第十五話 いつの間にか
いつの間にか俺は、幹に空洞の出来た巨大樹の前に来ていた。
「おお、いい感じ。今日はここに泊まろう……といいたいとこだけど、まさか先客がいるとは。」
洞への入口の前は、周りの景色を全く無視するように、ネオンライトのようなもの(良く見ると中に光の粒が詰まっていた。魔具の一種だろう。)で飾り付けられていた。
『ローレルの占い店へようこそ』
「なんかすっごい装飾だね。」
「占い店?……こんなところにか?」
「それこそ、エルフが経営しているかもな。流石に店に入って襲われることはないだろうが。」
中に入ると、外装ほど際立った装飾もなく、ただ部屋の真ん中に机と水晶玉がポツリと置いてあった。
「ようこそロズ君!!僕の占い屋さんに!!」
「わっ…………!」
いきなり水晶玉から小さな人間が飛び出した。
驚いた。驚いてのけ反り、転んでしまった。
「ああ、驚かせてしまったかな。待っていたよ、ロズ君。それともトモザネ君かな?」
尻が痛い。
とりあえず起き上がり、スモールスケールの人間を見る。
良く見るとこれは、魔法か何かで投影されたものだ。少し透けている。出てきた男性は美形で、リリ達より鮮やかな金髪をしている。そして耳が長く、尖がっている。本当にエルフの店だったみたいだ。
「ロズ?……私は知実ですけど。さっきから私の名前を呼んでいたのはあなたですか?」
というか、なぜ俺の名前を?そういえば、さっきは「トモザネ」とは違う名前で呼ばれていた気がするし……
「なるほど、自覚はないのか。僕はローレル。入口の看板見たよね?占い店を営んでるんだ。僕は君を占わなければならない。だから、直接僕に会いに来て欲しいんだ。」
やや中性的な、そして美しい声。
聞き入っていると、リリが「いくつかいいか?」と質問をする。
「まず、お前はなぜ私たちがここに来るとわかった?なぜこいつの名前を知っている?それに、占わなければならないとはどういう意味だ?」
「全部占いさ。または予言?お告げ?大体そんな感じだよ。僕がトモザネ君を占うのは運命なんだよ。」
ローレルは目を合わせてくる。とても優しい目。
「いまいち胡散臭いな。」
「えっと、直接会うってどこに行けばいいのですか?」
「ああそう、そこの二人にも伝言を頼まれていてね。チェリさん、リリさん、お姉さんが会いたがっていたよ。僕もその近くに住んでいる。」
この人、俺だけじゃなくチェリやリリのことも知ってるのか。
「それも占いか?」
「いいや、伝言さ。お姉さんからね。」
「モモ姉を知ってるの!もしかしてお姉ちゃんの恋人って……」
「その兄さ。よろしくね。」
「…………。」
チェリ達に、姉?
「いまいち状況がつかめないんだけど、二人にはもう一人姉がいるの?」
「うん。モモ姉って言って、凄く綺麗だし、凄く頭良いし、凄く……」
「凄く厄介な人だ。」
ため息交じりにリリがそう言い放つ。身内にそこまで言わなくても……でもまあ、家族間だといろいろあるのかな?チェリは気に入ってるみたいだけど。……もしかして、だから?
「えっと、そのお姉さんっていうのはどこに住んでるの?」
「…………アンドレイヌだ。その湖の方に、恋人と暮らしているらしい。」
リリは随分と嫌そうにそう言う。
「え、じゃあ今度寄ればいいじゃないか。」
「そうだよ、リリ。」
「……わかった、予定変更だ。アンドレイヌではモモ姉の家にも寄ろう。」
「やったー!」
「ありがとう、リリさん。お姉さんも喜ぶよ。」
とりあえず、うまくいったみたいだ。
「それじゃあ皆さん、また今度会いましょう。」
「ああ、待って。今日ここ泊まっていいですか?」
「あ、そうだった。そう思って色々置いといたんだ。詳しくはそこのカーテンを開けてね。じゃーねー。」
魔法で投影されたローレルは、水晶に吸い込まれて消えた。
タイトル縛りを続けるのが辛かったので十話ごとに変えることにしたものの、今度はタイトル縛りを考えるのが辛くなった虹村萌前です。どうも。
タイトル縛り辞めようかな……
そうそう、活動報告でも言いましたが、この度ESN大賞に応募しました。私なんかが出ていい土俵なのか迷いましたが、それは私が決めることでもないと思ったので思い切りました。