第十七話 なんか勝手に
「お前、本当に頭おかしくなったのか?」
ちょっとした岩山を登りながら、昨日のことを掘り返される。
「そうだよ。いくらちょっと放置されてたからって、魔石を食べるだなんて。」
リリは嘲るように、チェリは心配するように聞いてくる。双子だというのに反応が百八十度違うな。
「いや、本当に極限状態だったんだって!そしたら魔石くらい食べるだろ!?」
残念な人にされそうなので、全力で同意を求める。
「いや、食べない。」
「さすがにその発想は……ないと思う。」
えぇっ……
「というかそもそも、そんなもの飲み込めないだろ。どうやって食べたんだ?」
リリが奇妙なことを聞く。
「口に入れたら溶けたけど?」
「は?」
「え?」
当たり前じゃないか。こいつ魔石食べたことないのか?と思ったが、そうか、ないのか。
「ああ、もしかして魔石を食べた人間がこの世で俺だけだから、俺だけが知る事実的な?」
「いや、そうだとしても流石におかしいだろ、普通に考えて。色々とブッ飛び過ぎている。童話か何かかよ。」
いや、俺にとっては魔法があること自体、十二分にメルヘンやファンタジーみたくブッ飛んでいるのだが。
「本当に溶けたんだって。なんならリリが試してみなよ。」
「嫌。」
「えぇ、それじゃあチェリに……」
「殺すぞ。」
そう言うリリは、うわ、ホントにさっきに満ちた目をしている。
「本当に魔石を食べて魔力が補充できたとして、聖職者であるお姉ちゃんには有害だ。」
ああ、確かに前に聖職者は魔法が使えないって言ってたな。なんかこう、反発しあう関係なのだろうか。
「ねーねー、トモザネ。これは?美味しそう?」
いつの間にか魔物を倒していたチェリが、その魔石をゆらゆらさせてこちらに見せてくる。
「いや、食べないからな?あの時は仕方なかっただけだし、美味しいとも感じなかったからな?」
「えー。そっかぁ。」
これは嫌味だろうか。それとも天然なんだろうか。
こそっとリリに聞いてみると、
「お姉ちゃんに限ってわざとということはない。純粋なんだよ。なんて清らかな……」
要するにアホの子ってことか。と、頭では思ったが、言葉にしたらその口が削がれそうだ。
*
そのまま特に何事もなく、当然狭い空間に十時間放置されることもなく、山を越えたふもとの森で野宿となった。
いやぁ、平和が一番。平和大好き。
「あ、言っとくがお前の分はないからな。自分の腰に下げてる食糧でも食っておけ。」
夕食のいい匂いを嗅いでいると、リリが嫌味にそう言ってくる。
「いや、お前らいつまでそのネタでイジるんだよ。ワンパターン過ぎ。もう飽きた。」
「そんな態度だと本当に飯抜くぞ。」
リリが睨んでくる。多分、チェリも一緒に貶すような言い方をしたのがお気に召さなかったのだろう。
「本当に申し訳ございませんでした。これからはこのような無礼二度と無きよう……」
とりあえず謝る。
「よし、それじゃあこれからは私らに絶対服従だ!お姉ちゃん、なんか命令して。」
なんか勝手に舎弟化された。流石に絶対服従は冗談だろうし、夕食代わりに魔石を食べるだなんて嫌なので、従っておこう。
「え?私?」
まあ、チェリなら良心的な命令しかしないだろう。
「じゃあ、もう一回魔石食べてるとこ見せて。」
「…………。」
結局食べんじゃねぇか!
後書きが面倒だったり、後書きが無性に書きたくなったりする、どうも虹村萌前です。
前書きでちょっとした設定解説みたいなことをするか迷っていますが、どうですかね。
そういえば、今回でプロローグ、おまけ回を合計した二十話目になります。本当の二十話ももうすぐです。