第十八話 恥ずかしいのだけど……
「わあ、本当に溶けてるぅ……」
チェリが俺の口内を、まじまじと見つめながら呟く。
「あんまり見られると、恥ずかしいのだけど……」
石は、やはり口の中で溶けた。
「確かに本当みたいだな……どうなってるんだ?」
「すごいすごい!ねえ、リリもやってみて!」
「わかった、お姉ちゃん!」
うん?昼には即答で拒否してたような……
チェリには甘いんだな。と思っていると、本当に魔石を口に含みだした。
「駄目だ、全然溶けないよ。」
チェリが昼にとってきた魔石は大きすぎたらしく、ろれつが回っていない。
「え……おかしいな……」
「ケホッ、ケホッ……お前どんな手品使ったんだよ。」
「いや、だから手品じゃないんだって!」
*
風が吹いた。
とても、心地いい風。
初めて出会ったのではないような気がするほどに、懐かしい風。
「もうすぐ川が見えて来る。そこを上ればアンドレイヌだ。」
ソプロシュヌの街を出て、もう六日になる。
以前なら連日歩き付けなんて耐えられずに動けなくなっていただろうが、この体は見かけによらず丈夫なようで、このいい天気の下、のどかな草原を楽しみつつある。
変わらないと思っていた景色も、草花や地面、遠くの山の角度と少しづつ新しくなっている。
これに気づかずに退屈して、巨大な虫で精神をもぎ取られた人間もいるそうだが、まったくそいつは愚かだ。
「ねえ、リリ。またアレやらない?」
「え゛?」
蘇る記憶。
うじゃうじゃ動く足、細かく分かれる目、気味悪く開き糸を引く口……
ゔぅ……思い出すだけで頭が……
「お姉ちゃん。すでに予定より結構遅れてるから、ちょっと急ぎたいの。どっかの誰かさんが簡易的なトラップに引っかからなければもう少し時間があったんだけどなぁ……」
ほっ……。
どうやら地獄の十時間も、少しは意味があったらしい。
「お前なぁ。あの時俺がどれだけ大変だったか……」
そういえば、旅に出てからはますます元の体との勝手の違いを感じる。
それは高い身体能力に始まり、お腹の減り具合が違うのまでそうだ。
というか、そもそも俺はなぜこの体に?……
まあよくわからないけど、あれだろう、転生ってやつだ。ウェブ小説出身ラノベが原作のアニメとか観てるとよく出てくる。俺に自分が死んだ覚えはないが、覚えがないだけかもしれないし、死ななくても転生……といっていいのかわからないがそれに近い何かが起きたのかもしれない。
元の世界の創作物なんてあてにしていいのかという問題はあるが、実際に魔法やらエルフやら、俺の知っている異世界像との共通点は滅茶苦茶多いので、可能性はあると思う。うん。
とりあえず、せっかく外見含めて高ステータスになったんだし、異世界ライフを満喫しよう、と今更ながらに思うのであった。
……でも何か、誰か足りない気がするんだよな。
*
うーん、また情報制御に綻びか。
まあ、それだけ僕のことを想ってくれているということなのだから、うれしいのだけれど。
そういえばトモ君も気づいていたようだけど、さっきの風……