EX.slmm-1 五.五話 何だよあれ……
「よし、これで三十五体目。」
足元に倒れた不死蜘蛛は蒸発し、魔石となる。
それを拾おうとすると、後ろから肩をつつかれる。
「ミモザ? どうかしたか?」
地面から○・五メートルほど浮いて私と同じ目線に立つ少女、ミモザは、不思議そうな目をして壁の右脇の方を指さす。
「何だよあれ……」
その方向には、直径三十メートルはあろうかという巨大な火球が浮いていた。
「ミモザ、望遠を頼めるか?」
ミモザは頷く。それから直ぐに視界が火球の下、魔法の主がいるであろう場所へ近づく。
これ、ずっとやってると酔うんだよな。早く済ませないと。
「あれは……見たことのない顔だな。でもすごい魔力だ。しかし何のためにあんなところであんな膨大な魔法を……まさか暴走? いやそんな……」
ミモザに魔法を解いてもらう。
魔法の暴走は、使うことがほぼ初めてのような初心者中の初心者にしか起こらないことだが、そもそもそんな初心者は多少暴走したところで大した魔法は出せない。
しかし、あの火球は大きすぎる。
「もし暴走だったら、魔法を引っ込められもしないケースもあるからな……どうすんだよ、あれ。まさかどっかに放ろうってわけじゃあ……」
……ないよな? と思ったら、こっちにじりじり近づいてくる。
「ミモザ、私から離れるな。」
そう言って隣で浮いていたミモザを胸に引き寄せる。
オレンジ色の光の粒を撒きながら近づいてくる彼女は、なぜか安心しきったように笑顔を浮かべている。
「全く。もう少し危機感を持ってくれないと困るんだが。」
そう言うと、私の顔を覗き込んで笑いかけてくる。「でも、また守ってくれるんでしょ?」とでも言いたげだ。
「いや、まあそうだが……頼りすぎは感心しないぞ。」
ミモザはずるい。私も口では言い聞かせたが、正直信頼されているのはうれしい。
地面に剣を突き刺す。
「地壁!」
土が、私たちを囲むような円周に盛り上り、それが頭上で空を閉じて、ドーム状の土の壁ができる。
外から炎の轟音が聞こえても、ミモザはなお楽しそうである。
……全く、かなわないな。
頭を撫でると、ミモザはさらに距離を詰め、私の胸にくっついてくる。羽から出るオレンジ色は、先ほどより明るい気がした。
*
先ほどの火球で、周囲の魔物は殲滅されていた。集めた魔石は後で魔法の主に返してやろう。そして、決めた。同時に一発殴ろう。
ミモザの笑顔は見れたものの、あれはあれでこれはこれだ。あいつを危険な目に遭わせたことに間違いはない。とは言え譲歩して、一発で済ませてやる。
ミモザは反対するだろうな。先に食事をとらせて、その間に行くか。バレた時が怖いが。
そんなことを考えながら、ミモザの小さな手を左手で包みながら、壁へ引き返した。
別視点のおまけ回を、時系列で本編に割り込ませるか、各章の最後にまとめるか、迷いました。今も迷ってます。
本を読んでいると、やっぱりプロの人の文章は素晴らしくて、自分の現在進行形の黒歴史が恥ずかしくなってきます。でも上達するための方法が、量をこなす以外特には見つからないので、やっぱり進行形のままです。これからもどうか、この黒歴史をよろしくお願いします。