第十六話 ろくでもないことを、思いついてしまった。
「リリシェフ、今日の朝食は?」
「何だ?その呼び方。ムカつく。」
どちらかというと褒めたつもりだったのに、リリには不評だったらしい。
「とりあえず昨日の残りがあるから、豚……猪汁といったところだな。」
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朝早くから四時間半ほど歩くと森を抜け、再び開けた草原に差しかかる。そこをまたしばらく歩くと、露出した岩場の目立つ凸凹とした地形になる。
「ねえリリ、あそこの崖の洞窟……」
「寄り道していると、アンドレイヌに着かなくなるよ、お姉ちゃん。」
「えー、ちょっとくらいいいじゃない。ね?」
そう言ってチェリは後ろからリリにくっつき、肩の奥から顔を覗き込む。
「わ、わかった。行こう。」
良いのかよ。というかチェリは天然なのか?
「ああそうだ。この前買った魔具のトーチを試したいから、お前は着火だけしてくれ。」
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「別に、灯はそんなに魔力使わないし、俺がつけてても良くなかったか?」
まだ洞窟に入って数分だが、外の光はもう感じられず、リリのもつトーチを便りに進む。
「魔物の中には魔法の気配を察知ヤツもいる。だが、これはそれをしにくくできる。そのほうが安心だ。」
「えー。だったら魔物が来たほうがいいじゃない。」
「お姉ちゃん。開けた場所ならまだしも、洞窟の中で大量の魔物が出たら、お姉ちゃんやコイツでも対処しきれないよ。だからだぁめ。」
「うぅ……わかったよ、リリ。」
「ああそう、お姉ちゃん。魔物によっては洞窟にトラップを作るやつもいるから……」
突如、二人の声が遠のく。
足元から地面の感覚が消え去り、重力に従って下へと引かれるままになる。
「痛っ……!」
声を出す間もなく地面と衝突し、足に衝撃が走る。
二、三十メートルは落ちただろう。その割に平気なのは、多分ステータスのせいだろう。
「うう……入口も塞がってるし、合流しに行くのは無理かなぁ……」
変に動いても迷いそうだし、そもそも周りは全部岩で塞がってるし、それを壊そうにも下手に魔法を打って埋まるのは嫌だし……
しばらくここで待機かぁ……
まさに八方塞がりだな。頑張らないと。
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五分経過。
早くも岩ばかりの景色は見飽きた。
まあ、その予想は大体ついていたので、ここまで灯を使わなかった。ここで明かりをつければ、景色が変わって少しは退屈しのぎになるという寸法だ。
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十五分経過。
明るいのも飽きた。暗いのより二倍も持ったんだ。大したもんだ。
どうしよう。他にすることがない。
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三十分経過。
眠くなってきた。
こういう状況で寝るのって、多分絶対ダメだよな?目を閉じたら最後最後、寒さで凍えて、二度と開かなくなってる流れだよな?
まあ寒いわけではないし、ステータスのこともあるし、少しくらい……
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三時間経過。
空腹に起こされた。
かと言って食料は全部チェリとリリが持っているし、どうしたものか……
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六時間経過。
お腹が空いて頭がどうにかなりそうだ。
前は一日や二日食べ物を抜いても平気だったのに。体が変わったせいだろうか?
というか、チェリ達ちゃんと来てくれるよな?
まあでも、空腹感が大きいせいでそんな不安も広がらずに済む。
つらい。
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十時間経過。
ろくでもないことを思いついてしまった。
今、腰につけている巾着袋。その中に入っているのは小さな魔石だ。決して豆の類を乾燥させた保存食か何かなんてことはありはしない。
それなのに、なぜかその魔石を食べてしまおうという思い付きが、頭にへばりついて離れない。
少しだけ……
暴走した欲求を抑えきれず、魔石を口に放り込む。
石は以外にも口の中で溶けて消え、体の中の何かが満たされる。
でも、それは空腹感ではない。
確か、魔石は固形化した魔力。なるほど、魔石は俺に吸収されたのか。
それにしては、魔石の大きさの割に魔力が多く回復しているような……
とりあえず、もう一個試して見るか。食べた気分にはならなくもないし、気晴らしにもなるし……
「トモザネ!助けに来たよっ!……って、何食べてんの!?おなか壊すよ!?」
知実君はちょいちょい内面の可愛さを見せる感じで書こうとしていますが、うまく書けているかは不安です。
というか、この小説の登場人物は大抵可愛くしようと思っています。男性キャラ含めて。