第十二話 逃げたい。
「へえ。壁の外って言っても、意外と魔物もたくさんはいないもんなんだな。」
「魔物の出現率はその時その場所によってムラが結構ある。街の周りは特に出やすい。」
「なるほど。」
確かに、ソプロシュヌの街はもう遠い。
草や土が荷車に踏み荒らされて出来たらしい道を進んでから、もう三時間は経っている。
「なあ、そろそろ休憩しないか?」
「もうか?お前、ステータスの割にバテるの早いなー。」
「いや、体力的には大丈夫なんだけど、ずっと変わり映えしない道を歩いてると参っちゃってさ。」
清々しく青い空には、白い雲が浮かぶ。
絶好の旅日和だろう。だが、この景色は歩き始めてから変わり映えなく続いている。飽き飽きするほどに。
「ああ、それなら灯を高出力で打ち上げてみろ。」
「え?、ああ、わかった。灯!」
眩い炎が上空へ昇り、より一層光りながら弾ける。
「おー、トモザネ!気が聞くじゃないの!」
「えっとぉ、どういたしまし、て?」
ん?まって、なんでチェリに感謝されたんだ?
「なあ、リリ?これってどういう……」
……ブウウウン……
なんだ?羽音?
「おおっ!キタキターーー!」
音のする方を向いてみると、
「うわっ、キモっ!」
目を赤く光らせた巨大なハエの群れが、上空からこちらに近づいていた。
「走光性ってあるよな?夜中に虫とかが明かりに集まるやつだ。魔物の中にはそんなような習性があるものもいるんだが、中でもここら辺の餓蠅は魔法による照明だけを見分けて、昼夜問わず襲ってくる。」
こいつっ……淡々と解説しやがってっ!
「リリ、お前最初から俺をハメるために……」
「お前が退屈してるって言うから、アドバイスをしてやったんだろうが。ほら、あっちでお姉ちゃんと一緒にはしゃいできたらどうだ?」
チェリは腰に左手を当て、餓蠅に向かって右手を掲げ、どーんとこい!といった様子である。
「てか、空の敵なんてどうやって倒すんだよ。チェリって遠距離攻撃ないだろ。まさか飛べるわけじゃあないだろうに。」
「お姉ちゃんを舐めないでください。あれくらい跳びますよ。あ、いってるそばから……」
「跳躍の加護!」
チェリは上空の餓蠅に向かって跳び上がり、殴っては足場にして次のハエを叩いていく。
「ほら、お前も迎撃しろ。」
「いや、あんな動いてる敵撃ち落とせないって!ましてチェリに当たらないようにしなきゃだし……」
「なら、お前も向こう行けばいいだろ。」
「向こうって……空中?無理だよそんな……」
「足元に小規模の爆発魔法を撃てば、爆風で昇れるだろ。」
「なるほど……リリ、お前意外と頭いいな!」
「お前、口の聞き方は見直した方がいいぞ。だが、これは私のアイデアじゃあない。……そう、知り合いがやってたんだ。」
爆発魔法にそんな使い道があったとはな……なんだか試してみたくなった。
「小爆発!」
詠唱と共に足元に熱を感じ、体が上空に浮き上がって風を切り進む。
旅に出る前、空き家からの帰りに落としてしまったという俺の靴を新調するとき、どうせなら火鼠の皮を使うようにアドバイスされたが、リリはこれを見越していたのかもしれない。
羽音が近づくとともに巨大なハエとの距離も縮まり、徐々にその外観の細部、とげとげとした足の先、幾つにも別れた赤い目玉まで見えるようになっていく……
「キモいキモいキモい!無理無理無理!」
なにこれ。なんでこうなってるんだっけ。逃げたい。
小説を書いていますが、読者、視聴者としてはアニメ派です。
なので、アニメ化を夢に見たりします。夢のまた夢ですが。禁忌○郎とか呼ばれるのが私の夢なんです。
実現しなさそうな夢は、語るだけ黒歴史になってしまいますが、黒歴史を恐れては小説は書けません。多分。