、炎に変わってその身を襲い、その断末魔が響く。
合成魔法というらしい。
魔法を放つ際、複数の属性を混ぜることにより、最大出力を上げることが出来る。
ただ、そうなると必ずどちらか一方は非適性属性となり魔力効率が落ちるため、普通は相乗効果や特殊効果を狙ってか、相当魔力に自身のある実力者でない限りめったに使わないそうだ。
だが、俺の適性属性は二つだ。
リリからチラッと話を聞いていただけだったので使えるかは賭けだったのだが、どうやらうまくいったらしい。良かった。
「でやぁ!」
蒸発する蛇を背にし、リリに渾身のドヤ顔を向ける。
「はいはい、先を急ぎましょうねー。」
しかしながらリリは全く気にもしない様子で先を行く。
「ちょっとくらい何か反応してくれたっていいじゃない!」
「しーるーか。」
むぅ。
「ちぇりー。リリが冷たいんだけどー。」
とりあえずチェリに応援を求めてみる。
「トモザネだからじゃない?私に対してはもっと素直だもん。もしかして、逆に好かれてるんじゃない?」
あ、こいつホント鈍k……天然だな。
「そんなことは絶対ない。」
振り返って否定するリリの目は本当に嫌そうで、それこそ氷ついたようであった。
いや、そこまで否定されると流石に傷つくのだけと。
にしても、これがアニメのツンデレヒロインだったら慌ててわかりやすく噛みながら否定していたところだったろうが、異世界に来ようが現実は現実。そう甘くはない。
というか、そもそもそんなテンプレ人間など存在しないだろう。
「チェリ。リリが君に素直なのは、多分君だからだよ。リリはチェリのこと大好きだから。」
「え?そなの?」
そなの?って……
「そそそ、しょんなことにゃい!!」
リリは、慌ててわかりやすく噛みながら否定した。
「トモザネ、リリ違うって言ってるよ?」
ホントにこいつは……
*
「あっ!見えてきたよ、アンドレイヌ!」
歩き始めて八日目。
道もかなり踏み固められたものになり、他の通行者ともすれ違うようになってきた。
そういえばすれ違うのは大抵馬車などの乗り物で、歩行者はほぼ皆無だったが、徒歩での旅は珍しのだろうか?宿場町もほとんどなかったし。
そしてやっと、川沿いの少し遠くに壁が現れる。
「やっとふかふかのベッドで眠れるよ……」
八日間歩き詰めだったのだ。チート級のステータスでも、疲れるものは疲れる。
それに、精神的にキツいイベントもあったしな……
「まってお姉ちゃん!勝手に先行かないでよー。」
とりあえず、部屋に入ったらゆっくりしよう。うん、決めた。
「ああそうだ、お前忘れているかもしれないが……」
少し離れた場所から、リリが声を出して話して何か話しかけてくる。
町の壁はもう結構近づいていた。
やっと、ゆっくりできる!
「街の外壁の周りは、魔物が多いから気をつけろ。」
「シャァ!」
視界の右側から、黒い何か飛び出して来た。
宙に浮く大きな胴に、気味悪く動く長い八本の足……
「いゃぁぁあ!でっかいクモぐぁああ!やだやだ!爆発!」
対象に見合わない大きさの爆発と爆風が、平たい野原を揺らす。
どっかいけどっかいけどっかいけ!
虫はもう十分なんだよ!
二十話達成したぞーー!やたーー!
どうも、虹村萌前です。
ちなみに、同時に三万字も達成しました。
そういえば、十分とか大人気とか、読みがややこしいのはルビをふっていますが、サブタイトルにはできないのでややっこいままです。