第十一話 独りでも
「では、行こうか。」
壁外への門の前。リリがそう言うと、今から旅に出るのだという実感がふつふつと沸いてくる。
元の世界へ帰るために、この世界を冒険するのだ。
それと、旅の間にいっぱい魔物を倒して、この世界で独りでも生きてけるくらいにならないと。
「おーい、知実君。」
いきなり呼び止められた。
声のするほうへ振り向くと、見覚えのある鎧を着た女性と、見覚えのある羽を付けた少女。
「ソレイユさんに、ミモザさん?」
チェリが不思議そうにソレイユを見て、
「ああ、先日の剣士さんですか。」
と、納得する。
「この前渡し忘れたものがあってね。これ、君が倒した魔物の。」
ソレイユは、大きめの皮の巾着袋を差し出す。
中を開けると、小さな紫色の石が沢山詰め込まれている。
「これ……」
「お前の倒した魔物だ。」
「倒したって、この前の巨大火球?いや、いいですよ。危険な目にも合わせてしまったんですし……」
というか、あんなに怒ってたのにこれはこれでちゃんと渡すんだな。受付さんが『騎士』とか読んでたけど、案外、義とかを重んじる人なのかもしれない。
「お前の手柄だ。受け取れ。」
「えっと、では。お言葉に甘えて。ありがとうございます。」
「ああ、それと、その様子だと旅に出るのだろう?」
「ええ、まあ。」
「体には気をつけろよ。たぶんお前の体はお前だけのものではないから。だよな。」
ミモザが首を縦に降る。浮いているためか胴も軽く揺れ、羽から光が散る。綺麗だ。光魔法の一種だろうか。
「だそうだ。じゃ。」
そう言って二人は去ってしまう。
……俺の体が俺だけの物じゃあない?確かに今の俺の体は元々の体とは違うが、それはあの二人には話してないはず。それに、『だけ』という部分が引っかかる……
まあ、いいか。
「良い人だね。この前殴られそうになったって言ってだけど、結局殴らなかったんでしょ?本気じゃなかったんじゃない?」
「ああ、そんなこと言ってたね。でもあれ、こいつがビビッて意識失ったからでしょ?お前、気絶すんの好きだなぁ。」
そういえば、そうだ。この世界に来てまだ数日だというのに、俺はもう二度も失神している。
「好きで倒れる奴がどこにいるんだよ……まあ、確かに良い人かも知れないけど、俺を殴ろうとした目はマジだったね。ただ、自分じゃなくてミモザちゃんのために怒ってたみたいだから、過保護なんじゃないかな。」
「あれ?、でもあの二人ってどういう関係なんだろう?ミモザちゃんは明らかにヒューマンじゃあないし、姉妹ではないよね。」
確かに、言われてみればそうだな。
「さあ?……俺もよくわからない。」
「とりあえず、出発しよ?お姉ちゃん。」
「そうね。」
門番に目的を伝え、門を開けてもらう。
堀を渡り、最初の一歩を踏み出す。
前に魔物討伐に出たときには感じなかった、高揚感。
これから俺は、冒険に出るのだ。