第一話 どこだここ!?
「……君。僕は…っと、…と……に………らね。……」
……………!……
*
「…………」
目を開くと、見知らぬ天井。
「……ここ…は……」
どうやら俺は、民家か何かの一室の、ベッドに寝ているようであった。
粘土壁に、加工の少ない木材でできた床。家財などは私の寝ているベッド以外は白い百合が一輪乗っている小さな机のみで、生活感は感じない。
「……どこだここ!?」
ついさっきまで自室にいたはずの俺に、驚きがやや遅れ気味にやってきて、つい大声を出してしまう。それを聞きつけたのか、扉から人が入ってきた。
「おうおう、起きてる起きてる。」
十四、五才程の少女。西洋の童話に出てきそうな紺のワンピースと白のエプロンを着て、綺麗な金髪は短く切られている。染めたような色ではないが、外国人だろうか。そういえば部屋も西洋風だし、話している言葉も日本語ではなく、聞いたことのない言語だ。
……聞いたことのないはずの言語だが聞き取れる。なんだか話せる気もしてきた。まったく不思議なことばかりだ。
「ここは、どこですか?」
お、話せた。
「ここは私と姉の住む家だ。お前はそこらの裏路地で倒れて寝ていたところを、世界一慈悲深く素晴らしい私の姉にありがたく拾われたんだよ。その寛大さに感謝しろ。」
こいつ、やけに命令口調で、ドヤ顔までしてきやがる。
だいたい姉の話なのになんでお前が自慢げなんだよ。
「そして、意識が戻ったなら早く帰れ。私とお姉ちゃんの甘々な同棲生活にお前は邪魔だ。」
「えっと、助けてくださったことには感謝します。ですが、私の記憶が飛んでしまっているようで、ここがどこかも分からず、帰ることが出来ないのです。」
「そうか。じゃあそこらで死ね。街はずれに丁度いい崖がある。」
は?
「あぁ、だが姉には見つからないように。素晴らしく優しき我が姉は、貴様のような者が死んだだけでも悲しんでしまう。」
こいつ、自分の言っていることがさも普通なことのように単調に話しやがる。
流石の俺もちょっと怒る。いや、結構怒る。色々とわけがわからなくて、混乱しているからかもしれないが。
「いや、流石にいきなり死ねってのはいくら助けてくれた恩人にでも言われてほっとけるような言葉じゃあ……」
普段人に対して起こることの無い俺が、久しぶりに本気で怒ろうとしたその時、
「……りり? ここにいるの?……ってその人起きてるじゃない!」
部屋にもう一人入って来た。
「ああ、ちー姉。おかえりー。あと愛してる。」
「ええと、あなたが私を助けてくださったという……」
ちー姉と呼ばれたその少女は、さっきまでのシスコンと瓜二つだ。ただ、こちらの髪はやや長く、後ろで結ばれている。
「チェリです。そっちは双子の妹のリリ。」
やはり外国人だろうか?
「私は林知実です。助けていただき本当にありがとうございました。ですが、倒れる前の記憶が飛んでまして……あの、ここは何処なんでしょうか。」
「ソプロシュヌです。」
「ソプ……ロ……聞いたことのない街ですね。」
「ソプロシュヌを知らない……外国の人? その割には言葉が流暢な気がするけど……」
「あの、この国の名前は?」
「ヴィヴリニアだけど。あなたはどこから?」
「ヴィヴリニア……また聞いたことのない地名だ。私は日本から来ました。」
「え? 日本って……あの日本? 失礼ですが、本気で言ってるんですか?」
安心してください、妹さんに比べれば大抵の失礼は失礼じゃないですよ。それにしても気になる反応だ。
「日本ってあの、『異世界書記』に書かれていた架空の異世界の、架空の国じゃないですか。」
どういうことだ?……
日本が……異世界の……架空の国?
……どこだここ!?