EX.llcl-1 ○.五話 なんなんだよ、アイツ。
「リリ! 路地裏で人が倒れてた!」
ある日、ちー姉は帰ってくるなりそう叫んだ。
お姉ちゃんは優しい。それに比べて私は、その優しさが自分以外に向くとき、少し妬いてしまう。嫉妬は罪なのに。
「お姉ちゃん、そういうのは教会に引き渡して放置でいいんだよ。別にお姉ちゃんがかかわらなくたって……」
「私だって聖職者の端くれなんだよ?自分で救える人くらいは自分で救いたいよ。」
「まあ、お姉ちゃんがそう言うなら……」
借家の玄関でお姉ちゃんが抱えているのは、やけに美形の少年。
お姉ちゃんがこの人を助けたのに、純な慈善以外の劣情があったとしたら……そんなことを考えてしまう。
お姉ちゃんに限ってそんなことあるはずないのに。ないよね?
「とりあえず、あたしの部屋のベッドに寝かせてくる。」
「いや、お姉ちゃんの部屋は駄目でしょ。物が多すぎる。」
「まあ確かに、リリの部屋はほとんど物ないけど……」
お姉ちゃんは捨てることを嫌う。実家を出たときは家を移せばマシになるだろうと思ってたけど、何やら収納用の魔具のトランクを買ってきた。それに、この節制の街に来てさらに悪化した気がする。
「でも、そしたら私はどこに寝るの?」
「わ、ホントだ。」
お姉ちゃんは他人のことばかりで、たまに自分のそばのことに目が回らない。
「うーん……私と一緒に寝る? ちょっと狭いけど。」
!?
「ひ、いいよ。」
噛んだ。お姉ちゃんと一緒のベッドに寝るだなんて、数年前までは日常だったし、そのあともたまにする。
それなのに私がびくりとしたのは、私の心によからぬ思いが浮かんだのは、お姉ちゃんが私に向かって「一緒に寝る?」だなんて言葉にして言ったからだろう。
「じゃあ、私寝かせてくるから。リリはあとで荷物私の部屋に移して。」
「わかった、お姉ちゃん。」
そう返事して私は台所に戻る。
そっかあ。お姉ちゃんと一緒の部屋かあ。
でもそれはそれとして、私とおねえちゃんの生活に他の人間が加わるのは、良い気がしない。
口の中が苦い。料理をするには、あまりよくない気分だ。
ホント。なんなんだよ、アイツ。
*
照明を消して、ベッドの上。まだ横になったばかりだが、今夜は眠れる気がしない。
「りり?……」
振り向くと、お姉ちゃんの艶やかな顔が近い。心臓が一度びっくりして、そのまま大騒ぎをし始める。さっきから騒いでたけど、もっと。
「なぁに?……」
眠そうに答える。答えたつもりだ。答えられたよね?
「いつも、ごめんね。私のわがままに付き合わせちゃって。」
「そんなことない。私は、お姉ちゃんは良いことをしてると思うよ。」
でもね、それを良く思っていない私もいるんだ。悪いのは、そんな私。だから、
「だから、謝らないで。」
「ありがと。そういってくれて嬉しい。」
会話がひとまず済むなり、逃げるように向こうを向いてしまう。そして少し経った頃、お姉ちゃんの寝息が聞こえてきたので、恐る恐るまた振り返った。
綺麗な寝顔。
とてもとても……また、胸の高鳴りが増す。
私のこの感情はきっと罪だ。純潔なお姉ちゃんとは似ても似つかない。
だけど……お姉ちゃんはとても綺麗だけど、少し危なっかしい。
お姉ちゃんがあらゆる善のために生きるのならば、私はお姉ちゃんだけのために生きよう。
たとえ、それが罪だとしても。
本来書くつもりはなかった別視点のおまけ話を書いてみたら、思ったより楽しかったので二つ目です。
あくまでおまけ話なので、本編と矛盾した場合は本編が真実です。なるべくそういうことは無いようにしますが。